『旧約聖書』とは何か?「創世記」や「ヨブ記」のあらすじも解説

ヨーロッパの文化・芸術は、「聖書」に書かれた物語や教義を基底として発展してきました。イエス・キリスト誕生以前の物語が書かれた『旧約聖書』のエピソードも、さまざまに表現されています。『旧約聖書』とは何なのでしょうか?

この記事では『旧約聖書』について、その構成・内容とあらすじを解説します。あわせて、『新約聖書』との違いや、旧約聖書の世界を忠実に表現した映画や漫画なども紹介します。ヨーロッパ美術を鑑賞する際の知識としてお役に立てば幸いです。



『旧約聖書』(英語:Old Testament)とは何か?

『旧約聖書』は「ユダヤ教」「キリスト教」「イスラム教」の聖典

『旧約聖書(きゅうやくせいしょ)』とは、ユダヤ教およびキリスト教の聖典です。イスラム教もその一部を聖典としています。

『旧約聖書』は、「天地創造」の物語から始まります。全能の神とイスラエル民族の歴史が展開されるなど、もともとはイスラエル民族の信仰であるユダヤ教の聖典でした。これがのちにキリスト教の聖典に取り込まれ、さらにイスラム教の聖典の一部ともなったのです。

『旧約聖書』の呼称は、イエス・キリストの生涯と教えを綴った『新約聖書』を持つキリスト教の立場からの呼び名で、ユダヤ教では『聖書』と呼びます。

キリスト教は、『旧約聖書』を独自に解釈して取り込み、新たにイエス・キリストの生涯と教えを記した『新約聖書』を作りました。

『旧約聖書』は「ヘブライ語」で書かれた

『旧約聖書』は、古代にパレスチナに住んでいた人々が使用していた「ヘブライ語」で書かれました。聖書に使われたヘブライ語は古典ヘブライ語で、現在使われている現代ヘブライ語とは異なります。

ただし、『旧約聖書』は長い期間にわたって書き継がれたため、途中から当時の中東における共通語だったアラム語の部分が加わりました。イエスが登場する『新約聖書』では、イエスの言葉として両方の言語が使われています。

ローマ帝国時代にはギリシャ語に翻訳され、そこからのちに英語、ドイツ語をはじめとして各国の言語に翻訳されてゆきました。

『旧約聖書』の「作者」は不明

ユダヤ教の聖典としての『聖書』は、長い期間にわたって多くの人々やグループによって書き継がれました。古くは紀元前1100年頃の文献も確認され、多くの部分は紀元前6世紀頃に成立したとされます。しかしその成立過程については詳しいことは判明しておらず、作者も不明です。

『旧約聖書』と『新約聖書』の違いとは?

『旧約聖書』はイエスの誕生以前についての物語や教えが書かれるのに対し、『新約聖書』はイエスの誕生以降の物語や教えが描かれています。その他に両者の違いはあるのでしょうか?

『旧約聖書』と『新約聖書』は「救世主」に対する考え方が違う

『旧約聖書』『新約聖書』の「約」とは、神と人間が結んだ「契約」のことを指します。『旧約聖書』における契約は、神とイスラム教徒の間に結ばれていますが、『新約聖書』においては、神に遣わされたイエス・キリストと、イエスを信じるすべての人との契約です。

ユダヤ教の経典における契約とは、神は選ばれた民であるユダヤ民族に対し、神の言葉であるモーセ五書などに記された律法を守るなら、永遠の王国を与えるとした約束です。やがて一人の救世主(ヘブライ語ではメシア、ギリシャ語ではキリスト)が出現し、約束を遂行することを預言しています。

『旧約聖書』では、イスラエル民族を救う救世主(メシア)の出現を預言するところで終わりますが、そこから続く『新約聖書』では、イエス・キリストが救世主であると宣言しています。『新約聖書』では、ユダヤ教の預言がイエスによって成就されたとする立場を取っているのです。

『旧約聖書』の「構成」と「あらすじ」とは?

次に、『旧約聖書』の構成と、主要な文献のあらすじを紹介します。

「モーセ五書」「歴史書」「文学書」「預言書」から構成される

『旧約聖書』は、ひとつのまとまった物語ではなく、「モーセ五書(律法)」「歴史書」「文学(諸書)」「預言書」の4つの部門からなる全39巻の書から構成されています。

  • 「モーセ五書」:「創世記」から始まり、モーセの伝承と、神との契約が記される
  • 「歴史書」:バビロン捕囚と解放に至るイスラエル民族の歴史
  • 「文学書(諸書)」:知恵や人生訓。「ヨブ記」「箴言(しんげん)」など
  • 「預言書」:歴代の預言者による手記。「イザヤ書」「エレミヤ書」など

「モーセ五書」は預言者モーセが書いたとされる5つの書

モーセ五書は「創世記」「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」からなり、預言者モーセが書いたと信じられています。「レビ記」「民数記」「申命記」は祭祀への規定など律法の書であるため、主要な物語である「創世記」と「出エジプト記」のあらすじを紹介します。

「創世記」のあらすじ

神はまったくの無から天と地と海、光と闇、生き物などを創造します。そして自分の姿に似せたアダムを創り、アダムのあばら骨からエバをつくり、「エデンの園」に住まわせます。

アダムとエバは、禁じられていた木の実を食べてしまい、エデンの園を追われます。アダムとエバ子孫のは繁栄しますが、やがて欲望から堕落します。神は正しい行いをしていたノアとその一族、および動物のつがいをそれぞれ一組だけ助けることにして、大洪水をおこします。

箱舟を作って避難していたノアたちは助かり、ノアの3人の息子たちはパレスチナ人やユダヤ人の祖先となりました。三男のハムは、父ノアを嘲笑して激怒され、ハムの子孫は呪われ、兄たちの子孫の奴隷となると預言されます。このことにより、ハムの子孫であるパレスチナ人は、過酷な運命を背負わされます。

長男セムの子孫は豊かな文明を築きますが、天まで届く「バベルの塔」を建てようとして、神を怒らせます。続いてセムの子孫であるアブラハムの物語が記され、イサク、ヤコブ、ヨセフに続きます。

ヤコブはイスラエル民族の始祖となり、エジプトの宰相となったヨセフは父とイスラエル民族をエジプトに呼び寄せ、ここからイスラエル12部族の始祖が生まれます。

「出エジプト記」のあらすじ

エジプトの宰相だったヨセフのもとには多くのイスラエル民族がやってきましたが、やがて迫害を受けるようになります。神は彼らを救うためにモーセを遣わし、イスラエルの民をカナンに導きます。

モーセはある日、山で神に遭遇して、イスラエルの民が守るべき戒律「十戒」を授かります。十戒を守ることによって、神は民を幸福に導くという約束が結ばれました。しかし人々は十戒を守らなかったため、神の怒りによってカナンの地に入ることができず、苦難の放浪生活を送ります。

40年の放浪のうちにモーセは亡くなり、モーセの後継者ヨシュアとともに民はカナンに侵攻し、都市エリコを攻略します。エリコを契機に次々に都市を攻略して滅ぼし、イスラエルの民はカナンの地に定住します。

その後の物語は「歴史書」に移ります。「歴史書」では、神を忘れた民へ与えられた罰と、その罰から民を救う英雄たちが描かれます。「サムエル記」にはダビデが、「列王記」にはソロモンが登場します。

「文学書」より「ヨブ記」のあらすじを紹介

「文学書」は、「ヨブ記」「詩編」「箴言」「コヘレトへの言葉」「雅歌」からなります。これらは知恵文学と呼ばれ、人生訓や教訓がちりばめられた詩歌集や格言集です。

中でも「ヨブ記」は、ヨブが、神に下された過酷な試練の理不尽を問い、苦悩する物語です。「ヨブ記」は『旧約聖書』の中でも異色の書で、哲学的な問題も提起しており、文学などにも大きな影響を与えました。

「ヨブ記」のあらすじを紹介します。

ヨブは信仰心に篤い正直者で、社会的にも成功して幸せな人生を送っていました。サタンは、ヨブの無償の信仰や無償の愛は、彼が幸福に恵まれているからなのではないかと怪しんで、神の許可を得て、次々と不幸を仕掛けます。

ヨブは原因のわからない不幸や自己により、財産と家族を失ってしまいます。さらに重篤な皮膚病にかかって苦しみます。

三人の友人が苦しむヨブのもとを訪れ、不幸の原因を議論します。友人たちは、神は罪を犯した者に災いを与えるのだから、ヨブは罪を認めるべきだと勧めますが、ヨブは冤罪だと主張します。

ヨブが苦しみの中で神に問いかけると、神は不幸の中にいても自分を信じたヨブをたたえ、健康と財産を与えます。ヨブはその後、幸せに暮らしました。

『旧約聖書』を忠実に表現した絵画・映画・漫画とは?

システィーナ礼拝堂内部

最後に、『旧約聖書』の世界を丸ごと鑑賞できる絵画と、聖書の内容を忠実に表現した映画と漫画作品を紹介します。

バチカン「システィーナ礼拝堂」天井画と壁画は丸ごと『旧約聖書』

ヨーロッパ芸術は、『旧約聖書』をテーマにした作品が数えきれないほどあります。その中でも、丸ごと『旧約聖書』だといえるのがバチカン「システィーナ礼拝堂」のフレスコ画群です。

天井の最上部には、ミケランジェロの『システィーナ礼拝堂天井画』と呼ばれる「創世記」の各場面が描かれています。「創世記」を囲む人物像はキリストの祖先や預言者です。礼拝堂の壁にも「モーセ五書」の各場面が、ボッティチェッリやペルジーノらによって描かれています。

システィーナ礼拝堂の側壁面は、ボッティチェッリら15世紀の画家たちが描き、天井と祭壇壁面は16世紀にミケランジェロが描きました。祭壇側面のミケランジェロの『最後の審判』は、『新約聖書』の最後に記された「ヨハネの黙示録」の場面です。

映画では古典的名作『天地創造』『十戒』が聖書を忠実に描いている

『旧約聖書』の世界観を忠実に表現した映画としては、古典的名作の『天地創造』と『十戒』が挙げられます。『天地創造』は、ジョン・ヒューストン監督の、1966年に公開されたアメリカとイタリアの合作映画です。天地創造に始まり、ノアの箱船やバベルの塔など、聖書のエピソードが忠実に描かれています。

『十戒』は、セシル・B・デミル監督による、1956年に公開されたアメリカ映画です。「出エジプト記」に基づいており、モーセはチャールトン・ヘストンが演じています。紅海が左右に割れ、その間をモーセとエジプトの民が進むシーンは、その後の「出エジプト記」を象徴するイメージとなりました。

漫画では「手塚治虫」と「里中満智子」の作品がエピソードを忠実に表現

『手塚治虫の旧約聖書物語』は、狂言回しとしてキツネが登場しますが、内容は聖書に忠実です。アニメを漫画に編集したものであるため、全編がカラーです。「天地創造」「十戒」「イエスの誕生」の3巻からなります。

里中満智子の『マンガ旧約聖書』も聖書の主要なエピソードを描いた3巻構成です。預言者やイスラエルの王たちが美しく描かれています。

まとめ

『旧約聖書』は、「天地創造」や「モーセの十戒」のエピソードが含まれる「出エジプト記」を中心として、全39巻の書から構成されます。

『新約聖書』はイエス・キリストの生涯を扱ったものですが、『旧約聖書』はイエス・キリスト誕生以前に、ユダヤ教の聖典として書かれたものをキリスト教が聖典として取り入れたものです。

『旧約聖書』に書かれたエピソードの数々は、キリスト教文化圏の中における文芸のテーマとして、さまざまに表現されてきました。ヨーロッパの文化・芸術に触れるとき、聖書の背景を知っておくと、理解が深まります。

とはいえ、その内容は奥深く、分量も多いため、概要をつかむために映画や漫画、やさしく書かれた入門書などから触れてみるのもおすすめです。

■参考記事
『新約聖書』とは?あらすじや名言を解説『旧約聖書』との違いも
「ダビデ」とは?聖書の物語やミケランジェロのダビデ像も解説
「モーセの十戒」とは?キリストの教えとイスラム教との関係も