「泡沫」は詞的な表現でしばしば用いられる言葉ですが、読み方は2つあります。ところで、読み方によって意味の違いや使い分けなどはあるのでしょうか。この記事では、「泡沫」の読み方と意味について解説し、類語や英語表現のほか、使い方については例文も紹介しています。
「泡沫」の意味や読み方とは?
「泡沫」の意味は”水面に浮かぶ泡”
「泡沫」の意味は、“水面に浮かぶ泡”のことです。熟語を構成している「泡」と「沫」は、いずれも「あわ」という意味を持った文字で、2つの文字があわさってできた言葉です。
「泡沫」の読み方は”ほうまつ”と”うたかた”
「泡沫」の読み方は、“ほうまつ”と“うたかた”です。どちらの読み方でも意味に違いはありません。
「泡」は音読みで「ホウ」、訓読みで「あわ・あぶく」と読み、「沫」は音読みで「マツ」、訓読みで「あわ・しぶき」と読みます。したがって、「ほうまつ」は「泡沫」を音読みしたものですが、通常の訓読みで「泡沫」を「うたかた」と読むことはできません。
「うたかた」の読み方は熟字訓
「うたかた」という読み方は熟字訓と呼ばれるものです。熟字訓とは漢字2文字以上をまとめて訓読みすることを指す言葉で、熟語の訓読みと理解すればわかりやすいでしょう。よく知られている例として「昨日(サクジツ・さみだれ)」「紅葉(コウヨウ・もみじ)」などがあります。
熟字訓は1946年の当用漢字制定により、かな書きで表記する方針となったため、「うたかた」を「泡沫」と漢字で表記するのではなく、ひらがなを用いることが多くなりました。
「泡沫」の使い方と例文とは?
「はかなく消えていくもの」の比喩表現にも使う
「泡沫」は、主な意味としては最初に紹介した「水面に浮かぶ泡」を指します。このほかにも、比喩表現として「はかなく消えていくもの」にも使うケースがあります。歌や小説、ドラマなどで見聞きすることもあるでしょう。
「沫」という漢字を「しぶき」とも読むことから、「泡沫」という熟語には細かい粒がほとばしる様子が加わり、大小の泡が次々と生まれては消えていくことを表します。そこから単なる「あわ」という意味のほかに、はかなく消えていくもののニュアンスにも使うようになりました。
「泡沫」を使った例文
「泡沫」を使った例文をご紹介しましょう。
- 泡沫(ほうまつ)候補と揶揄されていたトランプ氏だったが、大統領選に勝利した。
- 18世紀のイギリスで設立された多数の泡沫会社は、泡沫会社禁止法によって一掃された。
- 退職後に始めた店があっという間に潰れてしまい、夢は泡沫(うたかた)のように消えてしまった。
- 思春期における異性への憧れは、たいてい泡沫(うたかた)の恋で終わってしまうものだ。
「泡沫」の類語とは?
類語①「水泡」は無駄になることのたとえ
「水泡」は「泡沫」と同様に、水のあぶくのことです。シャボン玉に比べるとはるかに短命で、発生後間もなく消えてしまいます。
「水泡」は消えやすくはかないことを指した言葉ですが、「水泡に帰す」ということわざからうかがえるように、苦労や努力が無駄に終わることのたとえとしてよく用いられる言葉です。
類語②「仮初め」とは一時的ななこと
「泡沫」のうつろいやすいことと同じ意味合いを持った言葉として、「仮初め」があげられます。「仮に初(そ)める」が語源で、「一時的な」ことや「その場限り」のことに対して使いますが、その他にも「ちょっとした」や「一応は」という意味もあって、用途の広い言葉です。
類語③「かげろう」は短命な昆虫のこと
「かげろう」は、水辺近くの空中を揺らめくようにして群れ飛ぶ姿が立ち昇る陽炎に似ていることから名づけられた昆虫です。
成虫の寿命が数時間から数日と極端に短いため、はかないものの例えとして用いられています。「泡沫」と似た意味合いを持つことから、「かげろう」も「泡沫」の類語といえる言葉です。
類語④「夢幻泡影」はこの世のはかなさの教え
「夢幻泡影」は”むげんほうよう”と読みます。熟語に使われている「夢・幻・泡・影」はいずれもすぐに消えてしまうはかないものです。
このことから仏教の経典『金剛般若経』において、この世にあるものは実体がなく、非常にはかないものであるということを教える言葉となっています。
「泡沫」の英語表現とは?
「泡沫」は英語で”bubbles”
「泡沫」の「あわ」という意味を表す英語は“bubbles”です。「バブル」と聞くと1980年代後半のバブル景気を思い出す方が多いかもしれません。
経済用語としての「バブル」も「あわ」が由来で、1720年にイギリスで起こった「南海泡沫事件(South Sea Bubble)」が語源です。過剰な投機による株価の急騰・暴落と、その後の混乱を指すもので、日本のバブル景気と同様の現象でした。
はかないものを指す英語は「ephemeral」
「ephemeral」は、はかないものという意味の「泡沫」に対応する英語です。もともとはギリシャ語に由来する単語で、「1日だけの命」という意味から転じて、「はかない」「束の間の」ということを表す言葉となりました。
本来は文学的な単語だった「ephemeral」ですが、一時的に割り当てられるポートのことを指すIT用語としても使われるようになっています。
まとめ
「泡沫」の2つの読み方と意味の違いについて、類語や英語表現のほか使い方も交えながら紹介しました。人生100年時代を迎えたとはいえ、宇宙の歴史からみれば「泡沫」にも満たない短いものでしょう。命ある限り持ち時間を大切に使って、思い残すことなく人生を終えたいものです。