「大天使」の意味とは?ミカエル・ガブリエル・ラファエルも解説

西欧美術や文化のあらゆる場面に現れる有翼の「天使」。その中でも特に存在感があるのが「大天使ミカエル」「大天使ガブリエル」です。決められた役割があるように見える天使や大天使ですが、そもそもどのような存在なのでしょうか?

この記事では、キリスト教における「天使」「大天使」とは何かを解説し、代表的な大天使の役割などを紹介します。

「大天使(Archangel)」とは?

大天使ミカエル

「大天使」とは”天使の階級”の一つ

「大天使」とは、天使の階級の一つです。キリスト教が313年にローマ帝国において公認されると、聖書に記された天使の存在も公式に認められました。5~6世紀頃には神学者ディオニュシオスの『天上位階論』によって天使のヒエラルキーが定められました。

『天上位階論』によれば、天使には3つの階級(上級天使・中級天使・下級天使)があり、それぞれに3つの段階があります。「大天使」は下級天使の階級のうちの下から2番目の段階です。一番下が「天使」です。

下級天使たちは人間に似ているため、堕落する可能性があるとされます。天の領域と物質界の領域の境界に存在しています。

なお、上級天使の最上級は「熾天使(してんし:セラフィム」です。堕落して悪魔の王となった「ルシファー(堕天使)」も、堕ちる前は熾天使であったとされます。

キリスト教における特別な「三大天使」

キリスト教における特別な大天使は、ミカエル、ガブリエル、ラファエルの三人で、「三大天使」と呼ばれます。三大天使は、それぞれの役割を持って聖書や外典に現れ、神の意思を人間に伝えます。次の章で、三大天使について解説します。

なお、ユダヤ教ではこれにウリエルが加わって四大天使となります。

「天使(angel)」とは?

「天使」とは”神の御使い”のこと

キリスト教における「天使」とは、「神の御使い(みつかい)」の役割を持った存在です。神と人類の仲介を行う神の使者が天使です。

英語の 「angel」 はギリシア語で「使者」を意味する「アンゲロス:angelos」)に由来します。

「天使」の原型は古代文明の神々

有翼の人物像の原型は、メソポタミア文明やエジプト文明の時代に、空を飛ぶ人間の願望を託した神々の姿で現れました。これら有翼の神々は、ギリシャ神話を経てユダヤ教、キリスト教、イスラム教に受け継がれました。

キリスト教の天使たちは、特にユダヤ教の伝承にそのイメージの起源を持ちます。ユダヤ教の聖典でもある『旧約聖書』にはさまざまな役割を持って多くの天使が登場し、天使の概念が形成されました。

大天使「ミカエル」とは?

大天使ミカエル

「ミカエル」は英語で”Michael(マイケル)”

「ミカエル」は”Michael”のラテン語の発音です。ミカエルはヨーロッパで最も親しまれている天使で、ミカエルに由来する人名が各国に多く見られます。英語では「マイケル(Michael)」、ドイツ語では「ミヒャエル(Michael)」、フランス語では「ミシェル(Michel)」、イタリア語では「ミケーレ(Michele)」となり、どの国でもポピュラーな名前です。

大天使ミカエルに捧げられ、その名を関した教会や修道院も各地にあります。ミカエルのお告げによって開かれた修道院であるフランスのモン・サン=ミシェルは、「聖ミカエル山」という意味です。

「ミカエル」の名前の意味は”神のごとき者”

「ミカエル」とは”神のごとき者”という意味です。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教において最も偉大な大天使と考えられています。ガブリエルと並んで最も多く西洋美術に登場する天使です。

「ミカエル」は剣を持つ”聖なる戦士”の姿で示される

ミカエルはイスラエルの守護者であり、中世にはカトリックと騎士の守護者とされました。ミカエルは通常、鞘から抜いた剣を持つ戦士の姿で示され、これは神の偉大な戦士であることを意味します。片手に正義の秤を手にしていることもあります。

戦士としてのミカエルのイメージは、紀元前10世紀以降にメソポタミアに移り住んだ、カルデア人の神から生まれています。そこでの偉業が語り継がれ、ユダヤの伝承に重要な神の御使いとして現れました。

『旧約聖書』の伝承によれば、モーセの前に燃え上がった棘の中にミカエルが現れます。『ヨハネの黙示録』の中では、サタンである蛇を千年捕らえおき、最後の審判では「魂を計る者」として登場します。また、『ダニエル書』では、世界が難局にあるとき、ミカエルが現れると預言されています。

大天使「ガブリエル」とは?

大天使ガブリエルと聖母マリア

「Gabriel(ガブリエル)」は”支配者”の意味が語源

ガブリエルは英語で「Gabriel」と書きます。その語源はシュメール語の「gbr」で、支配者・統治者を意味します。キリスト教ではガブリエルはエデンの園の統治者として現れます。

「ガブリエル」は”神の言葉を伝えるメッセンジャー”

「ガブリエル」は”神はわが力”という意味を持ちます。「gbr」には”力”という意味もあります。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教ともに、ガブリエルは「神の言葉を伝えるメッセンジャー」の枠割を持ちます。

ガブリエルは『ルカ福音書』において、聖母マリアの前に現れて、キリストを受胎したことを告げます。この場面を描いた「受胎告知」には、純潔の象徴である百合の花を持ったガブリエルが描かれます。また最後の審判の時にはラッパを鳴らして死者を蘇らせます。

「ガブリエル」は”女性”だとする説もある

ガブリエルは、神の左側に座すと言われ、また妊娠と誕生にまつわる伝承が多いことなどから、ガブリエルは女性であるとする説があります。中世の絵画では女性のように描かれることが多いですが、中性的に描かれたり、優美な青年の姿で描かれたりもします。一般的には天使に性別はないとされています。

大天使「ラファエル」とは?

大天使ラファエルとトビアス

「ラファエル(Raphael)」の意味は”癒しを与える輝く者”

ラファエルの名前「Raphael」は、”癒しを与える輝く者”という意味があります。ヘブライ語の「ラファ:癒す者」という意味が含まれています。イタリアの画家ラファエロは大天使ラファエルのイタリア語名です。

ラファエルは「癒しの大天使」であり、「旅人の守護者」でもあります。『第一エノク書』では、「人間の子らの病や傷をいやす役目を持つラファエル」が、旅人トビアスの前に現れて旅の同伴者となり、悪霊除けのための魚の用い方などを教えます。

まとめ

有翼の人物像である「天使」の起源はメソポタミア文明やエジプト文明の神々にさかのぼり、その後ユダヤの伝承を経て、「神の御使い」としてキリスト教に取り入れられました。キリスト教の中では特別な天使として「三大天使」が定められました。

キリスト教美術において、特によく登場するのがミカエルとガブリエルです。大天使ミカエルは「最後の審判」を主題とする絵画などにおいて、聖なる戦士としてサタンと闘う姿で描かれます。大天使ガブリエルは「受胎告知」のシーンにおいて、マリアにイエスの懐妊を告げる使者として欠かせない存在です。

天使や大天使は崇敬の対象でもあり、西欧の文化や芸術に欠かせない存在です。

■参考記事
「サタン」の意味と役割とは?聖書の記述や「ルシファー」も解説