「懸想」の意味とは?言い換えに使える類語や正しい読み方も紹介

「懸想」とは、ひとことでいうと「恋心」のことです。かつては男性から女性への恋心に限定されていましたが、現在はそのような縛りはなく自由に使うことができます。この記事は「懸想」の意味と使い方・例文のほか、読み方や言い換えに使える類語なども紹介しており、語句への理解を深めるために役立つ内容となっています。

「懸想」の意味とは?

「懸想」の意味とは「恋い慕うこと」

「懸想」とは、恋い慕うことや思いをかける気持ちのことを表した言葉です。

「懸」という文字には「心にとどめる」「つなぐ」という意味があり、「おもい」を表す「想」とともに「思いを心にとどめる」、つまり「意中の人を恋い慕う」ということを指す熟語「懸想」を構成しています。

読み方は「けんそう」から「けそう」に変化

「懸想(けそう)」はもともと「けんそう」と読まれていました。しかし、徐々に「ん」が省略されるようになり、現在は「けそう」という読み方が一般的です。

「ん」という文字はかつて存在せず、発音される場合でも表記はされませんでした。これを撥音無表記(はつおんむひょうき・撥音とは「ん」のこと)といい、「懸想(けんそう)」を仮名書きすると「けそう」となったのです。

そして、読みにおいても次第に「ん」は省略されるようになり、「けそう」という読み方が定着しました。

「懸想」を読むときは「想」にアクセントを

「懸想」を声に出して読むときのアクセントは、「想」におきます。

「想」の読み方は「懸想」「懸想する」の場合は「そ」を強く、後述する「懸想人」や「懸想めく」などの場合は平坦に読むというように区別されています。

「懸想」の使い方と例文

「懸想」はもともと「男性が女性を思うこと」

「懸想」は源氏物語にも登場するほど古くから使われている言葉で、男性が女性を恋しく思うときに使われる言葉でした。これは、かつて求愛は男性から女性に対して行われることが一般的だったことによるものです。

現代では女性から男性に向けてだけではなく、同性に対して恋い慕う場合にも使うことができます。

「懸想」は「懸想する」と表現することが多い

「懸想」は、源氏物語でも「私の懸想もいとよしく置きて」のように名詞として使われているものです。他に「懸想人(恋人)」や、前出の「懸想文(ラブレター)」という用法もあります。

しかし、「~する」などを続けることで動詞として使っているケースもよくみられる言葉といえます。

伊勢物語に見られる「懸想じける」は、動詞「懸想ず(懸想する)」の連用形「懸想じ」に、過去を表す助動詞「けり」の連体形「ける」がついたものです。

他にも「懸想立つ(恋心が表に現れる)」「懸想ばむ(恋い慕っているように振る舞う)」「懸想ぶ・懸想めく(恋心を態度に表す)」などもよくみられます。

「懸想文売り」とは節分の風物詩

京都・聖護院の須賀神社では、節分に二人組の「懸想文売り(けそうふみうり)」が登場します。

「懸想文」はもともと恋心をしたためた恋文(ラブレター)のことで、江戸時代に字が書けない人に代わって恋文を書く代筆業がありました。これは生活苦の公家たちが、白い布で顔を隠したいで立ちで副業として「懸想文売り」を行っていたものです。

須賀神社の「懸想文売り」はその風習が伝わったもので、現在も水干・烏帽子姿(朝廷に仕える下級官人が用いた衣服)で縁結びのご利益がある「懸想文」の授与を行っています。

「懸想」を使った例文

  • 彼女の眼差しに自分への懸想めいたものを感じたというが、それは彼の妄想だろう。
  • 友人の彼女への懸想をずっと隠し続けてきたが、とうとう友人に見抜かれてしまった。
  • 先生に懸想するなど受験生としてあるまじきことだが、どうにもできずに焦っている。

「懸想」の類語と言い換え表現とは?

「恋慕」とは「恋い慕うこと」を表す類語

「恋慕(れんぼ)」は見ての通り恋い慕うことを指している言葉です。「~する」をつけて動詞として用いている事例も多く、「懸想」の言い換えとして使うことができます。

恋する気持ちのことを表した「恋慕の情」や、すでにパートナーがいる相手に恋心を抱く「横恋慕(よこれんぼ)」なども、よく使われる言い回しです。

「御執心」とは恋心を冷やかす言い換え表現

「御執心(ごしゅうしん)」は「ずいぶんと彼女に御執心のようだね」というように、恋心を抱いていることを冷やかしていう言葉です。

「執心」はあるものごとに強くひかれてこだわることを表した言葉で、恋愛の対象となる人物への場合には、「御執心」という言い回しで冷やかしの意を込めて用いているケースが多くみられます。

「思し召し」とは恋心をからかうときに使う

「思し召し(おぼしめし)」とは、異性に心をひかれる気持ちをからかっていうときによく用いられる言葉です。

「思し召し」は「思う」の尊敬語「思し召す」の名詞形で、相手の考えや気持ちを敬って言うときに使われます。これに由来し、相手に金額を任せることを指す「お志」のほか、相手が自分を愛してくれる気持ち、恋心を揶揄することを表すようになりました。

まとめ

「懸想」には「意中の人を恋い慕う」という意味があります。読み方はもともと「けんそう」でしたが、現代では「けそう」と読むのが一般的です。

「源氏物語」にも登場するほど昔から使われている「懸想」には典雅な雰囲気があります。現在も使われているため古語とは言い切れませんが、相手が意味を知らないことも考えられます。ラブレターに使うことは避けた方が無難でしょう。