『新約聖書』とは?あらすじや名言を解説『旧約聖書』との違いも

「受胎告知」「最後の晩餐」などで有名な西洋美術の主題は『新約聖書(英語:New Testament)』からとられています。聖書の世界観は西洋の文化や芸術の基本となっているため、概要を知っていると理解が深まります。

この記事では、西洋文化を理解するために不可欠な『新約聖書』の内容を紹介します。あわせて、『旧約聖書』との違いや、「福音書」に書かれたイエスの名言なども紹介します。

『新約聖書』とは?

『新約聖書』とは”キリスト教”の聖典

『新約聖書』とは、イエス・キリストの弟子たちによって書かれたキリスト教のみの聖典です。キリスト教の聖典である『聖書』は、『旧約聖書』と『新約聖書』から成ります。『旧約聖書』はキリスト教の他に、ユダヤ教とイスラム教の聖典でもあります。

『新約聖書』とは紀元1世紀から2世紀に書かれた

『新約聖書』とは、イエス・キリスト(紀元前6年ないし紀元前4年頃~紀元後30年頃)の死後に弟子たちがまとめた書物です。紀元70年頃からイエスの伝記や使徒の手紙などが書かれるようになり、2世紀の前半にまとめられ、一冊の本として成立しました。

『新約聖書』は「ギリシャ語」で書かれた

イエス・キリストの弟子たちによって著された『新約聖書』は、1世紀当時の地中海世界の共通語であった口語的なギリシャ語で書かれました。

2,3世紀になると、教会ではラテン語が用いられるようになり、5世紀初頭にはラテン語に完訳されました。14世紀に初めて英訳され、マルティン・ルタ-は16世紀にドイツ語に翻訳しました。

日本に初めて聖書がもたらされたのは、フランシスコ・ザビエルが1549年に鹿児島に上陸した時だとされていますが、正確な記録は残っていません。

『新約聖書』と『旧約聖書』の違いとは?

『新約聖書』と『旧約聖書』は”救世主”が違う

『新約聖書』の「新約」とは、イエス・キリストを通して神と人間とに結ばれた「新しい契約」という意味で、『旧約聖書』の「旧約」に対比させた名称です。

『旧約聖書』は、もともとはユダヤ民族と神との間に結ばれた契約が書かれたユダヤ教の経典です。キリスト教が新しい解釈のもとに取り込み、『旧約聖書』と名付けました。

ユダヤ教の教典における契約とは、神は選ばれた民であるユダヤ民族に対し、神の言葉であるモーセ五書などに記された律法を守るなら、永遠の王国を与えるとした約束のことです。やがて一人の救世主(ヘブライ語ではメシア、ギリシャ語ではキリスト)が出現し、約束を遂行することを預言しています。

イエス・キリストを通じて神と人間との間に結ばれた「新しい契約」における契約の相手は、ユダヤ民族だけに限定されるのではなく、イエスを信じるすべての人々が対象です。

『新約聖書』における救世主はイエス・キリスト

『新約聖書』では、イエス・キリストが自らを救世主であると宣言し、ユダヤ教の預言がイエスによって成就されたとする立場を取っています。『旧約聖書』では、ダビデの一族からメシア(救世主)が生まれることを預言するところで終わります。

なお、ユダヤ教は、イエス・キリストが救世主であることを認めていません。

『新約聖書』の「構成」と「内容(あらすじ)」とは?

「福音書・使徒言行録・パウロの書簡・公同書簡・黙示録」から構成される

『新約聖書』は、「福音書・使徒言行録・パウロの書簡・公同書簡・黙示録」に大別される全27巻の書で構成されます。内容は次のとおりです。

  • 「福音書(ふくいんしょ)」
    神からの喜ばしい知らせ(福音)をもたらしたイエスの教えと生涯を記した記録書で、「マタイ福音書」「マルコ福音書」「ルカ福音書」「ヨハネ福音書」の4つから成る。
  • 「使徒言行録(しとげんこうろく)」
    イエスの死後、使徒たちが行った伝道活動を伝えるもの。ペテロとパウロを中心に、初期キリスト教の発展を伝える。ルカが書いたとされる。
  • 「パウロの書簡」
    迫害者からイエスの死後にキリスト教徒に変わったパウロが、伝道をしながら各地の教会に書いた手紙。
  • 「公同書簡(こうどうしょかん)」
    パウロ以外の使徒たちの手による書簡
  • 「黙示録(もくしろく)」
    『新約聖書』内の唯一の預言書「ヨハネの黙示録」。世界の終末、キリストの再臨、最後の審判などが語られる。

「福音書」に記されたイエス・キリストの物語のあらすじ

『新約聖書』の中の福音書に記された、イエス・キリストの生涯は次のとおりです。

パレスチナの北にある、ナザレの村の大工ヨセフとその妻マリアの子として、イエス・キリストが生まれます。成長したイエスはガラリヤ地方で修行ののち伝道を始め、病人を治したり、湖の上を歩くなど数々の奇跡を行いながら、多くの信者を獲得します。

自らを救世主であると宣言したため、イエスはユダヤ教指導者たちから敵視されます。弟子ユダの裏切りによってイエスは捕らえられ、十字架にかけられ処刑されます。

埋葬から3日後にイエスは預言どおり復活し、自らが神の子であることを証明します。その後40日間、弟子たちのもとに現れて神の国について語り、オリーブ山から昇天しました。

「ヨハネの黙示録」のあらすじ

『新約聖書』の最後に収められた「ヨハネの黙示録」は、ギリシャのパトモス島に暮らしていたヨハネが、自らの幻視を預言として語り、地上の国の滅亡と、神の国の到来を示します。

七角七眼の子羊が巻物の封印を解くと、地上で戦争や飢餓などが起こります。続いて七人の天使がラッパを吹くと、さらに激しい災いが起こり、地上の悪が滅びるとともに世界が終末を迎えます。その後イエスと殉教者が支配する王国が千年続いたあと、封印されていたサタンが現れますが、滅ぼされます。

イエスによる最後の審判が行われ、善人は祝福されて神の国へ、悪人は永遠の罰を受けます。新しい天と地が現れます。

『新約聖書』の「名言」と「映画」を紹介

『新約聖書』の名言を「福音書」から紹介

「福音書」に書かれたイエスの名言を紹介します。

■「サタンの誘惑」から(出典:マタイ・マルコ・ルカ福音書)

洗礼を受けたあと、イエスは荒れ野で修行しました。そのときサタンが現れ、空腹なら石をパンに変えればよい、と言うと、イエスはこう答えました。

人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる。

■「山上の垂訓(さんじょうのすいくん)」または「山上の説教」から(出典:マタイ・ルカ福音書)

イエスが12人の弟子と一行に従う人を山に集めてユダヤの律法の解釈を説明する場面では、ことわざとしてもよく知られる名言が記されています。

あなたたちは昔の人がモーセから「目には目、歯には歯(人の目をつぶした者は自分の目で、人の歯を折った者は自分の歯でつぐなわなければならない)」を聞いたであろう。わたしはあなたたちに言う。悪人に手向かってはならない。だれかがあなたの右の頬を打ったら、左をも向けよ。

あなたたちは昔の人がモーセから「隣人を愛し、敵を憎め」と命じられたことを聞いたであろう。わたしはあなたたちに言う。敵を愛せよ。自分を迫害する者のために祈れ。

人を裁いてはならない。自分が神に裁かれないためである。

神聖なものを犬にやるな。真珠を豚に投げてやるな。豚はそれを足で踏みつけ、あなたたちをかみ裂くかもしれない。

※「豚に真珠」のもととなった言葉

ほしいものは何でも天の父上に求めよ。きっと与えられる。戸をたたけ、きっと開けていただける。

※「たたけ、さらば開かれん」のもととなった言葉

人からしてもらいたいとあなたがたが望むことを、人々にしなさい。これが律法と預言書の精神である。

狭い門から入りなさい。滅びに至る道は大きく、かつ広く、そこから入る者が多いのだから。

「イエスの受難」をテーマとした映画『パッション』

『パッション』(原題:The Passion of the Christ )は、イエス・キリストが磔刑に処せられるまでの12時間に起こった出来事と、その3日後に復活するところまでを描いた2004年のアメリカ映画です。原題は「キリストの受難」という意味です。

民衆に慕われていたイエスが、なぜ十字架にかけられることになったのか、マリアやマグダラのマリアはそのときどうしていたのか、などのエピソードが、基本的には聖書に忠実に描かれています。

監督はメル・ギブソンです。映画の公開時には大きな反響を呼びましたが、描写が反ユダヤ的であるとか、イエスの処刑シーンが残酷すぎるなどの批判も寄せられました。

まとめ

『聖書』は、『旧約聖書』と『新約聖書』から成ります。『聖書』は英語で「bible(バイブル)」といい、その語源はギリシャ語の「ビブリヤ(数冊の本)」という意味です。

『旧約聖書(Old Testament)』には、イエス・キリスト以前に行われた神との契約が、『新約聖書(New Testament)』には、イエスを通じて行われた神との新しい契約が書かれています。

旧約では、ユダヤ民族に対し、律法を守れば救世主によって永遠の王国が与えられるとの約束でしたが、新約では、イエス・キリストを信じるすべての人が、救世主イエスによって救われると説かれています。

『新約聖書』を理解するためには、その前提となっている『旧約聖書』の理解が必要となります。イエスの「名言」を味わったり、「最後の晩餐」などをテーマとした芸術作品を鑑賞する際にも、旧約、新約あわせて『聖書』の概要を知っていることは大きな助けとなります。

なお、全部で27の文書から成る『新約聖書』が全体として伝える思想の枠組みは、神から遣わされたイエス・キリストは、人類の罪を贖うために十字架の上で犠牲となり、死後は復活して昇天し、最後の審判を行う時まで神のもとにいる、という考え方です。

■参考記事
『旧約聖書』とは何か?「創世記」や「ヨブ記」のあらすじも解説
「受胎告知」の意味とは?聖書や日本にあるエル・グレコの作品も
「最後の晩餐」の意味とは?『聖書』の場面とユダの裏切りも解説
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