版画の技法の一つに「リトグラフ」があります。ミュシャなどのリトグラフ作品は日本でも大変人気があります。「リトグラフ」の語は聞いたことはあっても、どのような技法なのかはわからないという人が多いのではないでしょうか。
この記事では、「リトグラフ」の意味や特徴、制作工程などを解説します。あわせて版画の種類や作家なども解説しています。
「リトグラフ」の意味や英語とは?
リトグラフに用いる石灰岩の石板
「リトグラフ」とは”石版画”のこと
「リトグラフ」とは、石灰岩からできた石版石の平版を利用して、化学処理を行うことによって紙に絵などを刷る技法のことです。版画の種類の一つで、木版画などのように原版を彫る技法とは全く異なる版画技法です。
リトグラフの技法は18世紀末に発明され、当初は石灰岩を利用していたことから「石版画」と呼びますが、20世紀初頭以降は扱いやすいジンク版が用いられるようになり、現在はアルミ板が主に用いられています。
「リトグラフ」は英語で”lithograph”
「リトグラフは英語で”lithograph”と書きます。ギリシャ語の「石」を意味する”lithos”と「絵画」を意味する”graph”語源です。近い発音は「リソグラフ」であるため、そのように呼ぶ場合もあります。
「リトグラフ」の特徴と制作工程・作り方とは?
「リトグラフ」は”版画”の技法の一つ
「リトグラフ」とは”版画”の技法の一つです。「版画」とは、木版・銅版・石版などを用いて刷った絵のことをいい、使用する版によっていくつかの種類に分けられます。
さらにまた、木版画などのように版を削ることによって突き出たところにインクや顔料を乗せて摺り取る技法で用いる印刷版を「凸版(とっぱん)」といい、彫ったり腐食させたりしてできた溝にインクを詰めて擦り取る技法で用いる印刷版を「凹版(おうはん)」といいます。他にも、穴の空いたところにインクを通す「孔版(こうはん)」という技法もあります。
リトグラフはそれらのどれでもなく、水と油の反発作用を利用して作品を刷る技法です。一口に「版画」といっても様々な種類があります。
リトグラフは「水と油が反発する原理」を用いる
リトグラフの特徴は、「水と油が反発する原理」を用いた科学的技法であることです。
版の表面を刃物や鋭いペンなどで削る技法ではないため、描いたものをそのまま写し取ることができ、筆のテクスチュアなどを活かしたい場合に最適な技法です。
「リトグラフ」の作り方は3段階
リトグラフの工程は、大きく「描画」「製版処理」「刷り」の3段階があります。「描画」では油性の描画材を用いて絵を描きます。その後「製版処理」において、版に薬品を処理して化学反応を起こし、油性インクを引き付ける部分とインクを弾く部分に分離します。
処理が終わったら、水と油の反発作用を利用して、版に描いた絵を刷り取る工程に移ります。作業量が非常に多く複雑で時間がかかるのがリトグラフ技法です。
しかし強い線や細い線、筆の質感など、描いたものをそのまま紙に刷ることができる利点があります。
リトグラフの他の「版画」の種類とは?
「エッチング」などの技法を含む”銅版画”
「銅版画(どうはんが)」は銅板を版材とする版画です。銅板に刃物を使って直接彫刻をする方法と、酸性溶液の腐食力を利用して彫刻の効果を得る方法の2種類があります。前者にはドライポイント、後者にはエッチングなどの技法があります。
「エッチング」は酸による腐蝕により金属板に溝を作る凹版技法の一つです。ニードルなどのとがった道具で引っ掻いて線をつけるため、鉛筆デッサンのような繊細な表現ができます。
「孔版」を用いる”シルクスクリーン”
先に紹介した、版の穴の空いた部分にだけインクを通す「孔版」を用いるのが「シルクスクリーン」です。糸と糸の間の隙間がある絹の布を英語で 「silk screen(シルクスクリーン)」と呼ぶことからの呼称ですが、現在はメッシュの支持体を用いる技法全般を呼びます。「スクリーン印刷」と呼ばれることもあります。
1960年代のアメリカでポップアートを確立したアンディ・ウォーホルはシルクスクリーン版画を大量に生産しました。
「リトグラフ」を用いた代表的な芸術家とは?
ポスターの黄金時代を築いた「ミュシャ」「ロートレック」
「アール・ヌーヴォー」を代表する画家「ミュシャ」は、リトグラフによる版画作品を大量に制作し、「ポスターの黄金時代」を築きました。
19世紀末から20世紀の初頭は芸術性の高いポスターがリトグラフ技法を用いてたくさん作られ、ミュシャの他にロートレックも活躍しました。
■参考記事
「ミュシャ」の生涯とは?代表的なリトグラフのポスターも紹介
「ロートレック」の生涯と作品とは?リトグラフのポスターも紹介
まとめ
「リトグラフ」とは、もともと石灰岩の石板を用いる版画技法であったことから、「石版画」という意味を持つ版画の技法の一つです。
「版画」には、用いる板の種類や絵を写し取る方法の違いなどから様々な技法がありますが、「リトグラフ」は板を削ることはせず、水と油が反発する原理を用いた科学的技法であることが特徴です。
油性の描画材で描いた絵をそのまま写し取ることができるため、線のテクスチュアなどを活かすことができます。細いニードルなどで引っ掻いて溝をつくるエッチングなどの技法で作られた作品とは、おのずと趣きが変わってきます。