「ガブリエル」とは?大天使の役割やキリスト教絵画も解説

「ガブリエル」はキリスト教美術で人気の高い『受胎告知』に登場する大天使です。ガブリエルや天使の背景について知っておくと、キリスト教をテーマとした美術をより深く楽しむことができます。

この記事では、「大天使ガブリエル」について、その起源や役割を解説します。あわせてガブリエルが登場する絵画や、「大天使」と「熾天使」の違いについても紹介します。

「ガブリエル」とは?

「ガブリエル」とはキリスト教における重要な”二大天使”

「ガブリエル」とは、キリスト教における最も重要な”二大天使”です。『旧約聖書』に名前が現れる天使は”ミカエル”と”ガブリエル”この二大天使のみです。ミカエルは大天使の長であるとされ、それに次ぐ地位にいるのがガブリエルです。

旧約聖書の前身はユダヤ教の聖典であり、二大天使はユダヤにおいても重要な天使でした。また、キリスト教ののちに成立したイスラム教においても、開祖ムハンマドがガブリエルとともにエルサレムの岩の上から昇天したとされており、イスラム教においてもガブリエルとミカエルは重要な天使です。

■「大天使」の詳しい意味については以下の記事を参考にしてください。
「大天使」の意味とは?ミカエル・ガブリエル・ラファエルも解説

「ガブリエル」は古代オリエントの神話が起源とされる

「ガブリエル」は古代オリエントの神話に登場する神に起源があります。名前の語源は「支配者・統治者」という意味のシュメール語「gbr」です。古代の神話の内容は明らかではありませんが、『旧約聖書』においてエデンの園の統治者としても現れることから、ガブリエルは統治する神であったのかもしれません。

ガブリエルはヘブライ語では「神の人」という意味を持ち、英語では「 Gabriel」と書きます。

「ガブリエル」は神の言葉を伝えるメッセンジャー

ガブリエルは、神の言葉や意思を人間に伝える役割を持つ大天使です。キリスト教では、イエス・キリストの受胎をマリアに告げる「受胎告知」の役割を持ち、これまでに多くの絵画に描かれてきました。

また、イエスに洗礼を行う「洗礼者ヨハネ」の誕生も母ザカリアの前に現れて伝えています。「最後の審判」でラッパを吹き鳴らし、死者を蘇らせて天上の国に導くのもガブリエルだとされます。

これらの場面は、『旧約聖書』に収められた「ルカ福音書」「マタイ福音書」や、『新約聖書』の「最後の審判」に記述されています。

「ガブリエル」は絵画では女性的に描かれることが多い

絵画では、ガブリエルは聖母マリアの前に純潔の象徴である白い百合を持って現れ、イエスを受胎したことを伝えます。「妊娠」がテーマであるため、絵画などでは女性的、あるいは両性的に描かれる傾向があります。

それに加えて、キリスト教にも継承されたユダヤ教の伝承では、ガブリエルが神の玉座の左側に座っていたとされており、主人の左に座すのは女性とされていたことから、ガブリエルは女性であるとの説も生まれました。しかし一般的には天使に性別はないとされています。

「大天使ガブリエル」が登場する絵画作品とは?

アダムとイヴも描かれた「フラ・アンジェリコ」『受胎告知』

『受胎告知』(1426年頃) プラド美術館(マドリード)
(出典:Wikimedia Commons User:Alonso de Mendoza)

フラ・アンジェリコの絵画は、数ある『受胎告知』の中でも、静謐な美しさで人気の高い作品です。ガブリエルの受胎告知をマリアが静かに受け入れた場面を描いています。

画面左後方に描かれた、楽園を追放されるアダムとイブは、二人が犯した人類の罪を、マリアから生まれるイエスが贖(あがな)う運命にあることを表しています。

宝石の冠をつけた豪華なガブリエル「ヤン・ファン・エイク」『受胎告知』

『受胎告知』(1434年~1436年) ナショナル・ギャラリー(ワシントン)
(出典:Wikimedia Commons User:Aavindraa)

ネーデルラント・ルネサンスの巨匠ヤン・ファン・エイクは、宝石の冠と豪華なマントに虹色の翼をつけたガブリエルを描きました。聖霊の象徴である鳩を通じて神を示す光がマリアに達し、受胎の瞬間が描かれています。

マリアは『イザヤ書』「見よ、乙女が身ごもりて男子を産む」の箇所を読んでいます。ガブリエルは「アヴェ・マリア(めでたし、マリア)」と呼び掛けています。

男性的なガブリエル「ティントレット」『受胎告知』

『受胎告知』(1582年~1587年)サン・ロッコ同信会館収蔵
(出典:Wikimedia Commons)

フラ・アンジェリコの『受胎告知』では、マリアはガブリエルの言葉を静かに受け入れている場面が描かれましたが、ティントレットの『受胎告知』(1582年~1587年)では、ガブリエルの突然の来訪にマリアが驚く場面が描かれています。

ガブリエルの姿は筋肉質な男性のように描かれ、また天使の大群とともに嵐のようにやってきたかのようです。伝統的な穏やかで女性的なガブリエルとは違った視点で描かれています。

「大天使」と「熾天使」の違いとは?

「熾天使」は天使階級の最上位

キリスト教の大天使は重要な天使として崇敬されてきました。そのため、天使のヒエラルキーの中で最上位の階級である「熾天使(してんし)」と「大天使」が混同されることがあるようです。

しかし、「熾天使」と「大天使」は別の存在です。5~6世紀頃の神学者ディオニュシオスが、『天上位階論』において天使の階級を9段階に定めたことから区別されました。

最上級の天使が「熾天使(してんし:セラフィム」で、神に最も近い存在とされます。中世の絵画では、伝承により6枚の翼を持つ姿で描かれますが、聖書の外典などでははっきりとした姿についての描写はありません。

「大天使」は下から2番目の階級となり、下にゆくほど人間に近い姿であるとされます。大天使が神と人間をつなぐメッセンジャーの役割を持つのも階級の位置が関係していると言えます。

まとめ

大天使ガブリエルは神の言葉を伝えるメッセンジャーとしての枠割を持つ重要な天使です。イエス・キリストと洗礼者ヨハネの名前について、そのように名付けなさいと神からのメッセージを伝えたのはガブリエルであることからも、その重要さがわかります。

ガブリエルはおびただしい数の『受胎告知』の絵画に多く描かれてきました。その優雅な姿は人気が高く、戦いの姿で雄々しく描かれるミカエルとともに西洋で愛されています。

■参考記事
「受胎告知」の意味とは?聖書や日本にあるエル・グレコの作品も