「命題」は数学の証明問題でよく登場した言葉ですが、ビジネスや日常生活でも時折用いられることがあります。しかしビジネスなどで見聞きする「命題」には、数学で登場したときとは違う意味合いがあるようです。この記事では「命題」の意味を複数あげ、数学やビジネスでの使い方の違いや例文もあわせて紹介しています。
「命題」の意味とは?
「命題」とは題を付けること
「命題」の意味は、題を付けることやその題です。名前を付けることを表した「命名」と同様に考えると分かりやすいでしょう。
「命」という文字には「名付ける」という意味があり、「命題」や「命名」で用いられている「命」はこの意味合いを持つものです。
「命題」は真偽を断言できるもの
論理学における「命題」には、真偽を断言できるものという意味があります。「真・偽」という概念で思考の道筋を説明する学問で、具体的な例としては「三段論法」があげられます。論理学で
- 太陽は地球の周りを回っている
- 地球は太陽の周りを回っている
という場合、1では「偽」、2では「真」と断言できるため、いずれも「命題」といえるものです。なお、「Xは偶数である」という場合には不確定要素である「X」が含まれるため、論理学的には「命題」にあたりません。
「命題」とは「問題」のこと
数学での「命題」には、客観的な真偽の判断対象となる文章・式、つまり「問題」という意味があります。
一般的な文章や式と「命題」の最大の違いは、その真偽が学問的な判断・議論の対象となっていることです。なお数学における「定理」とは、証明された「命題」を指しています。
「命題」には「課題」という意味も
「命題」は、「課題」という意味合いでも用いられています。たとえば「デフレ脱却が至上命題」というような場合、デフレ脱却の真偽を重視しているのではなく、デフレ脱却は猶予ならない課題であるといっているのです。
真偽の判断が必要となる数学や論理学本来の「命題」とは明らかに意味が違うものですが、一般的に広く使われるようになっています。なお「命題」に似た意味合いで使われる「テーゼ」は、英語ではなくドイツ語です。
「命題」の数学の使い方
数学での「命題」に必須の客観的真偽
数学での「命題」は、客観的に真偽が判断できるものでなければなりません。たとえば「この花はきれいだ」という文章は、人によって判断が異なってくるため「命題」とはいえないものです。
一方「1は奇数である」「1は偶数である」などは、いずれも客観的に真偽が判断できるため「命題」にあたるものです。このように数学での「命題」には、誰もが真偽を判断できる客観性が不可欠といえます。
「命題」と「待遇」の真偽は一致する
数学の「命題」に苦手意識を持っている方もおられるようですが、「命題」と「待遇」の真偽は必ず一致するということを押さえておけば、理解しやすくなります。
「待遇」とは、「pならばqである」の「qでないならpでない」にあたるものです。具体的には「命題」が「鳥類ならば卵生である」であるときの「対偶」は「卵生でないなら鳥類でない」となり、この場合の「命題」が真であるため「待遇」も真となります。
「対偶」「逆」「裏」も「命題」
「対偶」とともに数学の証明問題でよく登場する言葉として「逆」と「裏」があります。「pならばqである」のとき「qならばpである」が逆、「pでないならqでない」にあたるものです。
さきほどの鳥の例でみると逆は「卵生であれば鳥類である」、裏は「鳥類でないなら卵生でない」となりますが、爬虫類などの存在からいずれも真でないことがわかります。
つまり、「命題」が真であっても「逆」や「裏」が真であるとは限りません。なお、「対偶」「逆」「裏」のいずれも客観的に真偽を判断できるため「命題」といえるものです。
「命題」のビジネスでの使い方
ビジネスで使われる「命題」は本来誤用
ビジネスにおいて「命題」が登場する場合には、「課題」という意味で用いられることがほとんどです。しかし、「命題」とはそもそも「AならばB」というように論理の筋道が示されているもので、「課題」という意味合いはありません。
「至上命令」と混同された「至上命題」という語句が一般的に使われるようになり、新しい意味合いが加わっていったようです。
「命題」の適切な言い替えは「課題」
本来は誤用であっても、広く用いられるにつれ一般的な用法として定着することはよくみられる現象です。「至上命題」は「最重要課題」や「最優先課題」としたほうが適切でしょう。
ビジネスの場で用いられる「命題」の誤用が気になるなら、「課題」「問題」「使命」などと言い替えることをおすすめします。
「命題」を使った例文
- 真偽が判断できないものを「命題」にすることはできない
- 「命題」の証明問題では「対偶」がよく用いられる
- この「命題」は証明されたから「定理」に格上げできる
- 彼はこの「命題」の追求に学者生命を掛けている
- 「命題」を「課題」の意味で用いることには抵抗がある
まとめ
「命題」の意味のほか、数学やビジネスでの使い方と例文なども紹介しました。「命題」には論理の筋道が示されていることと、客観的な真偽の判断が可能であることが必要です。この2点を満たしていれば、真であっても偽であっても「命題」として成り立つという点も重要でしょう。
社会人になると本来の意味合いで「命題」に出会う機会が少なくなりますが、たまには問題解決の手法として「命題」を活用してみられてはいかがでしょうか。