「サタン」の意味と役割とは?聖書の記述や「ルシファー」も解説

西欧美術や文化に欠かせない、悪の代表に「サタン」がいます。サタンにはさまざまなイメージがありますが、その意味や定義とはどのようなものなのでしょうか?

この記事では、キリスト教におけるサタンについて、『聖書』の記述をまじえながら解説します。サタンの別名である「ルシファー」についても解説しています。



「サタン」の意味と英語とは?

はじめに、サタンの意味と、英語表現について解説します。

「サタン」とは「悪の大魔王」のこと

キリスト教における「サタン」とは、「悪の大魔王」「この世の悪の根源」という意味を持ちます。サタンにおいて特筆すべきは、もともとサタンは神のもとで働いていた天使であったということです。サタンは、キリスト教の教義が成立してゆく段階でさまざまな悪の概念と結びつき、悪の大魔王としての概念が形成されました。

「悪魔」は英語で「Satan」の他にも「デビル(Devil)」「デーモン(Demon)」も

サタンは英語「Satan」のカタカナ語ですが、その意味は「悪魔」と訳されます。「悪魔」を表す言葉は、他にも「デビル(Devil)」「デーモン(Demon)」があります。それぞれ意味は異なり、「デビル」は悪魔の中で最高の地位にある「魔王・悪の根源」のことで、「デーモン」は「魔王の配下の悪魔」「悪霊・悪鬼」を意味します。

デビルとサタンは同じ位置関係ですが、「悪魔」の中でもともと天使だったのはサタンのみです。

「土星:Saturn(サターン )」は「サタン」とは別の意味

「土星」は英語で「Saturn」と書き、「悪魔」の「Satan」と似ているため、混同されることがありますが、両者に関連はありません。

土星の「Saturn」は、サートゥルヌスというローマ神話に登場する農耕神がその名の由来です。サートゥルヌスは土星の守護神でした。

『聖書』に記された「サタン」とは何者?その役割とは?

サタンは具体的にどのような姿や役割で『聖書』に登場するのでしょうか?『旧約聖書』『新約聖書』の記述から紹介します。

『旧約聖書』の「創世記」ではヘビとして登場

『旧約聖書』で最初に登場するサタンの概念は、「創世記」において、楽園に暮らすイヴをだまして知識の木の実を食べさせた「ヘビ」として登場します。

このことによりアダムとイヴはエデンの園を追われるとともに永遠の命も失い、死から逃れられない存在となったため、サタンは人類の敵だとされます。ヘビであるサタンは神の「妨害者」です。

「ヨブ記」におけるサタンは、敬虔で善良なヨブに理不尽な苦しみを与える、神の「信仰を検証する役割」として登場します。しかしサタンとは何なのかについては言及されていません。

『新約聖書』で「サタン」の概念が確立

『旧約聖書』が成立すると、未来を預言する黙示文学やその他の外典が多く記され、その中でさまざまな悪の存在が登場しました。『新約聖書』には、それら悪の物語が融合してサタンの概念が登場します。

「悪魔の誘惑」の場面では、ユダの荒野で断食修行に入ったイエスのもとにサタンが現れ、イエスを試しますが、イエスは誘惑を拒否し、最後に「サタンよ、退け」と言います。サタンは滅びていないので、どこかに潜んでいます。

「サタン」と「ルシファー」は、『福音書』や「最期の審判」が記された『ヨハネの黙示録』によれば、大天使ミカエル率いる天使との戦いによって破滅します。

「サタン」と「ルシファー」は同じ存在

「サタン」の別名に「ルシファー」があります。ルシファーとは、「明けの明星(金星)」を意味します。その語源は、「光」を意味するラテン語の「ルークス」です。その名のとおり、ルシファーはもともとは光の天使であったものが、反逆天使となってサタンとなった存在です。

初期キリスト教の教父たちは、サタンとルシファーは同じ存在だと規定しました。「ルシファー」は日本語では「堕天使」と訳されます。

『旧約聖書』「イザヤ書」における、「ああ、お前は天から落ちた、明けの明星、曙の子よ。お前は地に投げ落とされた、もろもろの国を倒した者よ」という一節から伝説が誕生しました。

「サタン」が山羊(ヤギ)の角を持つのはイエスのたとえ話から

サタンが持つ角は、しばしば山羊(ヤギ)の角で描かれます。また、キリスト教徒は羊にたとえられます。これらのイメージは、イエスの言葉にあります。

『マタイ福音書』の中でのイエスによる最後の審判のたとえ話です。

人の子は羊飼いが羊と山羊とを分けるように彼らを互いにえり分け、羊である正しい人を右に、山羊である悪い人を左に立たせるであろう。

左側の人に言う。「わたしを離れよ。この罰当たりども。サタンとその使のために用意された火の中に入れ」

羊と山羊のたとえ話は、従順な羊をキリスト教徒に、群れに従わない山羊を異教徒にたとえているとも考えられています。

「サタン」の役割は「この世に悪が存在する」ことを説明するため

キリスト教は全知全能の唯一神を信仰する一神教であり、神がこの世界のすべてを創造したとしています。全知全能の神が、なぜ対立する「サタン(悪魔)」を生み出したのかはしばしば論点になってきました。

歴史的には、キリスト教の前身であったユダヤ教のヤハウェの神は、古い時代には善と悪の両方の性格を持っていました。次第に神が善なる存在となってゆくと、悪の部分を受け持つ存在が必要となりました。

神に対立するサタンは、この世に悪が存在することを合理的に説明するために、また神への信仰を検証するために不可欠な存在であると解釈されています。

「サタン」と「ルシファー」を描いた絵画を紹介

サタンやルシファーは西洋絵画の主題として、また聖書の重要な場面の登場人物として、多くの絵画に描かれてきました。その中から特徴的な絵画を紹介します。

『この世の虚飾と聖なる救い』に描かれた「魔王サタン」

『この世の虚飾と聖なる救い』 ハンス・メムリンク
(出典:Wikimedia Commons User:Lewenstein)

15世紀フランドルの画家ハンス・メムリンクは、北方絵画に特徴的な徹底した写実表現によって、宗教的な主題を多く描きました。

『この世の虚飾と聖なる救い』(1485年頃)には、中央にこの世の虚飾の象徴が、左に死神または棺から出てきたミイラが、右に地獄が描かれています。地獄にはヤギの角とコウモリの翼を持つ魔王サタンが描かれています。サタンの腹部には地獄の魔王の印として人間の顔が描かれ、なんとも恐ろし気な姿です。

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』に描かれた「墜落するルシファー」

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』
(出典:Wikimedia Commons)

『ベリー公のいとも豪華なる時祷書(じとうしょ)』は、15世紀にフランスの王族ベリー公がランブール兄弟に作らせた装飾写本です。その中の一葉である、墜落するルシファーは美しい天使の姿で描かれています。ルシファーの墜落の場面は多く描かれましたが、墜落するときはまだ天使の姿で描かれました。

まとめ

古代オリエントの時代から、人間を悩ませる自然現象や病気、不幸など諸悪の根源は悪霊にあるとされ、悪霊神話や悪霊信仰が存在していました。ユダヤ教を作ったイスラエル人たちは、人間を苦しめる悪霊と闘う天使の存在を生み出しました。

キリスト教以前にはあいまいだった神と悪霊と天使の関係や役割が、キリスト教においては体系的に整理されてゆき、新約聖書でイエスは悪霊(サタン)と闘い続け、最後は勝利します。

サタンは、神が創造したのではなく、神の使いである天使が自らの意思で堕落したものだと教父たちは定義しました。キリスト教における「原罪」に始まる、この世の罪と悪のすべてをサタンが負うことにより、全知全能の神が支配する世界が説明できるのです。

■参考記事
「大天使」の意味とは?ミカエル・ガブリエル・ラファエルも解説

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