「片腹痛い」の意味と語源とは?正しい使い方や誤用・例文も紹介

「片腹痛い」は滑稽で苦々しく思うことを表した言葉で、時代劇などでは悪役が「片腹痛いわ」とうそぶく場面がよく見られます。しかしこの「片腹痛い」は誤用されるケースが多く、さらには語句自体が誤用の定着したものなのです。

この記事は、「片腹痛い」の語源や正しい使い方を通して理解が深められる内容です。

「片腹痛い」の意味とは?

「片腹痛い」とは滑稽で苦々しく思うこと

「片腹痛い(かたはらいたい)」とは、身の程知らずの人の言動や態度が滑稽で苦々しく感じることや、馬鹿馬鹿しいと思うことを表した言葉です。

自分の実力を省みない人のことを軽んじて皮肉ったり、鼻で笑ったりするような意味合いで使われています。

「片腹痛い」は傍目にも気の毒だという意味も

「片腹痛い」には、そばで見ていても痛々しく気の毒に思うという意味もあります。先に紹介した意味合いとはかなり異なっており、この用法で使われている事例はあまり見掛けません。

しかし、次の章で解説する「片腹痛い」の語源を見ると、傍目にも気の毒がという意味が本来のものであることがわかります。

「片腹痛い」は脇腹が痛いことではない

「片腹痛い」を、笑い過ぎて脇腹が痛いという意味で使われている事例が見受けられますが、これは誤りです。

「片腹」そのものには、「腹の片側」「一方の脇腹」という意味があります。しかし「片腹痛い」という慣用句における「片腹」は、お腹のことを指すものではないのです。

「片腹痛い」の語源とは?

「片腹痛い」の語源は「傍ら痛し」

「片腹痛い」の語源は、文語の形容詞「傍ら痛し(かたわらいたし)」です。「傍ら」は人・物・場所などの「そば」「わき」のことを、「痛し」は「いたわしい」ことを指しています。これらがあわさって、「そばで見ていていたわしく思う」という意味の形容詞となりました。

「かたわら」が「かたはら」に転じて「片腹痛い」に

「傍ら」の読み方は「かたわら」ですが、歴史的仮名遣いでは「かたはら」と表記されます。これを誤って「片腹」としたことから、「片腹痛し」に転じました。

この誤用は中世以降にはすでにみられていたもので、加えて「痛し」が現代語の「痛い」に変わって、「片腹痛い」となったのです。

「片腹痛い」の使い方と例文

「片腹痛いわ」は時代劇でよく見聞きする使い方

「片腹痛い」は、「馬鹿馬鹿しい」「苦々しい」という気持ちを表すもので、皮肉や軽蔑が含まれている言葉です。時代劇や任侠物などに登場する悪役が、相手を嘲って言うセリフとしてもよく使われています。

最後に付いている「わ」は文末に付く終助詞で、感動や詠嘆の意味を加えるものです。もとは係助詞「は」の文末用法として使われていましたが、発音通りの「わ」と書かれるようになりました。

「片腹痛い」を使った例文

  • いつもながら、彼の思い込みの激しさには片腹痛い思いがする
  • 彼の過去の栄光を聞くたびに片腹痛く、嫌味の一つでも言ってやりたくなる
  • 貧乏くじばかり引いている彼女の身の上は片腹痛いことで、同情せざるを得ない

「片腹痛い」の誤用・間違いとは?

「片腹痛い」という言葉そのものが誤用

語源の章で紹介したように「片腹痛い」は、「傍ら痛し」の「傍ら」を「片腹」と誤って表記した誤用が定着したものです。

したがって、もともとお腹とは無関係の言葉だったということがわかります。この点を理解したうえで使うようにしましょう。

「片腹痛い」は面白くて笑うことではない

「片腹痛い」はお腹とは関係がなく、相手に対する皮肉や軽蔑が含まれています。したがって、何らかの理由でお腹が痛くなったときに使うのは間違いです。

たとえば、面白くてお腹が痛いほど笑ったようなときに「笑い過ぎて片腹痛い」と使わないように気をつけましょう。

「片腹痛い」のよくある誤用・間違い例

  • お笑い番組に登場する芸人さんたちのトークに爆笑して、片腹痛くなった
  • 無理して走ったせいか片腹痛くなり、マラソンを完走できなかった

「片腹痛い」の類語・類義語

「片腹痛い」の類語は「笑止千万」

「片腹痛い」の類語としては「笑止千万(しょうしせんばん)」が知られています。「笑止(しょうし)」とは、馬鹿馬鹿しいことや気の毒に思うことを表した言葉です。「笑止千万」のほかに、「笑止の至り」「笑止の沙汰」という形で使われている事例をよく見掛けます。

「笑止」の由来は「勝事」で、「事」は「じ」ではなく「し」と読み、世にも稀で素晴らしいことという意味でした。ここから普通ではないという意味で使われるようになり、漢字の「笑止」があてられるようになったのです。

「噴飯」も本来はおかしくて仕方ないこと

「噴飯(ふんぱん)」とは、本来食べかけのご飯を吹き出してしまうほど、おかしくて仕方がないという意味の言葉です。「噴飯もの」という形で、噴飯するような事柄を指す用法もあります。

しかし、あまりのひどさに嘲笑することやみっともなくて腹が立つ、という意味で使われるようになりました。たとえば「噴飯ものの芸」とは、芸が面白くて褒めているのではなく、芸が拙くて腹立たしいという意味合いです。

まとめ

「片腹痛い」の意味と語源のほか、正しい使い方や誤用・例文なども紹介しました。「片腹痛い」は「傍ら痛し」の誤表記が定着したもので、お腹が痛くなるという意味での誤用も多い言葉です。語源を知り、正しい意味で使えるよう理解しておきましょう。