「恍惚(こうこつ)」は小説などでもよく「恍惚とした表情を」といった言い回しで見かける言葉です。ある物事にすっかり心を奪われているさまを表しており、声も出ないほどの感動を表現したいときにもよく当てはまります。
この記事では「恍惚」の意味と使い方のほか、類語・対義語や英語表現も紹介しています。
「恍惚」とは?
「恍惚」の意味は”物事に心を奪われること”
「恍惚」の意味は、“物事に没入して心を奪われることやさまのこと”です。何かに心を奪われてしまうと放心状態になり、声を掛けられても気付かないほどになりますが、「恍惚」はこのようなさまを表した言葉です。
「恍」は、”ぼんやりしている・うっとりするさま・心うばわれるさま”という意味と持つ文字です。「惚」にも”うっとりする・ぼんやりしている”という意味があることから、「恍惚」は同じ意味の言葉を重ねて意味合いを強調する構成となっている熟語といえます。
「恍惚」の読み方は”こうこつ”
「恍惚」の読み方は“こうこつ”です。
「恍惚」には”意識がはっきりしない”という意味も
熟語を形成している二つの文字が持っている「ぼんやりしている」という意味合いから、「恍惚」はもうろうとなり意識がはっきりしない状態を指しても用いられます。
疲労や睡眠不足のほか健康不良などによって、意識がはっきりしなかったり途切れそうになったりするような状態のことを表した語句です。
「恍惚」は認知機能が低下した様子を指す言葉
「恍惚」という言葉は、高齢者の認知機能が低下した様子を表すときにも使われ、今から50年ほど前にベストセラーとなった長編小説の題にも登場しました。
「恍惚」には、一般の人が認識するものとは違う境地に入っているというニュアンスがあるため、物事のとらえ方が通常とは異なっている様子をよく表した用法といえます。
「恍惚」の使い方と例文とは?
「物事に没入しているさま」を指す使い方が一般的
「恍惚」には先にあげように3つの意味合いがありますが、物事に没入して心を奪われることやさまを指すことが一般的に多くみられる用法です。
「恍惚のまなざし」のように他の名詞を形容詞的に修飾したり、「素晴らしさに恍惚とする(なる)」というように動詞的に用いたりすることもあります。
「恍惚境」とは放心した状態のこと
「恍惚」を使った言葉として、「恍惚境」があります。「境」とは”境地”という熟語からもわかるように、置かれている状態・環境や様子のことを指す文字で、「神仙境」や「陶酔境」と同じ用法の語句です。
また、「恍惚」のあとに”感”をつづけた「恍惚感」という用法もあり、心を奪われてうっとりする感覚を表しています。
「恍惚」を使った例文
「恍惚」を使った例文をご紹介しましょう。
- あまりにもすばらしい演奏を聴いたため、彼はしばし恍惚状態になってしまった。
- 極上のリラクゼーションを体験し、心身ともにどっぷりと恍惚感に浸ることができた。
- カリスマ的指導者の演説を聞いた聴衆は、みな恍惚とした表情を浮かべていた。
「恍惚」の類語とは?
類語①「陶酔」とはうっとりと心地よさにひたること
「陶酔(とうすい)」とは、うっとりして心地よい境地にひたることを表した言葉です。「陶」という文字には、「陶然」という熟語からもわかるように「心地よい・くつろぐ」という意味があり、「恍惚」の言い替えとして使うことができます。
なお、「陶酔」には文字通り”気持ちよくお酒に酔う”という意味もありますが、意識がはっきりしないという意味や認知機能の低下という意味では用いられません。
類語②「忘我」とは夢中になること
「忘我(ぼうが)」とは、夢中になって我を忘れることを指す言葉です。何かに熱中して周囲のことだけでなく自分の意識さえ忘れてしまい、そのことに浸りきってしまうような状態のことを表しています。
したがって、「忘我」も「恍惚」の言い替えとして使うことができますが、意識や認知機能が明瞭でないという意味合いで用いることはありません。
「恍惚」の対義語とは?
対義語①「我に返る」は判断力を取り戻すこと
「我に返る」は、平生の心境に立ち返り正常な判断力を取り戻すことを表した言葉です。「恍惚」となっているときには、何かに心を奪われて正常な判断が行えなくなっています。
「我に返る」は、そのような状態から脱して日頃の自分を取り戻すことを指しています。なお「我に返る」には、気を失っていた人が意識を取り戻すという意味もあります。
対義語②「興ざめ」とは気持ちが冷めること
「興ざめ」は”興醒め”とも書き、興味を失って気持ちが冷めることを指す言葉です。物事に没頭して熱くなっている状態が、何らかのきっかけにより対象から興味が失せてしまうことを表しています。
「恍惚」と反対の様子を述べたいときに使うことができ、「鼻白む(はなじろむ)」も「興ざめ」と同じ意味合いの言葉といえるものです。
「恍惚」の英語表現とは?
「ecstasy」の和訳は”恍惚”
「ecstasy」を日本語に訳すると「恍惚」となります。語源は、魂が肉体の外にでてさまようことを表したギリシャ語です。
「有頂天・無我夢中」とも訳され、いずれも通常ではない精神状態にあることを示しています。ほかにも、宗教的な教えに触れたり信仰したりすることで感じる喜びという意味合いもあります。
「trance」には”失神”という意味も
「trance」も、「恍惚」の英語表現として使われる語句です。「恍惚」以外にも「夢中・有頂天」と訳することができますが、「失神・昏睡状態」という意味もあります。
「trance」は、”向こう側へ”という意味を持つラテン語の「trans」が由来で、意識を通常とは違うところへ動かすことから、英語の「trance」に発展しました。
まとめ
「恍惚」の意味と使い方のほか、類語・対義語と英語表現についても紹介しました。心を奪われてしまうほど魅力的なものと出会えることは幸福といえますが、周りが完全に見えなくなっている状態が長く続くと危険です。何かにのめり込んでいるときにこそ、意識的に自分を客観視することをおすすめします。