大天使ミカエルは、多くの中世の画家たちに描かれ、キリスト教美術のモチーフとして高い人気があります。ヨーロッパにおいてミカエルとはどのような存在なのでしょうか?
この記事では、大天使ミカエルの名前の意味や、その役割を紹介します。あわせてルシファーやガブリエルとの違い、ミカエルが描かれた絵画などについても解説します。ミカエルゆかりの世界遺産モン・サン=ミシェルも紹介しています。
「ミカエル」とは?
「ミカエル」とはキリスト教における最も偉大な天使
「ミカエル」とは、キリスト教における最も偉大な天使です。その前身はイスラエルの守護神であり、さらに遡れば古代オリエントやケルトの神などの神話に源流があるとされます。
ミカエルは『旧約聖書』にたびたび登場し、旧約聖書を共有するユダヤ教、キリスト教、イスラム教の全てにおけるもっとも偉大な天使として崇められる特別な存在です。
ミカエルの名前は「神を名乗るのは誰だ」という意味
ミカエルの名前は、ヘブライ語で「神を名乗るのは誰だ」という意味の言葉が語源です。その言葉は”だれが神に比べられようか、神を名乗る者は私が倒す”を言い換えた言葉であり、ミカエルが神の番人であることを表わしています。
キリスト教の聖人グレゴリウスは、「大きな奇跡が起こるときには、いつもミカエルが派遣される」と述べ、多くの偉大な奇跡がミカエルのはたらきだとされました。
「ミカエル」は戦う天使の長で男性的な姿で描かれる
一般的な「天使」のイメージは優しく優雅なものですが、ミカエルは悪魔や反キリストと戦う長であることから、鎧で身を固め、剣を持つ男性的な姿で伝統的に描かれます。
聖書の『ヨハネの黙示録』では、ミカエルはドラゴンと戦って大勝利をおさめ、死者たちはミカエルの声によって復活します。ドラゴンと戦う姿のミカエルは人気が高く、繰り返し絵画に描かれました。
また、最後の審判の場面では魂の重さを量る天使として登場するため、天秤を持つ姿で描かれることもあります。
英語では「 Archangel Michael(アーキエンジェル・マイケル)」
大天使ミカエルは英語で「 Archangel Michael(アーキエンジェル・マイケル)」と書きます。「ミカエル」は”Michael”のラテン語の発音です。
欧米でミカエルは聖人と同じく人気があり、ドイツ語では「ミヒャエル(Michael)」、フランス語では「ミシェル(Michel)」、イタリア語では「ミケーレ(Michele)」など、人の名前としても多く用いられます。
「ルシファー」と「大天使ガブリエル」との関係とは?
左からミカエル、ラファエル、ガブリエル
「ルシファー」と「ミカエル」は別の存在
キリスト教において、神に背いた天使は堕天使(だてんし)と呼ばれ、それが悪魔になったとされます。堕天使や悪魔の別名が「ルシファー」です。ルシファーとミカエルが双子だという説があるようですが、キリスト教に関する書物にそのようなことは書かれおらず、キリスト教の世界では両者は別の存在です。
「大天使ガブリエル」は神のメッセンジャー
ガブリエルとミカエルは二大天使と呼ばれ、それぞれが重要な役割を持ちます。ガブリエルは神のメッセンジャーの役割を持ち、聖母マリアにイエスの誕生を予告し、ザカリアスには洗礼者ヨハネの誕生を予告します。ジャンヌ・ダルクに神の言葉を告げたのもガブリエルです。
■参考記事
「ガブリエル」とは?大天使の役割やキリスト教絵画も解説
絵画に描かれた「ミカエル」を紹介
ハンス・メムリンク『最後の審判』(1465年~1471年)
(出典:Wikimedia Commons)
北方絵画を代表するフランドルの画家ハンス・メムリンク(1430年/1440年頃~1494年)の代表的な作品です。『最後の審判』の場面を三連祭壇画に描いています。天の虹の玉座にキリストが座り、地の中央にミカエルが立ち、審判を下すために霊魂の重さを量っています。地獄に行くものたちが右側に、天国に行くものたちが左側に描かれています
ラファエロ・サンティ『聖ミカエルとドラゴン』(1505年頃)
(出典:Wikimedia Commons User:Attilios)
ルネサンスを代表するラファエロ(1483年~1520年)の初期の作品です。『ヨハネの黙示録』における、ミカエルが配下の天使たちとドラゴンと戦った場面を描いています。
グイド・レーニ『大天使ミカエル 』(1636年)
(出典:Wikimedia Commons User:Prosfilaes)
古代ローマ兵士の装束を思わせる衣装をまとったミカエルが悪魔を退治する姿が描かれています。剣を持ち悪魔を踏みつける勇壮なポーズとはうらはらに、顔は優美な女性のようです。
グイド・レーニ(1575年~1642年)は古典主義的な画風を特色とし、「ラファエロの再来」と呼ばれたイタリアの画家です。
ミカエルと「モン・サン=ミシェル」の関係とは?
モン・サン=ミシェル(フランス)
モン・サン=ミシェルは「聖ミカエル山」という意味
8世紀初頭に、司教オベールの夢にミカエルが現れ、先住民のケルト人が聖地としていたトンブ山という岩山に聖堂を建てよと伝えられたのがモン・サン=ミシェルの始まりです。
トンブ山は「聖ミカエル山」という意味の「モン・サン=ミシェル」に名を改め、聖堂に何度も改修を重ねて現在の修道院の姿になりました。19世紀には尖塔の頂にミカエルの銅像が据えられました。
モン・サン=ミシェルはカトリックの巡礼地として多くの信者が訪れ、現在は世界遺産となり、多くの観光客が訪れています。またミカエルのパワーが宿るパワースポットとしても人気です。ケルト人の聖地の時代にはストーンヘンジのような巨石が据えられていました。
まとめ
大天使ミカエルは、キリスト教における神の番人であり、戦う英雄です。ヨハネの黙示録を題材とした、ドラゴンと戦う姿や、最後の審判で魂の重さを量る場面が繰り返し絵画に描かれてきました。
またミカエルが現れて預言を行ったとされる伝説はヨーロッパ各地に数多く残され、ミカエルが出現した地には教会が建てられています。ミカエルを通して、ヨーロッパ中世の信仰世界を垣間見ることができます。