「モーム」とは?小説作品『人間の絆』や『月と6ペンス』も紹介

イギリス人作家「サマセット・モーム」は、『人間の絆』『月と6ペンス』などの代表作で知られます。「モーム」は、小説家として大成する一方で、軍医や諜報部員としての一面も持つ人物です。その生涯と併せて、通俗作家とも称され、そのシニカルな視点が特徴的な「モーム」の作品を紹介します。

「モーム」とは?

「モーム」とはパリ生まれのイギリス人小説家・劇作家

「ウィリアム・サマセット・モーム」(1874年~1965年)とは、フランスのパリ出身で、イギリス人小説家・劇作家です。幼くして両親を病気で亡くした彼は、10歳で孤児となり、イギリスで牧師をする叔父に引き取られます。しかし叔父との不仲や不慣れな英語、また自らの吃音のために孤独な子供時代を過ごしたようです。

「モーム」は10代のころから作家を志すも、叔父の反対もあり、医学校に進学します。この時に多くの文学書に触れたこと、またインターンの勤務などで様々な人間関係を目にしたことが、彼の処女作執筆につながったとされています。

「モーム」は軍医・諜報部員としての経歴も持つ

医師となった「モーム」は、第一次世界大戦時に志願し、軍医としてベルギー戦線で活躍しています。さらにその後、転属し、スイスにて諜報部員としても活躍しました。この時の諜報活動の経験から、のちにスパイを題材とした小説『秘密諜報部員(アシェンデン)』を執筆しています。

諜報部員として活動していた「モーム」ですが、体調を崩したことをきっかけに、アメリカへわたり、その後は日本を含む様々な地を訪れました。ロシア革命では、渦中となったペトログラード(現在のサンクトペテルブルク)での諜報活動でも知られています。

世界各国の船旅を続け、アジアのホテルを高く評価した

「モーム」は世界各国を旅したことでも有名です。アメリカ各地をはじめ、南太平洋・中国大陸・マレー半島など、「モーム」が訪れた地は作品の舞台としても描かれています。

一時、南フランスに大邸宅を購入しますが、夫人と離婚したこともあり、その後もヨーロッパ各地やインド諸島、東南アジア地域なども多く訪れています。中には「モーム」が絶賛し、長期滞在したホテルもあり、シンガポールの駅名(サマセット駅)や「モーム」に由来する名を持つホテルのスイートルームなど、縁の深い地域が存在します。

最晩年は認知症を発症し、長期入院を経て自宅へと戻ったのちに亡くなりました。91歳でした。

「モーム」の代表的な小説作品とは?

「モーム」は芸術性よりも娯楽性を重視した作家で、「通俗作家」と称されてきました。その一方で、人生をシニカルな視点でとらえる作品が多いのも「モーム」作品の大きな特徴です。世界各国を舞台とする「モーム」小説の代表作を紹介します。

『人間の絆』1915年

『人間の絆』は、両親を亡くし、叔父に育てられた少年「フィリップ」の物語です。彼は足に障害があり、劣等感を抱きながら育ち、最終的に医師を志します。

「モーム」自身もまた、両親を亡くし、叔父に引き取られています。また、「モーム」は足に障害はありませんが、吃音のコンプレックスを抱きながら育っているという点もまた、物語の主人公「フィリップ」との共通点です。そのため、『人間の絆』は「モーム」の自伝的小説とも称されます。

『月と6ペンス』1919年

『月と6ペンス』は、画家「ポール・ゴーギャン」をモデルとした小説で、その生涯を友人の視点で描いています。

本作品の主人公である「ストリックランド」は、才能がないと言われようと気にもせず、すべてを捨てて絵の道を突き進みます。その姿は、まさに「ゴーギャンそのもの」と高い評価を得ていて、「モーム」の巧みな人物描写が伺える一冊です。

『お菓子と麦酒』1930年

『お菓子と麦酒』もまた、「モーム」の代表的な作品と位置付けられる一冊です。主人公「ウィリー」は、作家仲間より「亡くなった人気作家の伝記の執筆を手伝ってほしい」と依頼を受けます。そこから、亡くなった人気作家の妻であり、男性遍歴豊かで奔放な「ロウジー」へと話の中心が移っていきます。

『お菓子と麦酒』の登場人物にはそれぞれ実在の人物がいるとされていて、巧みなストーリー構成はもちろん、随所に散らされた皮肉がまた「モーム」らしい一冊です。

『要約すると』1938年

「モーム」という人物を知るのに最適なのが自伝『要約すると』です。『人間の絆』や『月と6ペンス』などで作家としての地位を築いたモームが、いかにして作品を執筆しているのか、また批判をどう受け止めているのか、などについて記した一冊です。「モーム」の思想が凝縮された作品として評価されています。

『世界の十大小説』1948年

『世界の十大小説』は、文字通り、世界中の文学作品から「モーム」自身がえりすぐった10篇を、彼自身の視点で論じた評論です。作家の生涯や人物論とあわせて、作品を解説しています。

10篇には、『高慢と偏見』(ジェーン・オースティン)、『ゴリオ爺さん』(オノレ・ド・バルザック)、『カラマーゾフの兄弟』(フョードル・ドストエフスキー)、『戦争と平和』(レフ・トルストイ)などがあります。

短編小説では『雨』『赤毛』が人気

「モーム」は、長編だけでなく数多くの短編小説を残したことでも有名です。その数は100篇以上で、中でも『雨』や『赤毛』は名作としてよく取り上げられる作品です。

『雨』は、高い志を持つ宣教師が同じ船に乗り合わせた「いかがわしい女」の教化に乗り出すも、理性を失っていく、という物語です。熱心な宗教者であれ、本能には抗えないという弱さや罪深さ、はかなさがシニカルに描かれています。

一方、『赤毛』は、軍艦を脱走し、とある島に流れ着いた兵士とその島の少女の恋愛物語です。物語の途中までは甘美な恋愛小説なのですが、ストーリーの最後には皮肉な展開が待っていて、「モーム」らしさがうかがえる小説です。

まとめ

イギリス人作家「モーム」は、そのシニカルな視点で大衆作家・通俗作家として高い評価を受けています。世界各国を旅した経験から、彼の小説は様々な地を舞台として描かれているのも特徴です。「モーム」らしい皮肉な「オチ」は、娯楽作品としてももちろん、人間の本質をとらえた哲学的な一面も高い評価を受けています。