「無作為」は統計でよく用いられるもので、人為的な加工がなされていないことを表す言葉です。統計学以外にも用いられますが、「不作為」や「ランダム」などとの違いを問われると戸惑ってしまうという方もおられるでしょう。この記事では「無作為」の意味と使い方をはじめ。似た言葉との違いや対義語・類語も紹介しています。
「無作為」の意味と使い方とは?
「無作為」の意味は”偶然”
「無作為」の意味は、“偶然・意図せずに”です。何らかの目的のために準備や計画をして行動するのではなく、なりゆきに任せて手を加えないということ、わかりやすく言い換えると「わざとではない」ということです。
「無作為」は作為的に行われることも
「無作為」には、すべての起こり得る事柄が等しく同じ確からしさで起こるようにするという意味もあります。
この場合の「無作為」は人為的に条件を作り出すことによって実現させるもので、いわば作為的なものです。このような場合の「無作為」は、統計学でよく用いられています。
「無作為」の使い方がわかる例文
「無作為」の使い方がわかる例文をいくつかご紹介しましょう。
- 面接のグループ分けは無作為に行われるので、どんな面々になるかを心配しても仕方がない。
- 彼女との出会いはドラマのように運命的で、無作為だったといっても誰ひとり信じてくれない。
- 今回の選挙結果は不自然極まりなく、「無作為」を強調する委員会の態度もかえって怪しい。
- くじの当選番号は「無作為」で決められるはずなのに、なぜか彼はよく当たるように思える。
- この統計の母集団は「無作為」に抽出されているそうだが、サンプルが少なすぎるという声が多く聞かれる。
「無作為」と言い換え可能な類語とは?
類語①「任意」とは自由意志に任せること
「任意(にんい)」とは、強制や義務付けされることなく自由な判断に任せることを指す言葉です。「任」という文字には”自由にさせる”という意味があり、「考え・気持ち」を表す「意」を伴って熟語が成立しています。
「無作為」の言い換えとして使うことができるのは統計学における用法で、「無作為抽出」と「任意抽出」は同義です。
類語②「無差別」とは区別をしないこと
「無差別」とは、ものごとを区別せず同等に扱うことを表した言葉です。「無」を外した「作為」と「差別」の意味はかなり異なりますが、「差別」が持つ「選り分ける」という動作は人為的に行われるものであるため、「無作為」に選ぶことを「無差別」と言い換えることは可能です。
しかし「無差別」には”手あたり次第”というニュアンスがあり、後に「テロ」や「攻撃」が続く用法がよく見受けられます。したがって、「無作為」との互換性は限定的なものとなります。
「無作為」の対義語とは?
対義語①「作為」とは人為的に作りだすこと
「作為」とは人が意図的に作り出すことや、故意に手を加え事実であるかのように装うことを指す言葉です。
「無作為」は「作為」に否定を表す接頭語の「無」がついて、作為がないという意味の熟語となっています。「無作為」のように熟語に接頭語の「無」がついてできた言葉の対義語は、元の熟語となります。
対義語②「恣意的」とは思い通りにするさま
「恣意(しい)的」とは自分の思い通りにふるまう、身勝手で気ままな様子のことです。自分の意図に沿うようにものごとを判断したり作り替えたりしようとする考えを指します。
本来「無作為」に行われるべき抽選を「恣意的」に行うことで、主催者が意図的に当選者を決めることができるようになるのです。
「無作為」と「ランダム」の違いとは?
「ランダム」は”行き当たりばったり”という意味
「ランダム」は英語単語「random」の読みをカタカナ表記したもので、日本語として通用しています。
「random」そのものの意味は「行き当たりばったりの・手当たり次第の・でたらめの」などで、明確な目的や計画がない行動や考えという意味合いで用いられる形容詞です。なお名詞として「random」が使われるときには、「未知の人・予想外の人」を指します。
「ランダム」は統計学でよく用いられる
統計学において「ランダム」は、”無作為の”という意味でよく用いられている言葉です。「ランダムサンプリング」は母集団から無作為に標本を抽出する方法で、「ランダムナンバー」は発生に規則性がなく次の値を予測できない数値のことを指します。
「無作為」と「不作為」の違いとは?
「不作為」とはあえて積極的行為をしないこと
「不作為(ふさくい)」とは、現在起きている出来事に対して積極的に働き掛けることなく、そのまま放置することです。
接頭語の「不」は「無」と同様に否定を表す働きをしますが、「不」は”~しない”、「無」は”~がない”という違いがあります。つまり「不作為」はあえて「作為」を行わないことを、「無作為」は「作為」そのものがないことを表しているのです。
なお「不作為」には、気が利かないことや工夫がないことを指しても用いられ、この場合「ぶさくい」とも読みます。
「不作為」は法律用語にも
「不作為」は、法律用語として使われている言葉です。不作為そのものを処罰対象としているケースを「真正不作為犯」、不作為によって犯罪が遂行されるケースを「不真正不作為犯」と呼びます。
具体的には暴行目的で大勢が集まったとき、警察官から3回以上解散命令を受けても解散しないときに成立する「多衆不解散罪」が「真正不作為犯」、保護者が自分の子供に食事を与えず餓死させたときに問われる殺人罪が「不真正不作為犯」です。
まとめ
「無作為」の意味と使い方のほか、類語や対義語も紹介しました。「無作為」は人為的に手を加えないことを指しますが、人工的な世界における「無作為」は、作為的な配慮がなければ実現しないものといえます。
世の中の出来事で本当に「無作為」といえるものは、運命の悪戯のような偶発的なものに限定されるようです。