「禅譲」とは権力や地位を話し合いによって平和裏に譲り渡すことを指しており、政治や経済のニュースでときおり見聞きする言葉です。穏やかではないニュースも報道されるように、必ずしも意味通りには行われない「禅譲」について、この記事では意味と使い方のほかデメリット、簒奪・放伐との違いなどを紹介しています。
「禅譲」の意味とは?
「禅譲」の意味は”権力の座を平和裏に譲り渡すこと”
「禅譲(ぜんじょう)」の意味は、“権力の座を話し合いなどによって、血縁関係のない者へ平和裏に譲り渡すこと”です。「禅」と「譲」という文字には、ともに”ゆずる”ということを表しており、これら二つの文字があわさって意味合いを強めています。
なお「禅譲」には、天皇や支配者が位を後継者に譲る「譲位」という意味もあります。
「禅譲」は中国における君主交代の一形式
「禅譲」は、中国における君主交代の一形式です。中国では古来、王朝は天命によって革まる(あらたまる)という「易姓革命」の思想があります。このときに武力行使によらず、天命を受けたとされる有徳者に帝位を譲ることを「禅譲」というのです。
古代中国の聖天子といわれる堯 (ぎょう) ・舜 (しゅん) ・禹 (う) は、血統ではない有徳者に政権を譲ったとされており、以降宋の時代まで「禅譲」の形で王朝が変わっていきました。
「禅譲」の使い方と例文とは?
「禅譲」はサ変動詞の用法が多い
「禅譲」は漢語で名詞にあたるものですが、”禅譲する”や”禅譲される”というようにサ変動詞の形で用いられることが一般的です。
サ変とはサ行変格活用の略称で、「~しない・~する時・~すれば・~せよ」というように語尾がサ行音をもとにして変化することを指します。
「禅譲」は帝位以外に使われることが一般的
現代「禅譲」は、王室や皇室が存在する国は少数であることから、政治や経営における権力の継承において用いられることが一般的です。
たとえば、副知事を経て知事になることが慣例となっているようなケースや、経営者が血の繋がらない有能な人物にトップの座を譲るケースなどがよくみられます。
「禅譲」で譲られるものは地位だけではない
「禅譲」における後継者は、現行の体制や理念などを継承できる人物が選ばれるものです。そのため「禅譲」のよって譲られるものは、地位だけではありません。
つまり「禅譲」される人物には、先代の意向をよく理解して、現行の体制や理念などをしっかりと引き継いでいくことが期待されているのです。
「禅譲」を使った例文
「禅譲」を使った例文をご紹介しましょう。
- 会長は役職を禅譲すると言っているが、人選を見る限り院政を敷くつもりのようだ。
- このままでは誰が社長の座を禅譲されることになっても、お家騒動は避けられそうにない。
- 慣例通りナンバー2が禅譲を受けるとみられていたが、土壇場で辞退したらしい。
「禅譲」のデメリットとは?
後継者選定までが不透明
「禅譲」のデメリットとしては、禅譲される人物の選考がどのようにおこなわれたかについて不透明であることがあげられます。
よく「密室」と批判されますが、誰がどのようにして禅譲を受けることになったのかは、関係者以外知ることはできません。
そのため人選に対する批判が起こりやすく、継承そのものが白紙撤回されたり、禅譲後に分裂が起きたりするリスクがあるのです。
「禅譲」には目新しさがない
「禅譲」を受ける人物は、前任者の信頼が厚くこれまでの内情や課題などに精通しいるものです。そのため継承や引継ぎがスムーズに行われる反面、禅譲の前後に変化がなく目新しさが感じられないというデメリットがあります。
とくにこれまでの制度や体制が飽きられているような場合には、改革を求める声が大きくなり、思い通りに禅譲が進まないケースもみられます。
「禅譲」と簒奪・放伐との違いとは?
「簒奪」とは継承資格のない者が地位を奪取すること
「簒奪(さんだつ)」とは、本来であれば継承資格のない者が、帝位・政治権力・支配権などを奪い取ることを指した言葉です。
「簒」には”横取りする”、「奪」には”力ずくで取り上げる”ことを表しており、正当ではない方法で奪い取ることを意味する「簒奪」という熟語を構成しています。
「放伐」とは暴君・暗君を武力で追放すること
「放伐(ほうばつ)」とは、中国の易姓革命観における君主交代の一形式で、天子として相応しくない支配者を武力によって追放して新たに王朝を建てることを表したものです。
殷の湯王が夏の桀王を放伐した事例や、周の武王が殷の紂王を放伐した事例が知られています。
なお「禅譲放伐」という四字熟語は「禅譲」と「放伐」を合わせた言葉で、有徳の人物によって天命が正しく行われる手段とされているものです。
まとめ
「禅譲」の意味と使い方のほか、デメリットや簒奪・放伐との違いについても紹介しました。権力の継承は平和裏に行われるに越したことはありませんが、すべての関係者が納得するような継承はまれです。
しかし、権力闘争によって生じる空白に付け入ろうとする勢力があることも考えられるため、できるだけ円満な解決を目指して努力することが望まれます。