「情緒」は「情緒あふれる小径」「情緒的な文章」という言い回しで、微妙な感覚やそれを引き起こす雰囲気という意味合いで使われているものです。この記事は、似ている言葉の「感情」や他の類語との違いのほか、反対の意味を持つ言葉も紹介し、語句の意味と使い方への理解を深めるものとなっています。
「情緒」の意味とは?
情緒とは「微妙な感情やそれを起こさせる雰囲気」
「情緒」の意味は、ものごとに触れることで起こる微妙な感情や、それを引き起こす特有の雰囲気です。熟語を構成している漢字の「情」には「気持ち」「おもむき」、もうひとつの「緒」には「はじまり」「つづき」のほか「心」という意味があります。
これらの文字があわさって、微妙な心の動きや感情を引き起こす特有の雰囲気のことを指す熟語となっているのです。
「情緒」には「情動」という意味も
「情緒」は「emotion」の訳語として、心理学では「情動」という意味で使われます。「情動」とは外部からの刺激に対して起こる、恐怖や驚きのほか怒り、悲しみ、喜びなどのような、急激に呼び起こされる一時的な感情を指し、身体的な変化を伴うものです。
「情緒」の正しい読み方は「じょうしょ」
「情緒」を「じょうちょ」と読む人が多いですが、正式な読み方は「じょうしょ」です。
「じょうちょ」という読み方は、正式ではないが読みとして認められている「慣用読み」にあたります。そのため、「じょうちょ」と読むほうが一般的となっています。
「情緒」の使い方と例文
「情緒」は「風情」という意味での用法が多い
「情緒」は、「異国情緒」や「下町情緒」というように、心にある感覚を抱かせるようなものと一緒に使われることが多い言葉です。
他に「情緒あふれる」という言い回しもよく使われ、「情緒的な~」というように形容動詞としての用法もみられます。
「情緒不安定」の情緒は「情動」を意味する
「情緒」は「情緒がある」「情緒を感じる」というように、「風情」という意味で使われることが一般的です。
しかし、心理学の分野でよく耳にする「情緒不安定」では、「情動」という意味合いで使われています。なお、「情緒がある人」「情緒豊かな人」という表現は、感情の起伏が大きい人ではなく、情緒を感じ取れるような微妙な感覚・感性の持ち主を指しています。
「情緒」を使った例文
- 唱歌の歌詞は情緒あふれるものが多く、消えていくのはとても残念だ
- 彼の書く文章は情緒的で味わい深いものだが、レポートには不向きだ
- 季節の変わり目には情緒が不安定になりがちなので、気を付けて過ごしたい
「情緒」と「感情」の違いとは?
「感情」とは外界からの刺激で起きる感覚
「感情」とは、「喜怒哀楽」や「快不快」のように、外界からの刺激によって起きる感覚・気持ちのことです。「感」という文字には、「外部からの刺激を受け取る」という意味があり、自分の外部のものに反応して起きる心の変化が「感情」といえます。
対して「情緒」は、刺激を受けての反応というような強いものではなく、ゆっくりと味わうような心の動きです。胸の奥にひろがる
「感情」は一時的で表出することが多い
「感情」は、一時的でかつ表情や態度に表れることが多いものです。電車で足を踏まれたときにカッとなって思わず相手をにらみつけたり、お笑いトークにお腹を抱えて爆笑したりするようなケースです。
そしてこれらの「感情」は一時的なもので、そう長くは続きません。一方の「情緒」は、静かに胸の奥に広がっていくような感覚で、長い間心に残るものです。
「情緒」の類語とは?
「風情」とは「味わい」「趣き」という意味
「風情(ふぜい)」とは、「味わい」「趣き」という意味の言葉です。たとえば「情緒がある」と「風情がある」は同じことを指しているもので、言い換えにも使うことができます。
しかし「風情」には「気配」「能楽の所作」「身だしなみ」のほか、人を表す語について「~ごとき」という意味合いを加えるなど、複数の意味があるため、必ずしも「風情」を「情緒」で言い換えられるとは限りません。
「情感」とは心に響くような感覚
「情感(じょうかん)」とは、心に響いてくるような感覚です。「感情」と文字が入れ替わったものですが、喜怒哀楽というものではなく、胸を打たれるようなしみじみとした感覚を指します。
「情緒」と似た感覚ですが、「情緒」より強く心に訴えかける力があり、思わず涙が流れるほどの感動を覚えることもあります。
「情緒」の対義語とは?
「論理」とは筋道の立った考え方
「論理」とは、思考や論証の組み立てに飛躍がなく、筋道の立った考え方のことです。第三者に対して客観的に説明することができるもので、思考によらず感覚として表れて、他の人に言葉で説明することが難しい「情緒」とは反対の意味を持っています。
「理性」とは道理に基づいて判断する能力
「理性」とは、道理に基づいてものごとを判断する能力のことで、主観的な心の動きである「情緒」とは対照的な意味合いを持った言葉です。感情に左右されることなく意識的な考えによるもので、なぞそうなったかを論理的・客観的に説明することができます。
まとめ
「情緒」の意味と使い方のほか、「感情」との違いや類語も紹介しました。「情緒」は「感情」は同じく主観的な心の動きですが、「喜怒哀楽」のようにはっきりとしたものではなく、説明しがたい微妙なものです。
それでも「下町情緒」や「異国情緒」というものを多くの人が理解できるのは、共同体が持っている共通意識のようなものの表れなのかもしれません。