漢字には「音読み」と「訓読み」を持つものが多くあります。複数の読み方や訓読みの送り仮名、見分け方に頭を悩ませてしまうものです。この記事では、「音読み」と「訓読み」の違いのほか、由来や見分け方などについても解説します。
「音読み」の意味と由来とは?
「音読み」とは中国の発音をまねたもの
漢字は紀元前1300年頃、中国の殷王朝によって発明された甲骨文字から始まりました。その後、周王朝の時代に部族間で意思疎通するために、表意文字として使われるようになったのです。
「音読み」は5世紀前後、日本に伝来したとき中国の発音(字音)をまねたものでした。
「音読み」には地域差がある
漢字には「音読み」を複数持つものがあり、たとえば「明」には、「メイ」「ミョウ」「ミン」など複数の「音読み」があります。
「メイ」は漢音(かんおん)と呼ばれるもので、7~8世紀にかけて遣唐使らが唐の首都・長安から持ち帰った発音です。「ミョウ」は呉音(ごおん)と呼ばれるもので、漢音以前に日本で定着していた発音です。
「ミン」は唐音(とうおん)と呼ばれるもので、鎌倉時代以降に留学僧や貿易商人らが伝えたとされています。
「音読」とは声に出して読むこと
「音読(おんどく)」は文を声に出して読むことで、「黙読(もくどく)」の対義語です。また、漢文をすべて字音で読むことも「音読」と呼ばれています。
つまり漢文の「音読」は文字を「音読み」で読むことと、返り点を使いながら日本語として声に出して読むことの二通りがあるというわけです。
「訓読み」の意味と由来とは?
「訓読み」とは漢字に意味を当てはめた読み方
「訓読み」とは、それぞれの漢字に相当する和語(大和言葉)を当てはめた読み方です。字訓(じくん)とも呼ばれています。前出の「明」の場合、「明るい(あかるい)」「明らか(あきらか)」「明ける(あける)」「明かり(あかり)」などが訓読みに該当するものです。
一般的に、「訓読み」すると意味がわかるものが多くありますが、「駅」「題」「菊」などのように「音読み」でありながら意味が分かるものもあります。
「漢字」にはもともと「訓読み」はなかった
「訓読み」は、日本に伝わった漢字にあとから和語を当てはめたものです。そのため、本来漢字には「音読み」しかありませんでした。
漢字には、「訓読み」が存在しないものもあります。漢字が日本に伝わった際、その対象が存在していなかったことや「音読み」だけで事足りたことなどにより、「訓読み」が作られなかったとされています。
なお、「馬(うま)」「梅(うめ)」は、本来「音読み」であったものが変化して「訓読み」となったものです。
「訓読」とは漢文を和訳して読むこと
「訓読」とは、「春眠不覚暁」を「春眠暁を覚えず」と読むように、漢文を日本語の語法で読み下すことを指した言葉です。
漢字のみで表された漢文(白文)に、返り点や送り仮名を補って対訳的に読んでいくもので、漢文の授業などでは、「訓読」で「音読」することが多く行われています。
「音読み」と「訓読み」の見分け方のコツとは?
「音読み」はカタカナ「訓読み」はひらがな
「音読み」と「訓読み」の見分け方で最も確実な方法は、辞書での表記がカタカナかひらがなかによって区別することです。
「音読み」は中国から入ってきたときの読み方を表したもので、いわば外国語にあたります。そのためカタカナで表記されています。一方の「訓読み」は日本語に該当するため、ひらがなで表記されているのです。
「訓読み」は読み方だけで意味がわかるものが多い
「訓読み」は日本語の意味を当てはめた読み方であるため、たとえば「山」を「やま」と「訓読み」した場合にはそれだけで意味が分かります。一方「サン」や「セン」と「音読み」した場合には、それだけでは意味が分かりません。
多くの漢字はこの方法で「音読み」と「訓読み」を見分けることができますが、「駅(エキ)」や「絵(エ)」のように「音読み」でも意味が分かる漢字も存在しています。
「訓読み」には送り仮名がつくものが多い
漢字の「訓読み」には送り仮名がつくことが一般的で、送り仮名によって意味合いが変化します。たとえば「生」の場合、「生きる(いきる)」「生まれる(うまれる)」「生える(はえる)」などの「訓読み」がありますが、それぞれ異なった意味で使われているのです。
しかし「生(なま)」のように送り仮名をつけない「訓読み」や、「男(おとこ)」「袋(ふくろ)」のように「訓読み」で送り仮名を使わない漢字もあります。
「音読み」「訓読み」に関する雑学
「熟字訓」とは熟語全体に訓読みを当てたもの
「熟字訓(じゅくじくん)」とは熟語全体に訓読みを当てたもので、「大人(おとな)」や「五月雨(さみだれ)」などが該当します。「熟字訓」では、熟語を構成しているそれぞれの文字を分解して訓読みを当てることはできません。
なお「玄人(くろうと)」は「玄(くろ)」と「人(ひと)」が連なったものですが、読みやすくするために「ひ」がウ音に変化した(ウ音便)ものであるため、「熟字訓」ではありません。
「国字」は日本で創作された文字
「国字」とは中国から伝わったものではなく、日本で創作された文字のことです。「峠(とうげ)」や「躾(しつけ)」などのように既存の漢字を組み合わせて作られた会意文字が多く、本来「訓読み」しかありませんでした。
なお、「腺」や「働」のように「音読み」を持った「国字」もありますが、これらは形声文字であることが多いようです。
まとめ
「音読み」と「訓読み」の違いのほか、見分け方や読み方の由来について紹介しました。中国から伝わった漢字にはもともと「音読み」しかなく、「訓読み」は日本人が考案したものです。また、国産の漢字である「国字」もあり、外来語だった漢字を日本語に取り入れていったことがわかります。