「必死」の意味とは?必至との違いや使い方と語源・類語も紹介

「必死」という言葉は、死という文字が使われているにもかかわらず、日常的によく見聞きします。しかし本来の「必死」には、重い意味合いがありました。この記事では「必死」の意味をはじめ「必至」との違いや使い方のほか、熟語の語源や類語も紹介しています。

「必死」の意味とは?

「必死」の意味①”必ず死ぬこと”

「必死」の意味は、“必ず死ぬこと”です。「ひっし」と読む熟語です。かつてのように、飢饉や伝染病のほか天災などによって人命がたやすく奪われていた時代には、生きることさえ困難でした。

しかし、インフラの整備や医療の進歩のおかげで人々が安全に暮らすことができるようになったためか、必ず死ぬという「必死」の用法を見かける機会は少なくなっています。

「必死」の意味②”死力を尽くすこと”

「必死」の意味は、“死力を尽くすこと”です。「必死」とよく似た言葉の「決死」は、死を覚悟して全力を尽くすという意味ですが、「必死」は必ず死ぬ覚悟で全力を出し尽くすことを表しています。

つまり、「決死」は死ぬかもしれないが生きる可能性はあるという状態であることに対し、「必死」は必ず死ぬという状態です。

本来は言葉の重みが全く違う「決死」と「必死」ですが、現在では同じような意味合いで使われることが多くなっています。

「必死」は将棋用語にもある

将棋は、王将が詰んでしまうことで勝敗が決まります。自分の王将を守りながら、相手の王将をいかに早く詰ませるかを競う知的なゲームです。

将棋での「必死」は、どのように受けても王将が必ず詰む状態や差し手のことを表しており、「必死の手を仕掛ける」というように使います。なお「必死」と同じ意味で、読みも同じである「必至」という言葉もよく使われています。

「必死」の語源とは?

意味ごとに違う「必死」の語源

必ず死ぬことをそのまま漢字で表記すれば「必死」となるため、意味がそのまま語源につながります。

しかし、死力を尽くすという意味での「必死」の場合、「必」は「必ず」ということではなく「必する」ということをいっているのです。必するとは固く心に決めるという意味で、死を必するということが「必死」のもうひとつの語源です。

将棋の「必死」は、必ず死ぬという意味の「必死」が転じたもので、結末が「詰む」と決まっているという意味で「必至」も使われるようになりました。

「必死」と「必至」の違いとは?

「必死」と「必至」は結末が違う

将棋では「必死」と同じ意味を持つ「必至」ですが、一般的に用いられる場合の意味合いは異なっています。「必死」では必ず死ぬことになるのですが、「必至」では必ずしも死ぬとは限りません。

「必至」は、何らかの状態に必ず至るということを指しており、「必然」と同じく「必ずそうなる」という意味があります。

したがって必ず死ぬという結果に至るケースでの「必至」であれば、「必死」と同じことを表す言葉とし使用できるのです。

「必死」と「必至」の使い方の区別

軽々しくは使えないはずの「必死」

死とは、かけがえのない命を失ってしまうということです。本来の「必死」は命と引き換えにする覚悟をともなうもので、軽々しく使ってはいけない言葉といえます。

バラエティー番組でタレントが奮闘している様子を、「必死に…」という解説付きで放映していることがよくありますが、「懸命に…」としたほうが適切でしょう。

現代社会において、一般人が命を捨てる覚悟を問われる機会はめったにないためか、比較的軽い意味合いで「必死」が用いられるようになっています。

しかし「必死」という言葉を使った以上は、簡単に諦めたりいい加減に片付けたりせず、できる限りの努力をすることが望ましいでしょう。

他に選択肢がない「必至」

「必至」は、そのような結果になることは避けられないという意味の言葉です。したがって本来「必至」は、どのようにしても結末を変えることができないという、最後通告のような意味を持っていました。

しかし「必死」と同様に、「大方の見方ではそうなるだろう」という軽いことがらや、自明の理のことに対しても使われるようになっています。

「必死」の類語とは?

「必死」の類語は”命懸け”

必ず死ぬという意味と、将棋用語としての意味での「必死」の類語は見当たりませんが、必ず死ぬ覚悟で全力を出し尽くすという意味では「命懸け」があります。現在では「必死」より「命懸け」のほうが重い意味合いで使われることが多くなっているようです。

「命懸け」をひっくり返した「懸命」という言葉も「必死」の類語ですが、「命懸け」というほどの逼迫した状況では使われず、精一杯努力することを指して用いられます。

“死に物狂い”も「必死」の類語

「死に物狂い」も「必死」の類語ですが、「死に物狂い」は傍目からみて切羽詰った修羅場を演じているようなときに使われます。

たとえば危険な災害現場などで粛々と活動する自衛隊を指して、「必死の救助活動」というように報道されますが、「死に物狂いの救助活動」とはいいません。「死に物狂い」は、なりふり構わず取り乱している状態を表すときに適しています。

わが身を省みない「決死」

「必死」の類語として、「決死」も挙げられます。ライフル銃を持った強盗が立てこもる銀行へ機動隊が突入するとき、「機動隊が決死の突入を行った」というような報道がされますが、「決死」の意味がよく分かる事例です。

「必死」と違い、「決死」に必ず死ぬという意味はありませんが、命を落とす危険にわが身をさらして目的遂行のために尽力することを指しています。

まとめ

「必死」の意味および「必至」との違いや使い方と、語源・類語を紹介しました。よく見られる「必死」を使った例文には、本来の死を前提とした重い意味を持たないものが増えています。

言葉の意味は時代を経るにつれて変わっていきますが、本来の意味も知っておかなければ、古典や歴史文学などを読むときに作者の意図を正確に読み取れなくなってしまうでしょう。