「楷書」は最も標準的な書体で、小学校低学年の習字で書くものです。そのためか、「草書」や「行書」は「楷書」を崩したもののように思えますが、書体として成立した時期は「楷書」がもっとも後といわれています。ここからは「楷書」の意味や書き方・特徴のほか、「草書」や「行書」との違いや関係などについて紹介します。
「楷書」の意味とは?
「楷書」は漢字の書体のひとつ
「楷書(かいしょ)」とは、漢字の書体のひとつです。小学生が最初に習う書体ですが、「正書」「真書」とも呼ばれており、最も標準的な書体とされています。
「楷」という文字の意味は、「模範・手本」や「のっとる」「正しい」ということです。また枝が直角に別れ、葉が整然とそろっているウルシ科の樹木の名前にも使われています。
「楷書」の特徴は文字を崩さずに書くこと
「楷書」の特徴は「楷」という漢字の意味通り、文字の文字の一点一画を崩さずに整然と書くということです。印刷用のフォントである「楷書体」も同様で、読み誤らないように整えられています。
なお「楷書体」と似ているフォントとして、小学校の教科書で用いられている「教科書体」や、書籍や文書で一般的に用いられている「明朝体」などがあります。
「楷書」の書き方とは?
「楷書」は一画ずつ続けずに書く
「楷書」は、一画を書くたびに用紙から筆記具を離します。つまり形を崩したり点や画を続けたりしてはいけないのです。
「三折法」といって、文字の一画ごとに「始筆・送筆・終筆(起筆・送筆・収筆)」をそろえた書くことが基本となっています。具体例としては、小学生の習字をイメージすれば理解しやすいでしょう。
「楷書」は書き順通りに書くのがコツ
「楷書」を書くうえで、書き順通りに書くことも大切です。書き順は、運筆に無駄がないように決められており、書き順通りに書くことで文字を無理なく正しく書けるようになります。
また、はねやはらいなどの方向も自然に決まり、読みやすく整った文字を書くことができるのです。
「楷書」と「行書」「草書」との違いとは
「楷書」「草書」「行書」は「隷書」から発展した書体
漢字は、中国の殷王朝時代に使われていた甲骨文字から発展したものです。この甲骨文字から「篆書(てんしょ)」という書体が生まれましたが、地方によって形が異なっていたため、秦の始皇帝が書体を統一しました。
「篆書」は日本銀行券(紙幣)に印刷されている印に用いられている書体で、紙幣の表には「総裁之印」、裏には「発券局長」とあります。
「隷書(れいしょ)」は「篆書」を書きやすくしたもので、「楷書」「行書(ぎょうしょ)」「草書(かいしょ)」はいずれもこの「隷書」から発展した書体です。
「楷書」は最も新しい書体
「草書」や「行書」は「楷書」を崩したものに見えますが、「隷書」を発展させたものとして「草書」や「行書」が「楷書」に先立って生まれました。
現在も正式な書体として使われている「楷書」は、三国時代になって完成したものであり、成立した時期は「楷書」が最も新しいのです。
「草書」は早書きから生まれた書体
「草書」は、「隷書」を早書きする過程で生まれた書体です。「隷書」の点画には省略や崩しがみられ、流れるように続け書きされていることが大きな特徴といえます。
「草書」は早く書くことに眼目が置かれた書体ですが、見た目も流麗で芸術的なものです。しかし、文字として読むためには専門的知識が必要なため、誰にでも読んだり書いたりすることができるというものではありません。
つまり「楷書」を自由に崩したものが「草書」という認識は誤りで、ルールにしたがって崩さなければ、誰にも読めない「悪筆」となってしまうのです。
「行書」は「隷書」を簡略化した書体
「行書」は「隷書」を簡略化した書体で、「草書」と同様に「隷書」を早書きする過程で生まれた書体です。点画は続け書きされることが多いものですが、「草書」のような大胆な省略や崩しはみられません。
そのため、「行書」は特別な知識がなくても読むことができ、読みやすさと書きやすさが両立された実用的な書体といえます。
「草書」や「行書」では書き順がかわることも
漢字には書き順が定められていますが、「草書」や「行書」には正規のものとは異なる書き順をするものや、複数の書き順を持つものもあります。
たとえば「くさかんむり」の場合、「楷書」では横線を最初に書きますが、「草書」や「行書」では横線は3番目に書くというような違いがみられるのです。
まとめ
「楷書」の意味や書き方、特徴のほか、「草書」「行書」など他の書体との違いや関係について紹介しました。
漢字の起源とされる甲骨文字から「篆書」が生まれ、少しずつ変化しながら最後に成立したのが「楷書」です。「草書」や「行書」は「楷書」を崩したものではなく、「楷書」に先立って成立したということは意外で、とても興味深いことといえます。