「エミール・ガレ」の生涯と作品の特徴とは?日本の美術館も紹介

アール・ヌーヴォーの巨匠とも呼ばれる「エミール・ガレ」のガラス工芸は、日本でも根強い人気があります。作品を収蔵する美術館も多く、鑑賞したことがある方も多いのではないでしょうか。

この記事では、エミール・ガレとその作品について、特徴や技法などを含めて解説します。人気作品を鑑賞できる美術館も紹介しています。

「エミール・ガレ」とは?

ナンシーの街角

「エミール・ガレ」とは”アール・ヌーヴォー”を代表する工芸家

エミール・ガレ(Émile Gallé、1846年~1904年)とは、19世紀後半の「アール・ヌーヴォー」を代表するフランスの工芸家です。フランス・ロレーヌ地方のナンシーを拠点として、ガラス工芸、陶器、家具など幅広い分野で独創的な工芸作品を制作しました。ガレのガラス工芸は、ガラス工芸の5千年の歴史の中でも最高傑作とされます。

アール・ヌーヴォーとは、フランス語で「新しい芸術」という意味で、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで盛んに流行した美術運動のことをいいます。アール・ヌーヴォーについては、のちほど詳しく紹介します。

ガレの作品は「オリジナル作品」と共同制作の”工房作品”がある

ガレはナンシーで高級食器を扱う店舗を経営する両親のもとに生まれ、19歳のときにドイツのワイマールに留学してデザインを学び、20歳で帰国するとロレーヌ地方のマイゼンタールにあるブルグン・シュヴェーラー社でガラス工芸の技法を学びました。

1877年からは父の工場の管理者となり、ガラスと陶器の職人を雇い入れ、職人兼アート・ディレクターとして制作を開始します。ガレの作品は、自身が制作する芸術家としての1点ものの作品と、ガレのデザインと指示のもとに職人の分業によって制作される工房作品とに分けて制作されました。

1904年にガレが亡くなると、工房は親族に引き継がれ、1931年まで制作が続けられました。アール・ヌーヴォーの時代が終わっても、その作風は最後まで変わることはありませんでした。

ガレは「パリ万博での成功」によって国際的な名声を得た

ガレは特異な感性と、新しい技法を開発して自らの表現を追求し、今までになかった新しい表現を生み出しました。1878年のパリ万国博覧会では、ガラスと陶器で銀賞と銅賞を受賞し、その実力が評価され、存在が注目されます。1889年のパリ万博ではガラス部門でのグランプリを受賞し、国際的な名声を得ました。

「アール・ヌーヴォー展」とも呼ばれるアール・ヌーヴォーの頂点ともなった1900年のパリ万博において、ガレはガラス部門と家具部門もグランプリに輝きます。ガレの作品はアール・ヌーヴォーの象徴となりました。

「エミール・ガレ」の作品の特徴と「アール・ヌーヴォー」とは?

ガレの作品は「ジャポニスム」の影響を強く受けたデザインが特徴

19世紀のヨーロッパでは、万国博覧会へ出品された日本美術などが注目を集め、ジャポニスム(日本趣味)が流行していました。

初期の時代のガレは、まだ自分の様式を確立しておらず、伝統的なロココ様式やゴシック様式、オリエント様式などを混交したデザインの花器などを制作していました。

しかし浮世絵などの日本美術に出会い、積極的に日本美術の意匠や要素を取り入れ、独自の表現を確立します。1878年のパリ万博に出品した『鯉魚文花瓶』は、北斎漫画の『魚濫観世音』の鯉の図をそのまま引用し、梅や桜の文様を散らしたデザインでした。

また、ヨーロッパに輸出されていた伊万里焼の絵付けをデザインに反映させたり、日本の扇子をかたどったテーブルウェアなども制作されました。

「グラヴュール技法」などさまざまな技法を取り入れた新しい表現も特徴

ガレ作品の注目すべき技法に「グラヴュール技法」があります。ガラスに彫刻を施すこの技法は、当時のガラス工芸では主流ではありませんでしたが、立体彫刻の要素をガラス工芸に取り入れるためにガレは積極的に用いました。

グラヴュール技法では、ガラス器の表面を研磨することにより繊細な文様や文字などを彫刻することができ、一方で粗いノミの彫りのような表現を行うこともできました。ガレのガラス工芸は、優れた彫刻作品でもありました。

1889年のパリ万博でグランプリを獲得した作品『オルフェウスとエウリディケ』の杯は、ギリシャ神話の一場面をグラヴェール技法によって彫刻的に表現した黒いガラスシリーズの作品でした。

ガレの技法は、グラヴェール技法の他にも、カメオ彫り、エナメル彩、マルケットリー技法、スフレ技法、エッチングなど、あらゆる技法を取り入れ、新しい表現を模索しました。

「アール・ヌーヴォー」は自由で有機的な曲線と自然のモチーフが特徴

新しい造形様式を求めたアール・ヌーヴォーは、工芸やジュエリー、家具や室内装飾、さらに建築や絵画など、さまざまな分野に展開されました。そのデザインは、自由で有機的な曲線と、昆虫や植物など自然のモチーフを組み合わせた装飾性が特徴です。

ジュエリー作家のルネ・ラリック、画家のアルフォンス・ミュシャ、ガラス工芸のエミール・ガレ、ドーム兄弟、建築家のエクトール・ギマールなどが、特に有名なアール・ヌーヴォーを代表する芸術家です。

■参考記事
「アールヌーボー」とは?アールデコとの違いや建築なども紹介

ガレの作品を鑑賞できる「日本の美術館」を紹介

エミール・ガレの作品は日本でも人気が高く、所蔵している美術館は各地にあります。その中でも保有数が多く、人気作品を揃える美術館を紹介します。

  • 『ひとよ茸』のキノコランプを収蔵する「北澤美術館」(長野県諏訪市)

ガレの生きた時代には電気の技術が進み、ガレもガラスのランプを制作しました。ガレのオリジナル・ランプは少ないですが、工房作品は数多く制作されました。

オリジナル作品におけるランプの最高傑作で、人気の高い作品に『ひとよ茸(ひとよたけ)』ランプがあります。大中小のひとよ茸の笠の部分がそれぞれランプになっているもので、数点が現存します。

諏訪湖のほとりにある「北澤美術館」で『ひとよ茸』ランプを鑑賞することができます。北澤美術館は、エミール・ガレ、ドーム兄弟、ルネ・ラリックなど、アール・ヌーヴォーやアール・デコのガラス工芸と、現代日本画を保有する美術館です。

  • 月光色ガラスの花瓶『蜻蛉文香水瓶』を収蔵する「ポーラ美術館」(神奈川県箱根町)

月光色ガラスによる花瓶に蜻蛉(とんぼ)の姿を乗せた繊細な作品『蜻蛉文香水瓶』は日本で人気の作品です。箱根のポーラ美術館で観ることができます。透明な月光色ガラスの上に、レース模様の間を飛ぶ蜻蛉の姿がエナメル彩と金彩によって描かれています。

月光色ガラスとは、ガレが独自に開発した、酸化コバルトを混入することによって淡い青色に発色させたガラスです。蜻蛉(とんぼ)は、ガレが好んで用いたモチーフです。

ポーラ美術館は近代西洋絵画のコレクションとともに、アール・ヌーヴォーやアール・デコ期のガラスコレクションも多く保有する美術館です。

まとめ

エミール・ガレは19世紀後半の「アール・ヌーヴォー」を代表するフランスの工芸家です。フランス・ロレーヌ地方のナンシーを拠点として制作を続けました。ナンシーは、15世紀以来のガラス工芸の伝統を有する地域であり、また風光明媚で自然に恵まれた土地として創作活動に適した場所でした。

ナンシーには、ガレやドーム兄弟など、ナンシーで活躍したナンシー派の芸術家たちの作品やアール・ヌーヴォーの作品を多く保有する「ナンシー派美術館」があります。また街中にはアール・ヌーヴォー様式の建築や広場などが数多く残されており、ガレの生きた時代のアール・ヌーヴォーを体感することができます。

■参考記事
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