前衛的な芸術を「アバンギャルド」と呼びますが、そもそもアバンギャルドとはどのような意味なのでしょうか?この記事では、アバンギャルドの二つの意味とその語源や英語表現などを解説します。
あわせて西欧各地に興った「前衛芸術運動」の総称としてのアバンギャルドについて、その歴史と、中心的な運動について解説します。
「アバンギャルド」の意味とは?
カジミール・マレーヴィチ『白の上の「白の正方形」』(1918年)
(出典:Wikimedia Commons User:Wmpearl)
「アバンギャルド」の意味は”前衛”
「アバンギャルド」とは、”前衛”という意味の芸術用語です。時代における「時代の先端をいく革新的な芸術活動を行う人やその芸術」を指します。
各時代におけるアバンギャルドは、絵画、音楽、映画、演劇、舞踏など芸術的表現を行う幅広い分野に存在します。前衛美術や前衛音楽などといった呼称も、アバンギャルドを示す同じ意味で使われます。また、ファッションなど創造性が求められる分野でも用いられます。
20世紀前半の「前衛芸術運動」を指すこともある
「アバンギャルド」のもうひとつの意味は、芸術の革命を目指して20世紀前半に興った各種の「前衛芸術運動」を指します。前衛芸術運動としてのアバンギャルドについては、のちほど詳しく説明します。
「アバンギャルド」の語源とは?
フランス語「avant-garde」が語源、英語も同じスペル
アバンギャルドはフランス語「avant-garde」が語源の外来語です。軍事用語の「前衛部隊」という意味の語が、芸術用語に転用されて使われるようになりました。
「avant-garde」はフランス語を語源とする言葉として、英語やドイツ語でも同じスペルの外来語として使われています。
フランスの社会主義者「オランド・ロドリグ」が起源
1825年にフランスのサン=シモン主義の社会主義者オランド・ロドリグが、同志である芸術家をアバンギャルドと呼んだことがその起源です。
サン=シモン主義とは、政治的・倫理的な改革により理想郷を実現しようとした思想運動です。自分たちの思想を社会に広める「前衛部隊」として芸術家を利用しようとする意図がありました。
「前衛美術運動(アバンギャルド)」の歴史と主な運動とは?
マルセル・デュシャン『泉』(1917年)
(出典:Wikimedia Commons User:Piero~commonswiki)
前衛美術運動のアバンギャルドについて解説します。
「アバンギャルド」は20世紀初頭の世界的な芸術ムーブメント
第一次世界大戦後の1920年代を中心として、20世紀の初頭に世界に熱狂的に興った、各種の芸術ムーブメントを括る呼称がアバンギャルドです。それまでの世界からの解放と、制度や権力への拒否を主張した、新しい世紀に生まれた新しい感性による運動でした。
「アバンギャルド」は、パリに生まれた未来派や、チューリヒに生まれたダダ、その後のシュルレアリスムへと至る運動がその中心です。さらに、ピカソが創始したキュビズムやカンディンスキーらが創始した抽象主義、そしてロシア・アバンギャルドなどの芸術運動など、世界的に興ったさまざまな運動が含まれます。
第一次世界大戦前の「未来派」運動がアバンギャルドの口火を切った
アバンギャルドの口火を切ったのが第一次世界大戦前に起こった「未来派」の活動です。イタリアの詩人マリネッティが、1909年にフランスのフィガロ紙に「未来派宣言」を掲載し、機械とスピードの文明がもたらす新しい美の表現を提唱したことから運動が始まりました。
未来派宣言では「世界の華麗さが新しい美によって豊かになったことをわれわれは宣言する。レーシングカーはサモトラケのニケ像より美しい」と、未知のイメージの創出を試みました。
1910年には画家による「未来派絵画宣言」が出され、その運動は世界に広がりました。とくに革命前夜のモスクワでは、ムッソリーニのファシズムに共鳴していたマリネッティがロシアの前衛芸術家に影響を与え、政治化したロシア未来派が形成されました。
第一次世界大戦後は「ダダ」運動がアバンギャルドの先端
第一次世界大戦後のヨーロッパでは、科学兵器による破壊を目の当たりにしたことから、理性中心主義への拒否感が生まれました。中立国スイスのチューリヒでは、既存の価値観を否定する美術運動「ダダ」が、若い芸術家を中心として起こりました。
ダダは否定や破壊の思想が特徴で、1918年にツァラが「ダダ宣言」によって社会と芸術に対する反逆宣言を唱えました。ダダは戦後すぐにドイツの諸都市やパリに広まり、20世紀に各地で興ったアバンギャルドの発端となり、またその中でもっともラディカル(過激かつ根本的)な運動となりました。
20世紀最大の芸術運動「シュルレアリスム」
ツァラと対立したフランスの詩人アンドレ・ブルトンは、ダダの精神を受け継ぎながらも否定的なダダを放棄し、「シュルレアリスム(超現実主義)」を創始しました。1924年に人間の精神と社会の変革を目指す「シュルレアリスム宣言」を発表します。
シュルレアリスムは1930年代に世界的に広まり、それと同時期にダダは終焉しました。
■参考記事
「シュルレアリスム」の意味とは?代表的な画家や文学も紹介
第二次世界大戦によってアバンギャルドは終焉
1930年代に入り、ヒトラーが政権を握りスターリンが粛清を始めると、前衛芸術運動は否定され、芸術家たちへの弾圧が始まります。アバンギャルドの世界的なムーブメントは終息に向かい、第二次世界大戦の勃発とともに終焉を迎えました。
第二次世界大戦後には、芸術家たちが亡命したニューヨークに新しい芸術の潮流が興り、芸術の中心地はヨーロッパからニューヨークへと移りました。
「アバンギャルド」の対義語とは?
ファッション用語としての対義語は「コンサバティブ」
前衛的、先鋭的なファッションという意味で、アバンギャルドの語はファッションにおいても用いられますが、その対義語として使われるのが「コンサバティブ」です。略して「コンサバ」とも言われ、ファッションにおいての「保守的、伝統的なさま」という意味を表します。
芸術運動としてのアバンギャルドの対義語はとくにありません。
まとめ
「アバンギャルド」は、「前衛部隊」という意味のフランス語の軍事用語を引用した言葉で、「前衛」の意味で主に芸術用語として使われます。その言葉の成り立ちからも、攻撃性や挑発的なニュアンスを含んで使われます。
アバンギャルドは、その時代の前衛的な芸術に対する呼称として使われるとともに、20世紀初頭に世界の各地に興った、さまざまな前衛芸術運動の総称としても使われます。
前衛芸術運動の時代を代表する作品に、ロシアのカジミール・マレーヴィチによる『白の上の「白の正方形」』や、マルセル・デュシャンの『泉』などがあります。