「フランソワ・ブーシェ」生涯と作品の特徴とは?『化粧』も解説

18世紀フランスのロココ芸術の代表画家が「フランソワ・ブーシェ」です。ポンパドゥール夫人の肖像画などが有名です。この記事では、ブーシェとはどのような画家なのかや、その生涯を解説します。あわせて代表作品とロココについても紹介しています。

「フランソワ・ブーシェ」とその生涯とは?

フランソワ・ブーシェ『ポンパドゥール夫人』(1756年)
(出典:Wikimedia Commons User:Shonagon)

ブーシェとは「ロココ美術」を代表するフランスの画家

フランソワ・ブーシェ(François Boucher、1703年~1770年)とは、18世紀のロココ期を代表するフランスの画家です。王侯貴族や豊かな市民の肖像画や神話画を優美に描きました。

多作と多方面に及んだ活動でも知られ、ルイ15世の庇護のもと、王立製作所のためのタピストリーの下絵やヴェルサイユ宮殿の壁画装飾など、多岐にわたる仕事を次々に手がけました。

ブーシェはこの時代の画家としては最も成功した人物で、宮廷首席画家の地位や王立絵画彫刻アカデミー会長の座も得ました。安定した地位のもと、ロココ時代を華やかに飾りましたが、ロココの終焉とともに退廃的であると批判され、死後の評価は低いものでした。19世紀に入ると再評価され、ルノワールに影響を与えた画家として知られています。

「ルイ15世」とその公妾「ポンパドゥール夫人」の庇護を受けた

ロココ美術の流行を広めた人物に、ルイ15世の公妾であったポンパドゥール夫人(1721年~1764年)がいます。彼女は芸術を愛し、芸術家や建築家のパトロンになったり王立磁器製作所を設立してセーヴル焼きを完成させるなど、ルイ15世時代のフランス芸術の発展に貢献し、ロココの最盛期を支えました。

ブーシェはポンパドゥール夫人のお気に入りの画家で、肖像画を数点残しており、代表作品ともなっています。またブーシェは、夫人の絵画教師としても親しい関係を築くなど、ルイ15世とともにポンパドゥール夫人の信頼を得ることに成功しました。

ブーシェの作品の特徴と絵画を紹介

神話の女神や牧歌的風俗画を描いた

ブーシェが得意としたテーマは女神を主題とした神話画や貴族の肖像画でした。のちに裕福な市民の日常を描く風俗画も描きます。

また、ブーシェは「パストラール」と呼ばれるジャンルである、羊飼いの生活を描いた田園詩や田園画から着想を得て、優雅な牧歌的風俗画として市民を描きました。『雅な羊飼い』(1738年)や『満足する羊飼い』(1738年)などが最初の作品です。

羊のいる田園を舞台に、若い男女の恋愛劇の一幕を描いたもので、男女は羊飼いとして描かれているものの、その衣装は都会的です。ブーシェは虚構の舞台で遊戯を楽しむ上流社会の人々を新しい表現で描きました。

『化粧』(1742年)

(出典:Wikimedia Commons)

17世紀から18世紀のフランスでは、シノワズリー(中国趣味の意)と呼ばれる中国風の題材を取り入れた美術が流行しました。ブーシェもシノワズリーの絵画をいくつか描いています。

『化粧』は、貴族の室内での身支度の様子を描いた作品で、室内の調度品にシノワズリーが見られます。

つけぼくろをつけた女性がストッキングをはく姿は、この時代に好まれたどこか退廃的で甘美なものを好む傾向もよく表現されています。

『ヴィーナスの化粧』(1751年)

(出典:Wikimedia Commons User:Dcoetzee)

ブーシェの作品の中でも評価が高いものが神話の女神を主人公にした作品です。甘美的な空気をまとい、優雅ではつらつとした女神像は、ロココ美術を代表する女性像となりました。

「ロココ美術」とは?

ロココ装飾の教会内装

ブーシェが主役となったロココ美術について解説します。

「ロココ」とはルイ15世の宮廷美術に始まった美術様式

「ロココ(Rococo)」とは、ルイ15世(在位:1715年~1774年)のフランス宮廷に始まり、ヨーロッパで流行した美術様式です。ルイ14世の時代には、荘重な古典主義が嗜好されましたが、フランス国庫の財政が悪化したルイ15世の時代には、貴族の関心は居心地の良い室内に向けられ、ロココと呼ばれる優美な様式が生まれました。

ロココは18世紀はじめから終わり頃にかけてヨーロッパ各地で流行しました。ロココは建築や家具、絵画などあらゆる芸術の様式として展開されました。

「ロココ」とは”ロカイユ(石や貝殻を用いた装飾)”が語源

ロココの語は、バロック時代の石や貝殻を用いた装飾「ロカイユ(rocaille)」が語源です。ロカイユはしだいに貝殻のような不規則な曲線を用いた装飾を意味するようになり、曲線を多用する優雅で遊戯的な特徴を持つロココ様式の呼称となりました。

ロココ・スタイルの特徴は優美さとともに、繊細な装飾と、華やかな主題や色彩です。

ルイ16世様式と新古典主義にとって変わられた

ルイ16世(在位:1774年~1792年)が即位すると、装飾性を抑えたルイ16世様式が広まり、ロココ様式の流行は次第に終わりを迎えます。啓蒙思想が市民に浸透し、ロココ様式の通俗性が批判されるといった時代の変化が背景にありました。

ルイ16世様式は新しい美術の潮流「新古典主義」の先鞭となり、18世紀中頃から19世紀はじめにかけて、新古典主義は隆盛を迎えました。新古典主義とは、古代ギリシャ・ローマの古典を規範とする美術様式です。

最後のロココ画家「ジャン・オノレ・フラゴナール」

ロココ期最後のフランスの画家にジャン・オノレ・フラゴナール(1732年~1806年)がいます。ブーシェの影響を受け、典型的なロココ様式の絵画を描きました。代表作品に『ぶらんこ』 (1767年)があります。

■参考記事
「フラゴナール」とはどんな画家?代表作品『ぶらんこ』の背景も

まとめ

ブーシェは、ルイ15世とその公妾であったポンパドゥール夫人に重用され、その時代に最盛期を迎えた華やかなロココ美術に貢献しました。

ロココ美術はその倦怠的な美や享楽性が反感を招き、ルイ16世の時代になると新古典主義にとってかわられます。ブーシェの生涯はロココの隆盛とともにありました。