「母数」は統計学の用語ですが、日常生活の中でもよく用いられます。しかし、両者の意味合いはかなり異なっているうえ、混同されることも多くみられ、統計学で「母数」が指し示す事柄にもズレがあるのです。
この記事では、「母数」の意味を分かりやすく解説し、誤用しやすい分母やサンプル数との関係にもふれています。
「母数」の主な意味とは?
「母数」の意味は”母平均や母分散のこと”
「母数」の意味は、“統計学での母平均や母分散などのような母集団の特性を示す定数のこと”です。読み方は、「ぼすう」です。
母集団とは、統計調査の対象となる集団全体のことですが、母集団全体を測定するのではなく、一部を標本(サンプル)として抽出して測定し、母集団が持つ特性を示すための定数として使用するのです。
「母数」としては主に母集団の平均値となる母平均や、母集団の標識の散らばり具合を表わす数値となる母分散が用いられます。
「母数」は母集団から求められるものではなく、母集団から抽出した標本の特徴から推定するもので、抽出する標本ごとに異なり一定ではありません。
したがって「母」という文字がつかわれていますが、「母数」の元になるのは子である標本になります。
統計学での「母数」の意味は”英語のパラメータの訳語”
統計学での「母数」は、英語のパラメータ(parameter)の訳語です。したがって、統計学での「母数」と「パラメータ」の意味は、どちらも母平均や母分散などのような母集団の特性を示す定数のことです。
また、母平均や母分散を推定するもととなるものを、パラメータ推定値またはサンプル統計量と呼びます。
パラメータ推定値はそれぞれのサンプルの間でランダムに変化する変数ですが、この変数の確率分布をサンプル分布と呼び、母数(パラメー)を推定するために重要なものです。
たとえば、身長の分布のような正規分布の母集団からサンプルを抽出したときのサンプル平均がパラメータ推定値であり母平均の推定値です。
この推定値は抽出されるサンプルによって変化しますが、サンプル分布とパラメータ推定値を照らして統計的推測を行います。
「母数」の他の意味とは?
「母数」とは”媒介変数のこと”
「母数」には、媒介変数(助変数)という意味もあります。「媒介」とは双方の間に立ってとりもつことを指す言葉で、「触媒」をイメージすると分かりやすいでしょう。
媒介変数の具体例として挙げるなら、物体を水平方向に投げたときに放物線を描いて落下しくときの、t秒後の位置をx座標とy座標で表す場合のtに当たるものです。
「母数」とは”歩合算における元金のこと”
「母数」には、歩合算における元金という意味もあります。具体的に例を示すと、1割2分の年利で借りた金の金利が12,000円だったときの元金が「母数」です。
「母」という漢字には、物事の元となるものという意味があり、先に挙げた例の場合も歩合算の元になる数ということから「母数」が元金を表しています。
「母数」のよくある誤用とは?
「母数」を母集団の数とするのは誤用
母集団の数のことを指して、「母数」を用いることもよくあります。たとえば全校生の男女比を表す場合、全校生の人数を「母数」というケースです。
統計学的には誤った用法ですが徐々に一般化しているため、「母数」は母集団の数のことを意味すると説明している事例が多くみられます。
しかしいくら一般化しても誤用は誤用であり、少なくとも統計において「母数」を用いるときは、母集団の数の意味で使わないように心掛けたいものです。
「母数」と「分母」の関係とは?
「分母」とは”分数の下側の数のこと”
「母数」は「分母」の意味で使われることがよくありますが、統計学的にいうと誤りです。「分母」は分数や分数式の下側に書かれる数で、割る方の数のことを指します。
たとえば1割る4を分数で表した場合、4が分母となりますが、全体である4のなかの部分としての1のことを1/4ということもできます。
そのため、日本語的な意味での「母数=母集団の数」という用法につがなりますが、本来の「母数」には「分母」という意味はありません。
「母数」と「サンプル数」の関係とは?
「サンプル数」とはサンプルの大きさではなく個数
「母数」が「サンプル数」や「サンプルサイズ」の意味で使われているケースも見受けられますが、それは誤用です。
たとえば1組(32人)と2組(35人)の成績の母平均がそれぞれ65点と71点だった場合、母平均の差を検定する際のサンプル数は2であり、サンプルサイズは32と35となります。
母平均は「母数」のことを指しているため、「サンプル数」「サンプルサイズ」のいずれも「母数」とは別物です。
さらに「母平均」や「母分布」以外にも母集団の特性を示す定数としての「母数」が存在するため、「母数」と「サンプル数」に特定の相関関係はありません。
まとめ
「母数」の意味や誤用しやすい分母やサンプル数との関係について解説しました。「母数」という言葉は、用いられる分野で意味が異なり、統計学においてさえも違った意味合いで使われることがよくあります。
したがって、「母数」が指す事柄は複数あり特定しづらいことを念頭に置き、もっと明快な言葉で言い換えることを心掛けたほうが安全といえるでしょう。