「半夏生」は”はんげしょう”と読み、七十二候の一つです。期間は夏至から数えて11日目で、例年7月2日ごろから七夕の7月7日までの5日間が該当します。この記事では半夏生とは一体どのような日なのか、意味や由来について紹介します。また、半夏生の時期に食べるとよいものや過ごし方についても触れています。
「半夏生」とは?
「半夏生」は七十二候の一つ
「半夏生」は「はんげしょう」と読み、「七十二候(しちじゅうにこう)」の一つです。
1年は春夏秋冬の四季に分けられますが、さらに各季節を6つに分けた合計24の期間を「二十四節気(にじゅうしせっき)」といいます。この「二十四節気」をさらに初候・次候・末候の5日ずつに分けたのが「七十二候」で、それぞれの名称は気象の動きや動植物の変化を知らせる短文になっています。
「半夏生」は夏至から数えて11日目
「半夏生」は二十四節気でいう「夏至(げし)」の末候にあたり、夏至から数えて11日目です。例年7月2日ごろから七夕の7月7日までの5日間となります。
夏至は1年の中で昼の時間がもっとも長くなる日です。「夏に至る」という言葉通り、この日を境に気温が上昇しだんだんと夏らしくなってきます。ただ、この時期の日本は梅雨にあたることから太陽の日射が少なく、体感として暑さを感じにくい地域もあります。
「半夏生」の名前の由来は2つの説がある
「半夏生」の名前の由来は2つの説があります。
一つ目は薬草の「半夏」が由来とされているもの。「半夏」は「烏柄杓(からすびしゃく)」というサトイモ科の植物の一種です。この根を乾燥させたものを「半夏」とよび、漢方薬に用いられています。この「半夏」が「生」える時期にあたることから、「半夏生」とよばれるようになったといわれています。
もう一つの説は、「半夏生」という花が咲く時期だからという由来。花の半夏生はドクダミ科の多年草で、和名では「片白草(かたしろくさ)」といいます。
7月初旬から花を咲かせますが、その時に葉の数枚の表側半分だけが絵の具を塗ったように白くなるという特徴があります。それが半分化粧をしているように見えることから「半化粧(はんげしょう)」と言われるようになり、転じて「半夏生」になったといわれています。
「半夏生」はどんな日?
「半夏生」は田植えを終える目安の日
「半夏生」は田植えを終える目安の日で、農家にとっては大事な節目にあたります。古くから田植えは「夏至のあと、半夏生に入る前に終わらせるもの」とされており、天候不順などで作業が遅れた場合でも、この日(半夏生の日)までに田植えを終えておかなければ秋の収穫が減ってしまうと言われてきました。
半夏生の前に田植えを無事終えた農家では、この日の天候で収穫の出来を占ったり、田の神に感謝する祭りを行ったりすることもあったようです。
「半夏生」は梅雨の後半にあたり雨が多くなる
「半夏生」の頃は梅雨の後半にあたり、雨が多くなります。気温が次第に高くなり、夏への兆しが見え始めるものの、近年では大雨や豪雨に見舞われることが多くなります。
そのため、西日本では半夏生の頃に降る大雨のことを「半夏雨(はんげあめ)」といいます。「半夏雨」は俳句や短歌の夏の季語にもなっています。また、そのときの洪水を「半夏水(はんげみず)」と呼んでいます。
「半夏生」の過ごし方
「半夏生」の期間は「物忌みの日」
「半夏生」の期間は「物忌みの日」とされています。半夏生の間に降る雨は”天から毒が降ってくる”といわれ、井戸にふたをしておく習わしがありました。また、地域によってさまざまな物忌みの言い伝えが残されています。
- 埼玉県…竹林に入ってはいけない(めったに咲くことのない竹の花が咲いたり消えたりする。その花を見ると死んでしまうという伝承)
- 長野県…ネギ畑に入ってはいけない(その昔、”ハゲンサン”という人が働きすぎだと天の神様を怒らせてしまいネギ畑で焼き殺されてしまったという物語が伝わっている)
- 三重県…夕方以降は外を歩いてはならない(この時期にハンゲという妖怪が徘徊するから)
「半夏生」には”心身を休める”という意味も
「半夏生」には前述したようにさまざまな物忌みの言い伝えが残っていますが、これは農作業で疲れた体を休めるための昔の人の知恵だともいわれています。
半夏生の時期は気温が高くなり湿気も多く、食中毒が起こりやすい季節です。このため、食べ物や飲み物に対して注意するようにという戒めからさまざまな言い伝えが生まれたのではないかとされています。
また、半夏生の時期は田植えを終えた後で身体の疲れが出て体調を崩す恐れがあったことでしょう。現代でもこの時期は体調管理が難しいものです。このことからも、半夏生は”体をしっかり養生し、無理せずに心身を休める時期”ともいえるでしょう。
「半夏生」に食べるとよいもの
タコ(関西地方)
関西地方では「半夏生」の時期に「タコ」を食べるとよいという風習があり、現在でもスーパーや鮮魚店にはこの時期にタコが並びます。
半夏生にタコを食べるのは、タコの足にある吸盤が吸い付くように、苗がしっかりと根づき稲が実るようにという願いが込められているから。また、タコにはアミノ酸の一種のタウリンが多く含まれており、疲労回復に効果がある食材ということも関係しているようです。
うどん(香川県)
讃岐うどんの産地として知られる香川県では、「半夏生」の時期にうどんを食べる風習があります。香川県の農村では半夏生の頃、その年に収穫された麦を使ってうどんを打ち、農作業の疲れをねぎらう風習がありました。この風習が今も受け継がれています。
ちなみに、半夏生の期間に該当する7月2日は「うどんの日」です。この記念日は、1980年に香川県生麺事業協同組合によって制定されました。
焼き鯖(福井県)
福井県では「半夏生」の時期に「焼き鯖」を食べる習慣があります。とくに福井県大野市を中心とした地域では、一匹丸ごと焼いた「丸焼き鯖」を一人一尾食べる風習が伝わっています。
半夏生の時期に焼き鯖を食べるようになった由来は江戸時代にさかのぼります。当時、この地では鯖の水揚げが非常に多く、年貢として納められるほどの量だったそうです。そこで当時の大野藩主が、漁村における年貢の軽減と農作業で疲れた農民の栄養補給を目的として、鯖を食べることを推奨する令書を出しました。
これが次第に定着し、現在でも風習として残っています。
まとめ
「半夏生」は田植えを終える目安の日とされ、農家にとっては大事な節目です。この時期は地域によってさまざまな物忌みの言い伝えが残されていますが、これは気温が高くなり湿気も多く、食中毒が起こりやすいことへの戒めから生まれたのではないかとされています。また、田植えを終え”心身を休める時期”でもあるといえます。