「出藍の誉れ」という言葉があります。有名な故事が元になった言葉ですが、本来は師匠と弟子の関係についての言及はありませんでした。また、「出藍の誉れ」の後には続きがあることをご存知でしょうか。この記事では、「出藍の誉れ」の意味をはじめ故事の由来や類語のほか、使い方が分かる例文なども紹介しています。
「出藍の誉れ」とは?
「出藍の誉れ」の意味は”弟子が師匠を上回ること”
「出藍の誉れ」の意味は、“弟子が師匠を上回ること”です。「出藍之誉」と書くこともあり、精進を重ねて師匠より立派になった弟子を称えた言葉です。
「出藍」は「青は藍より出でて藍より青し」という故事のことで、元になったものよりそこから生じたもののほうが優れていることを指しています。この「出藍」が転じて、師匠より優れている弟子のことを表す言葉になりました。
「誉れ」は名誉・栄光・評判という意味で、「秀才の誉れ高い誰それ」というように使います。学識や技量が師匠を超えるまでになった弟子を褒め称えた表現が、「出藍の誉れ」です。
「出藍の誉れ」の読み方は”しゅつらんのほまれ”
「出藍の誉れ」の読み方は、“しゅつらんのほまれ”です。
師匠も称えられる「出藍の誉れ」
「出藍の誉れ」は、弟子だけでなく師匠を称えた言葉でもあります。師匠・教師などの師と呼ばれる方々は、自分自身が研鑽を積むとともに、学識や技量を後世に伝えなければなりません。
つまり弟子を有為な人物に育てることは、師の大切な務めであるといえます。自分が手塩にかけて育てた弟子が師を超えて羽ばたいていくことは、師としての使命を果たしたことのあかしであり、何ものにも替えがたい喜びです。
そのような立派な弟子を育て上げた師は教育者として称えられるべき存在であることから、「出藍の誉れ」は弟子だけでなく師匠の栄誉をも表す言葉となっています。
「出藍の誉れ」の由来とは?
「出藍の誉れ」の由来は荀子の『歓学』
「出藍の誉れ」は、中国戦国時代の思想家である荀子(じゅんし)の教えです。荀子の思想書『歓学』には、「学はもって已(や)むべからず。青は之を藍(あい)より取りて藍よりも青し」という言葉があります。
口語訳は「学問に終わりはなく怠ってはならない。青は藍から取って藍よりも青いものだ。」となり、学問を奨励する言葉でした。
『勧学』に師弟関係への言及はない
学問は綿々と受け継がれて積み重なることでさらに発展していくものであり、元にあったものより後のものが優れているべきものであるということを、荀子は語っています。
本来は勉学を怠らず学問に励むことを説いた言葉でしたが、そこから「出藍」が取り出され、転じて師より弟子の方が優れていることを称えるときに用いられるようになりました。
「出藍の誉れ」の類語とは?
出藍の誉れの類語①「青藍氷水」
「出藍の誉れ」の類語は「青藍氷水(せいらんひょうすい)」です。前の章で紹介した荀子の教えには、「氷は水之を為して水より寒し」という続きがあり、氷は水からできているが水よりも冷たいということを表しています。
すべてを続けると「青藍氷水」となりますが、もともとあった「青藍氷水」という四字熟語の前半部分が、「出藍の誉れ」としてよく知られるようになりました。つまり「出藍の誉れ」そのものが、出自の四字熟語より有名になった好事例です。
出藍の誉れの類語②「鳶が鷹を生む」
平凡な親から優秀な子供が生まれることのたとえである「鳶が鷹を生む」も、「出藍の誉れ」の類語です。
鳶と鷹はともにタカ目タカ科に属する猛禽類で、姿かたちも似ています。しかし鷹狩りに使われるほど頭がよく狩りも上手な鷹より、死んだ動物を食べる鳶は凡庸なものとして扱われるようです。
凡庸な親の子は凡庸であることが一般的ですが、ときに親に似ない優秀な子が生まれることもあり、これを鳶と鷹になぞらえて「鳶が鷹を生む」というようになりました。
なお、「出藍の誉れ」は関係者を褒め称える意味合いが強い言葉ですが、「鳶が鷹を生む」には親の平凡さを強調するような気配が感じられるため、注意して用いる必要があります。
「出藍の誉れ」の使い方とは?
「出藍の誉れ」を使った例文
「出藍の誉れ」を使った例文を紹介します。
- 私の教室から二科展に入選するような絵描きが誕生するとは、これぞまさしく「出藍の誉れ」だ。
- 立派な師を凌ぐ研究成果を連発している彼は、「出藍の誉れ」の呼び声が高い。
- 師に遠く及ばない未熟な私が「出藍の誉れ」と称されることに、大きな戸惑いを感じます。
- 「出藍の誉れ」といわれる弟子は師が誇りとすべきもので、弟子の名声に心を乱されるなどもってのほかだ。
- 私ができる先生への最大のご恩返しは、精進を重ねて「出藍の誉れ」となることでしょう。
まとめ
「出藍の誉れ」の意味と由来のほか、類語や例文などを紹介しました。「出藍の誉れ」は、元の故事の由来になかった意味合いが後世に加えられ、本来の意味をしのぐようになった言葉です。
現在の学問や技術などは、すべて先人から受け継いだもののうえに成り立っています。すでに亡き先人へのご恩返しは、受け継いだものをより高めて後世に引き次ぐことでしょう。
また、師匠を超えるのは弟子の務めと心得れば、後から来る人たちが自分たちを越えてさらなる高みを目指していくことを喜べるはずです。