「滂沱の涙」は誤用?正しい意味と使い方・類語を例文付きで紹介

「滂沱」は、水などが激しく流れる様子を表した言葉です。日常生活で「滂沱の涙を流す」という言い回し以外の表現はあまり見受けられません。しかし「滂沱の涙」は誤用にあたるのではという意見もあるため、この機会に正しい意味と使い方、類語なども押さえておくことをおすすめします。

「滂沱」の意味とは?

「滂沱」の意味は”液体が激しく流れるさま”

「滂沱」の意味は、“液体が激しく流れるさま”です。読み方は「ぼうだ」です。

「滂沱」の意味
  1. 雨が激しく降るさま
  2. とめどなく涙が流れるさま
  3. 汗や水などが激しく流れるさま

「滂」は水が盛んに流れる様子を、「沱」は水が流れ続ける様子や涙が流れ落ちる様子を表した文字で、ふたつあわさって熟語の意味合いを示しています。

「滂沱」の使い方と例文とは?

「滂沱」は主に書き言葉で使われる

「滂沱」は定型的な表現以外で使われることは珍しく、書き言葉としても日常生活ではあまり見掛けません。

その理由は、「滂沱」が文語のタリ活用形容動詞だからです。文語の形容動詞には現代語の形容動詞にあたる「〇〇ナリ」と、現代語の副詞にあたる「〇〇タリ」という二通りの活用形があります。

「滂沱」は”〇〇タリ”のタイプに分類され、連用形・終止形では「涙、滂沱たり」、連体形では「滂沱たる涙」のように用います。

「滂沱」を使った四字熟語「流汗滂沱(りゅうかんぼうだ)」は、身体から汗が激しく流れ出ている様子を表したものです。

「滂沱」は持続して激しく流れるものに使う

「滂沱」の基本的な意味は、雨や川の水のほか、涙や汗などが持続して激しく流れる様子を表すものです。したがって、静かに流れるものや一時的に流れるものを指して用いることはできません。

たとえば小雨が降り続いたり、豪雨であっても一時的であったりする場合や、静かに涙を流したり、大声で泣いてもすぐに泣き止んだりする場合に「滂沱」を使うことは誤りです。

「滂沱」を使った例文

「滂沱」を使った例文をご紹介しましょう。

  • 炎天下にもかかわらず、誰もが滂沱の汗を流して作業を続けていた。
  • 滂沱たる大雨は止む気配がなく、河川の氾濫が懸念される。
  • あまりにも悲劇的なラストシーンに、滂沱の涙を禁じえなかった。

「滂沱の涙を流す」とは誤用?

「滂沱の涙」は重複表現

「滂沱」には、”とめどなく涙がながれるさま”という意味があります。つまり「滂沱」には”涙”と”流す”が含まれていることになるため、正確にいうと「滂沱の涙・滂沱の涙を流す」は重複表現に該当するものです。

しかし、誤用とは言い切れず、「滂沱の涙」や「滂沱の涙を流す」は定型的な言い回しとして認められています。ほかにも「涙滂沱として」や「涙滂沱たり」という表現も見受けられる表現です。

「滂沱の雨」や「滂沱の汗」も重複表現

「滂沱」には”雨が激しく降るさま・汗や水などが激しく流れるさま”という意味もあります。そのため「滂沱の涙」と同様に、「滂沱の雨」や「滂沱の汗」も重複表現といえるものです。

しかしこれらの表現も定型的な言い回しとして通用しており、誤用と言い切ることはできません。

「滂沱」の類語と例文とは?

類語①「大雨」とは大量に降る雨のこと

「大雨」とは、特定の時間内に通常を上回るほどの量が降る雨のことです。一時的に降る「大雨」もあれば、長期間降り続く「大雨」もありますが、「滂沱」にはある程度の期間にわたって降り続く「大雨」が該当します。

なお、「大雨」と似た言葉として「豪雨」があげられます。「豪雨」は、「大雨」より激しい勢いで降る雨のことを指しますが、気象庁では「著しい災害が発生した大雨」のことを「豪雨」と呼び、災害が発生するまで「豪雨」とはいいません。

例文
  • 梅雨明けの頃には例年大雨が降るため、防災意識を高めておく必要がある。

類語②「慟哭」とは悲しみのあまり大声で泣くこと

「慟哭(どうこく)」とは、悲しみのあまり耐えきれず大声で泣くことを指した言葉です。「慟」という文字は、身を震わせて嘆き悲しむという意味が、「哭」には大きな声で泣くという意味があります。

似た言葉の「号泣(ごうきゅう)」は大声をあげて泣くことを表していますが、「慟哭」とは違って悲しみ以外の感情による場合にも使います。

「滂沱」は大量の涙を流して泣く状態が続いていることを指していますが、「慟哭」や「号泣」は感情を激しく表して泣くことを指しているものです。なお、「滂沱たる慟哭」や「滂沱の号泣」という言い回しはみられません。

例文
  • 恩人の訃報を知った彼は、人目を憚ることなく慟哭した。

類語③「大汗」とは大量の汗のこと

「大汗(おおあせ・たいかん)」とは、大量の汗のことを表した言葉です。四字熟語の「流汗淋漓(りゅうかんりんり)」は、汗が流れてしたたり落ちる様子のことで、「滂沱」に近いニュアンスを持っています。

例文
  • 緊張のあまり大汗をかきながら、重役たちの前でプレゼンを行った。

まとめ

「滂沱の涙」は誤用か否かについて、正しい意味と使い方のほか類語もふくめて解説しました。厳密にいえば正しい表現ではないものの、一般的に受け入れられている言葉や言い回しは多くみられます。

「滂沱の涙(を流す)」や「滂沱の雨(汗)」などはどこで使っても問題ない表現ですが、やや大袈裟な印象を与えかねないという点には注意が必要です。