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「貴賎」の意味と使い方とは?「貴賤」との違いやことわざも紹介

「貴賎」とは、尊いことと卑しいことという意味の熟語です。ところで見た目がよく似ていて同じ読み方をする「貴賤」は、「貴賎」とどこが違うのでしょうか。この記事では、「貴賎」の意味・使い方のほか、「貴賤」とどこが違うのかを解説し、ことわざや類語なども紹介しています。

「貴賎」の意味とは?

「貴賎」とは尊いことと卑しいこと

「貴賎」の読み方は「きせん」で、尊いことと卑しいこと、または身分が高い人と低い人のことを指した熟語です。

「貴」という文字は「尊い」「身分・価値・地位などが高い」ことを、「賎」は「卑しい」「身分や価値が低い」「汚らわしい」という意味があります。つまり「貴賎」は、正反対の意味を持つ文字が組み合わさってできた熟語なのです。

神社の「貴船」の読み方は「きふね」

水神をお祀りしている京都の貴船神社の読み方は「きふねじんじゃ」で、「きせん」とは読みません。神武天皇の母・玉依姫が開いたとされ、源義経や和泉式部も参拝したと伝えられている由緒ある神社です。なお、貴船神社の所在地は鞍馬貴船町ですが、地名は「きぶね」と読みます。

「貴賎」の使い方と例文

「貴賎なし」「貴賎がない」と使う

「貴賎」は「貴賎なし」「貴賎がない」と否定形で用いられることが多い言葉です。「命に貴賎なし」や「職業に貴賎なし」ということわざはよく知られており、命や職業に尊い・卑しいの区別はなく平等であるという意味を持っています。

後に十二使徒となるマタイの職業であった収税吏や、ナイチンゲールの時代のナースなどは卑しい職業とみなされていましたが、そのような考えはもうなくなりました。

「貴賤上下」や「貴賎都鄙」という表現も

「貴賤上下(きせんじょうげ・きせんしょうか)」とは、身分や地位などの高い人と低い人という意味で、転じてありとあらゆる人々のことを表した言葉です。誰でも分け隔てなく受け入れるような場合に、「貴賤上下の区別なく」や「貴賤上下に関わらず」という使い方が多くみられます。

なお、「貴賎都鄙(きせんとひ)」の「都鄙」とは都会と田舎のことです。身分の高い人・低い人、都会の人・田舎の人という意味から、「貴賤上下」と同様にあらゆる人々と指しています。

ことわざ「職業に貴賎なし」の由来は『都鄙問答』

「職業に貴賎なし」ということわざの由来は、江戸時代の思想家で石門心学開祖である石田梅岩が、著書の『都鄙問答(とひもんどう)』に記した言葉とされています。

『都鄙問答』は、勤労は世の中の役に立つ尊い行為であり、士農工商の身分とは関係ないものだという石田梅岩の倫理観が著されたものです。

「貴賎」を使った例文

  • 彼は他人に対して貴賤の区別をすることはなく、いつでも同じ態度で接している
  • 職業に貴賎はないけれど、高収入の職業の方がもてはやされているのが現実だ
  • このチャリティパーティーには、貴賤上下の関わらず誰でも参加できるらしい

「貴賎」と「貴賤」の違いとは?

「貴賎」は「貴賤」の許容字体

「貴賎」と「貴賤」は一字違いですが、意味も読み方も同じです。漢字には「賎」と「賤」のように、同じ意味と読み方を持っているが字体が異なっている文字(異体字)があります。

漢字検定では「賤」が標準字体、「賎」が許容字体という関係ですが、両者に優劣などはありません。

「貴賎」と「貴賤」はどちらを使ってもよい

漢字は篆書体から隷書体を経て楷書体と進化するなかで、数多くの異体字が生まれました。これらは「通用字体(漢検での許容字体)」と呼ばれています。

一方、増えすぎた異体字を整理するために、篆書体をそのまま楷書体にした「正字(標準字体)」が登場しました。つまり、「貴賎」と「貴賤」どちらを使っても間違いではありません。

「貴賤」の類語・類義語とは?

「貴賎」の類語は「尊卑」

「尊卑(そんぴ)」とは、身分などが尊いことと卑しいことを表した言葉で、「貴賎」の言い換えに使うことができる類語です。西郷隆盛の遺訓をまとめた『南洲翁遺訓』には「尊卑貴賎の差別なし」という言葉があり、道を開くことに身分の差はないという教えが示されています。

「優劣」も類語のひとつ

「優劣(ゆうれつ)」とは、優れていることと劣っていることを表した言葉です。「貴賎」と同様に序列や上下関係を表しています。「貴賎なし」や「貴賎がない」は「優劣がない」と同様の意味です。

「貴賎」の対義語とは

「貴賎」に明確な対義語はない

「貴賎」には、明確な対義語というものがありません。その理由は、熟語が一方の漢字とは反対の意味を持った、二つの漢字から構成されていることにあります。

「明暗」や「昼夜」も同様で、熟語のなかに対義語か並列されていて、それら以外の対立概念がないものには明確な対義語は存在しないのです。

「平等」とはみな等しいこと

「貴賎」の意味からみた対義語としては、「平等」が考えられます。「平等」とは偏りや差別などがなく、みな等しい状態のことを表していることから、身分・価値・地位などでものごとを分ける「貴賎」とは反対の意味合いを持っているといえるでしょう。

まとめ

「貴賎」は、尊いことと卑しいことという意味の熟語です。日常生活からビジネスの場に至るまで、我々は様々なものにランク付けしてしまいがちですが、物差しが変わると評価も変わります。

ものごとをひとつの基準で決めつけるのではなく、複数の物差しを持つことによってランク付けの弊害を抑えることはできそうです。