「仁義」は、任侠をテーマとする映画やコミックなどでよく見聞きする言葉です。しかし、儒教でも重んじられている理念であることから、日常生活やビジネスにおいてもおろそかにするとトラブルになることがあります。この記事では「仁義」の意味と使い方・例文のほか、孔子との関係や類語も紹介しています。
「仁義」とは?
「仁義」の意味は”儒教の根本理念”
「仁義(じんぎ)」の意味は、”儒教の根本理念”のことです。儒教の徳目としてあげられる「五常(仁・義・礼・智・信)」のなかでも重要とされる理念のことを指します。
「仁」は他人を温かく思いやり慈しむことで、五常のなかで最高の徳目とされています。「義」は私利私欲ではなく、世のため人のために行動することです。
「仁義」には人として守るべき務めという意味も
「仁義」には、道徳や礼儀において守るべき務めという意味もあります。「仁」という文字は「人の道」、「義」という文字は「道理」という意味を持っており、両者があわさって道徳や礼儀上守らなければならない大切な務めのことを表す熟語を形成しています。
「仁義」はある業界での掟・挨拶
「仁義」は、博徒や香具師(やし)などの業界における掟や挨拶という意味があります。とくに初対面の際に口上を述べることやそのさまを「仁義を切る」といいますが、業界独自の形式や言い回しを持ったものです。
元々はおじぎという意味の「辞宜・辞儀(じぎ)」といわれていたものが、後に「仁義」の字をあてて読みも「じんぎ」に変わったとされています。
「仁義」には「義理」という意味も
「仁義」は、「義理」という意味合いでも用いられています。たとえば一般の会社間における取引などで、付き合いのあったA代理店を通さずに発注する場合や、これまでB社に依頼していた仕事を別の会社に依頼する場合など、A代理店やB社に義理を通しておく必要があります。
この義理を通すことが「仁義を切る」ことにあたりますが、「仁義」は業界を問わず取引や付き合いに不可欠のものなのです。
「仁義」と孔子との関係とは?
孔子が重んじたのは「仁」
儒教は孔子が作ったものではなく、後世に成立したものです。しかし、儒教の経典である「四書五経(ししょごきょう)」のなかで最も古いうえ抜群の知名度を誇っているものが、孔子の言行を弟子たちが編纂した「論語」であることから、「儒教=論語=孔子」とみなされるようになりました。
よく知られている「巧言令色鮮矣仁(こうげんれいしょくすくなしじん)」からもわかるように、「論語」のなかで孔子がたびたび取り上げて重んじている理念が「仁」なのです。
「仁義」は”仁”の発展形
孔子が最も重んじたのは「仁」でしたが、孔子の思想は孔子の弟子である曾子が著した「大学」から、曾子の弟子であり孔子の孫でもある子思がまとめた「中庸」を経て、孟子と弟子たちの言行録である「孟子」へと流れました。これらは「論語」とあわせて「四書」とよばれ、儒教の経典となります。
孟子は、他者への親愛の情である「仁」と道徳的な規範である「義」をあわせて「仁義」へと発展させました。したがって、孔子は「仁義」を直接説いたわけではありませんが、「仁義」のベースを作った重要人物といえる存在なのです。
「仁義」の使い方と例文とは?
「仁義」は任侠世界を連想させる言葉
「仁義」は本来、人間として持つべき徳目を指している言葉です。しかし、任侠の世界をテーマとした映画やドラマなどの題名に「仁義」がよく登場することから、「仁義=任侠」と受け取られがちになっています。
「仁義」という言葉を用いる際にはこの点を押さえておく必要があり、場合によっては後で紹介する類語に置き換えたほうが無難でしょう。
「仁義」を使った例文
「仁義」を使った例文をご紹介しましょう。
- 世話になった恩人に仇をなすなど、彼の仁義を欠く行為には目に余るものがある。
- 仁義を重んじる考えの社長は、儲け最優先の風潮を苦々しく感じておられるようだ。
- 面倒でも関係者に仁義を通しておけば、後で揉めるようなことにはならないはずだ。
「仁義」の類語とは?
類語①「礼儀」とは敬意を表す行為
「礼儀」とは、相手に敬意を持って接することを指した言葉です。表面だけの儀礼的なものととらえられがちですが、「五常」における「仁」の具体的な行為とされるものが「礼」であることからわかるように、人の道と道理を表す「仁義」を体現したものといえます。
類語②「義理」とは人としての道のこと
「義理」とは、人として守るべき正しい道のことや社会生活における務めのことです。「義理を果たす」「義理を通す」「義理立てする」など用法も多く、使いやすい言葉といえます。なお、表面的な付き合いや血縁でない親族のことを指しても用いられます。
まとめ
「仁義」の意味と使い方のほか、孔子との関係や例文・類語なども紹介しました。技術の進歩や社会の変化は日ごとに速度を増しているようです。
しかし、人と人との関係性において大切な理念は時代を経ても色あせることはありません。この機会に、「仁義」をはじめとする儒教的な価値観を見直してみられてはいかがでしょうか。