「コッホ」とは?結核菌・コレラ菌を発見した功績や関連用語も解説

「コッホ」はドイツの細菌学者で、「近代細菌学の開祖」と呼ばれる人物です。炭疽菌をはじめとした複数の病原菌を発見しただけでなく、細菌培養の基礎を確立するなど、現代医学にも大きく貢献したとされています。「コッホ」の功績をはじめ、「コッホの原則」や「コッホ現象」など関連ワードについても紹介します。

「ロベルト・コッホ」とは?

「コッホ」とは炭疽菌・結核菌・コレラ菌の発見者

「ロベルト・コッホ(ハインリヒ・ヘルマン・ロベルト・コッホ Heinrich Hermann Robert Koch)」(1843年~1910年)とは、ドイツの医師で細菌学者です。彼は、炭疽菌・結核菌・コレラ菌の発見者として有名で、フランスの細菌学者「ルイ・パスツール」(1822年~1895年)とともに、「近代細菌学の開祖」と称されます。

「コッホ」は細菌培養の基礎を確立、医学にも大きく貢献

コッホが数々の病原菌を発見した背景には、細菌の「純粋培養」の成功があります。これにより、感染症研究や細菌検査法は大きく発展しました。また、細菌培養の基礎である「寒天培地」や「ペトリ皿(シャーレ)」も、コッホの研究室で使われたのがはじまりとされています。

「コッホ」の生涯とその功績とは?

「コッホ」はどのようにして、数々の功績を遺したのでしょう。「コッホ」の生涯とともに紹介します。

コッホは数学・物理学から医学の道へ

ドイツの山村に生まれたコッホは、医学の道を志す前に、ゲッティンゲン大学で数学と物理を学んだ過去を持ちます。彼が医学の研究を始めたのは、1862年とされていて、186年に医師国家試験に合格しました。

一般開業医として経験を積む中、1870年の普仏戦争時には、野戦病院にも勤務しています。一方、コッホは田舎で医師として働くのではなく、現ポーランドにおいて「地区保健医官」としての道を選びます。

コッホは細菌の純粋培養法を考案、炭疽菌の発見へ

コッホが成した最初の功績が「炭疽症」を引き起こす病原菌「炭疽菌(たんそきん)」の発見です。彼はまず、「炭疽症」を引きおこすのが特別な細菌であることを着目し、1876年に「炭疽菌」の分離と「純粋培養(純培養)」に成功します。「純粋培養」とは、細菌を単体で培養することで、これによって病原菌を特定することが可能です。コッホは、この「純粋培養」によって「炭疽菌」を発見し、さらに、その病原菌を動物に接種し「炭疽症」を引き起こすことも証明します。

1876年に「炭疽菌」を発見したコッホは、1880年にベルリンに移り、本格的に細菌学の研究を開始します。そして1881年のロンドンで開催された第7回国際医学会で上記の発見について発表し、医学界を驚かせました。

また、コッホがゼラチンに肉汁を入れたものを培養液として使い、固体培地の材料として確立した(1881年)のも大きな功績です。その後はは、より使い勝手の良い寒天を使用した「寒天培地」の開発や、寒天培地を使う際の容器として「シャーレ」を開発したのもコッホです。

コッホは結核菌・コレラ菌を相次いで発見

コッホは、炭疽菌を発見したのと同じ方法で、「結核菌」も発見します。この際、論文で、ヒトにおいても細菌が病原体となることを証明、1882年の3月24日に「ベルリン生理学会」でこの「結核菌」に関する発見を発表しました。この日を歴史的な日とし、今なお、3月24日は「世界結核デー」と定められています。

コッホの結核研究に関しては、そのスピードの速さも注目すべき点です。結核の研究を開始してから、講演で発表するまでは約7か月とされていて、当時の環境を考慮すると、研究計画の綿密さとコッホの研究姿勢には驚くべきものがあります。

さらに「結核菌」発表の翌年である1883年には、インドにて「コレラ菌」も発見しています。

コッホは結核菌ワクチンを生み出して「ノーベル医学・生理学賞」受賞

細菌研究の基礎を築いたコッホは、1885年にベルリン大学の教授となり、さらに研究に励みます。そして、1890年、「結核菌」の培養上清から結核菌ワクチン「ツベルクリン」を作り出します。

「ツベルクリン」は当初、結核の治療を目的として開発されましたが、残念ながら治療には効果が出ませんでした。しかし、「ツベルクリン」は結核感染の診断法として現在に至るまで広く活用されることとなります。日本でも、平成17年4月まで結核の予防接種であるBCG接種に際し、「ツベルクリン反応」が陰性の者に対して接種する、という方法を採っていました。

なお、コッホは一連の「結核研究」の功績をたたえられ、1905年に「ノーベル医学・生理学賞」を受賞しています。

「コッホ」の関連用語とは?

「コッホ」の遺した功績は、今なお医学や細菌学の分野で大きな影響を持ちます。ここでは、「コッホ」の関連用語を紹介します。

「コッホの原則」は感染症の原因菌特定に関する法則

「コッホの原則」とは、感染症の病原体を特定するための基本指針です。もともと存在した「ヘンレの法則」(1840年)を原案としたもので、炭疽菌や結核菌、コレラ菌と、コッホが相次いで病原菌を発見したことによって、「ヘンレの法則」は「コッホの原則」へと取り込まれたとされています。そのため、解釈には若干の誤差があり、「コッホの3原則」として紹介される場合と「コッホの4原則」とされる場合があります。

「コッホの原則」は、感染症の病原体の特定をはじめとした細菌学を大きく変えた原則ですが、現代では「コッホの原則」には該当しない感染症の例もあります。

「コッホ現象」はBCGワクチン接種後に現れる反応のひとつ

「コッホ現象」とは、結核予防ワクチン「BCG」を接種後見られる反応のことです。結核に感染したことのある動物とそうでない動物の皮膚に、結核菌を摂取した場合の反応の違いをコッホが発見したことから、その呼び名がつきました。

通常、BCG接種後、2週間ほどたつと、針の跡が発赤となったり化膿したりすることがあり、その反応は接種後5~6週間後にも最も強いとされています。これに対し、BCG接種後数日以内に強い反応が見られることもあります。これが「コッホ現象」です。なお、あくまでもこの現象を発見した人物がコッホであり、BCCを開発したのは、フランスのパスツール研究所です。

「ロベルト・コッホ」に関連する人物とは?

コッホとルイ・パスツールは同じ「近代細菌学の開祖」

コッホと同じく、「近代細菌学の開祖」と呼ばれる人物に「ルイ・パスツール」(1822年~1895年)がいます。

パスツールは、フランスの細菌学者で、「低温殺菌法」や「ワクチンによる予防接種」を確立した人物です。狂犬病ワクチンを開発したのも、このパスツールです。1881年にロンドンで開かれた国際医学界で、コッホは細菌の純培養法などについて供覧していますが、この際、パスツールも彼の発見に驚くとともに称賛したとされています。

北里柴三郎もコッホの弟子のひとり

コッホは1885年より、ベルリン大学の教授となります。コッホの「弟子」には、ノーベル賞受賞者をはじめ、世界的にも有名な人物が軒を連ねますが、「北里柴三郎」もその一人です。

北里柴三郎は、日本の細菌学者で、破傷風菌を培養し、血清療法を確立した人物として知られています。ペスト菌を発見したのも北里柴三郎で、「日本の細菌学の父」とも呼ばれる人物です。この北里に招かれる形で、コッホは来日したとされています。

まとめ

コッホは炭疽菌や結核菌、コレラ菌を発見した人物として紹介されることも多いですが、実は細菌の純粋培養など研究の基礎における重大な功績を挙げた人物でもあります。紹介した事柄以外にも、顕微鏡の改良や消毒・滅菌の開発にも尽力していて、現代の医学においてもなくてはならない人物と言えるでしょう。