「耳が痛い」は、日常生活においてしばしば耳にすることわざですが、実際に耳が痛いわけではないのになぜ「耳」が用いられているのかと疑問に感じます。この記事は「耳が痛い」の意味と例文のほか、「耳の痛い」との違いや類語・英語表現などについても紹介しており、ことわざに対する知識を深めることができるものです。
「耳が痛い」の意味とは?
「耳が痛い」の意味は「話を聞いて苦痛を感じる状態」
「耳が痛い」ということわざは、実際に耳に痛みがあることをいっているのではありません。自分に対する忠告や批判などを聞いて苦痛を感じている状態のことを指しているのです。
「耳」は、音を聞くことと身体の平衡を維持することを司っている器官のことですが、ことわざや慣用句などで「耳」という言葉が用いられる場合には、器官そのものであることは少ないようです。
聞く動作や働きなどを指すことが多くみられ、以下のような用法も日常的によく使われています。
- 耳が早い:噂などを聞きつけるのが早いこと
- 耳を傾ける:相手の言うことを注意してよく聞くこと
- 耳をくすぐる:相手が聞いて喜ぶような話をすること
「耳が痛い」のは正論だから
「耳が痛い」は話を聞くことに苦痛を感じているときに使われますが、話の内容が単なる悪口や中傷である場合には用いられません。
受け入れることが心理的に苦痛ではあるが、相手の言っていることが正論で反論できない場合、「耳が痛い」を使って表現します。
「耳が痛い」を使った例文
- 親からたびたび耳が痛い話を聞かされるで、最近実家から足が遠のいている。
- 耳が痛いことを言ってくれる人がいないことは、とても寂しいことだ。
- 一番仲の良い友達からの忠告は、本当に耳が痛かった。
「耳が痛い」と「耳の痛い」との違い
「耳の痛い」は名詞の修飾に使われる
「耳が痛い」という言葉は、あとに「こと・話」などを続けて用いられることがよくありますが、同じ意味合いで名詞の修飾に「耳が痛い」を用いる場合には、「耳の痛い話」という形にすることもあります。
「耳」が主語の場合は、「耳が痛い」を「耳の痛い」にすることはできません。しかし「耳が痛い」そのもの全体が修飾語となる場合には、「耳の痛い話」というように「が」を「の」に置き換えることが可能です。
「耳の痛い」は丸ごと修飾語として覚える
先にあげた「耳が痛い」を使った例文のなかで1を「耳の痛い話」、2を「耳の痛いこと」に置き換えることは可能です。しかし3の場合の主語は「耳」であるため、「耳が痛い」を「耳の痛い」とすることはできません。
「耳の痛い」を使うのは、言葉のかたまりを丸ごと修飾語として名詞の前に置く場合と覚えておくと、間違わずにすむでしょう。
「耳が痛い」の類語
「忠言耳に逆らう」は中国の古典に由来することわざ
「忠言耳に逆らう」は、「忠言逆耳(ちゅうげんぎゃくじ)」という四字熟語の形でも用いられることわざで、「耳が痛い」の類語です。
『韓非子』『史記』のほか『孔子家語』などにも登場する言葉で、忠告というものは素直に聞くことが難しいものだが役に立つという意味合いがあります。
「良薬口に苦し」は良いものには苦痛が伴うこと
「良薬口に苦し」は、よく効く薬ほど苦いということから、良いものを受けいれるためには苦痛が伴うものだという意味の言葉です。
前出の「忠言耳に逆らう」とともに『孔子家語』のなかで語られており、いずれも「耳が痛い」と同様に、役に立つ良いものを受け入れることに辛い思いがすることを表しています。
「図星」は指摘が的確であること
「図星」とはもともと弓矢の的の中心に書かれている黒い点のことで、狙い所や急所を指すものです。ここから発展して、指摘などが的確でぴたりと当たることを表すようになりました。
「図星を指される」という形で使われることが多く、急所を指摘されるということから「耳が痛い」の類語として用いられています。
「正鵠」は要点を正しくおさえること
「正鵠」とは、前出の「図星」と同様に弓矢の的の中心にある黒い点のことを指しており、物事の要点や核心のことを表した言葉です。
「正鵠を射る」という形でよく用いられますが、似たことわざとして「的を射る」というものがあります。「的を得る」が誤用であることはよく知られていますが、「正鵠を射る」は「正鵠を得る」から転じたものであるため、誤用ではないという説が有力です。
「耳が痛い」の英語表現
英語にもある「耳が痛い」
ことわざの「耳が痛い」に該当する英語表現にも、「耳」という意味を指す「ear」が用いられたものがあります。「Good advice is harsh to the ear.」がそれで、直訳すると「良いアドバイスは耳に痛い」となるのです。
日本語のことわざをそのまま英訳したような表現が通用していることに、驚きを感じる方もおられるのではないでしょうか。
英語でも「耳が痛い」の類語は「良薬口に苦し」
「耳が痛い」の英語表現として、「Good medicine is tastes bitter to the mouth.」があります。直訳すると「良い薬は苦い味がする」となり、「良薬口に苦し」を英訳したものと考えてよいものです。
洋の東西を問わず正論に対しては傷みを感じるようで、表現手段として耳や口を用いている点も共通しています。
まとめ
「耳が痛い」の意味と例文をはじめ、「耳の痛い」との違いや類語となることわざ、英語表現などを紹介しました。
「耳が痛い」と感じるのは良心に痛みを感じているためで、反省や改善のきっかけとなるものです。耳の痛い忠告は自らの糧となるため、苦痛から逃げずに受け入れることをおすすめします。