「可塑性」という言葉は、物理だけでなく心理学や脳科学など幅広い分野で登場します。また「彼は可塑性が高い」というように、人材を評価するときに用いることもできる言葉です。この記事では「可塑性」の意味のほか、「可逆性」との違いや対義語・類語も紹介しており、言葉の理解を深めるために役立つ内容となっています。
「可塑性」の意味とは?
「可塑性」とは変形させても元に戻らない性質
「可塑性(かそせい)」とは、個体に外から力を加えたときに変形させることができ、その後力を加え続けなくても元の形に戻らない性質のことを表した言葉です。
一般的には「塑性」と呼ばれるもので、形を自由に変えることができることを指しています。粘土をイメージすると「可塑性」がどのようなものかを理解しやすいでしょう。
硬い金属も「可塑性」を持っている
「可塑性」は、やわらかい粘土だけが持つものではありません。金属加工で金属を薄く延ばしたり曲げたりすることができることからわかるように、金属も「可塑性」を持っているのです。
外から力を加えられた金属は元の形を保とうとします。このとき金属の内部には一時的にひずみが生じていますが、力がある限界以下のときには、力を取り除けばひずみは元にもどります。しかし金属に加える力が一定以上の大きさを超えると、ひずみは元に戻らず、外形が変わってしまうのです。
「可塑性」は柔軟さを表す言葉
「可塑性」は物質だけでなく、人の能力や性質に対しても用いられます。人は訓練・教育によって変化していきますが、このときの伸びしろが大きい場合や大化けした場合に、「可塑性が高い」「可塑性に富んでいる」と表現します。
一般的に年少であるほど「可塑性」を発揮できる傾向がみられますが、これは脳に柔軟さがあるためです。しかし心理学や教育学では、何事においても遅すぎるということはなく、年齢を問わず訓練・教育によって成長していく可能性は残されているとしています。
「可塑性」は英語で「plastic」
「可塑性」のことを英語では「plastic」といいます。語源は「形づくる」ことを意味するギリシャ語「plastikos(プラスティコス)」です。
プラスチックは、ペットボトルやメガネのほか家電や携帯電話など、生活になくてはならない製品に使われている素材で、自由に成型できるという性質がそのまま素材の名称となっています。なお、プラスチックの形成においては、原料を型に入れることで任意の形状にすることが一般的です。
「可塑性」と「可逆性」との違い
「可逆性」とは変化を元に戻せる性質
「可逆性」とは、別の状態に変化したものを元の状態に戻すことができる性質のことをいいます。水を凍らせた氷に熱を加えると水に戻るという事例が、具体的でわかりやすいでしょう。
反対に生卵を加熱してできたゆで卵を元の生卵に戻すことはできず、これを「非可逆性」と呼びます。
「可逆性」も変化の一種
「可塑性」も「可逆性」も変化できる性質という点では同じですが、違いは変化の方向性にあります。「可塑性」では元の状態から離れていき、「可逆性」では元の状態に向かっていくため、変化の方向性は正反対となるのです。
さらに結果だけをみたときにも違いがあり、「可逆性」による変化は元の状態から変化していないようにみえます。
「可逆性」は「可塑性」で補えることも
損傷した脳が元の状態に戻らない場合でも、失われた機能が回復することもあります。これは脳の「可塑性」によるもので、脳の他の部分の機能が変化して失われた部分の機能を補うことができるようになったことが理由です。
つまり、状態に「可逆性」がなくても機能が元にもどることはありうるということで、結果的には「可塑性」によって「可逆性」を獲得したようにみえます。
「可塑性」の対義語
「弾性」は形が元に戻る性質
「弾性」とは物体から力を取り除いたときに形が元に戻る性質のことを表した言葉で、力を取り除いても元に戻らない「可塑性」の対義語としてあげることができます。
風船を指で押して凹ませたり、輪ゴムを引っ張って伸ばしたりしても、指を離せば元通りの形に戻ります。しかし一定の強度(弾性限界)以上の力を加えると、風船が割れたり輪ゴムがちぎれたりして元の形には戻りません。つまり、「弾性」が発揮されるのは「弾性限界」以下の力を加えられた場合に限ります。
「可逆性」も変化を元に戻す性質
先の章で紹介した「可逆性」も、変化を元に戻すことができる性質を表していることから、「可塑性」と反対の意味を持つ言葉といえるものです。
「可塑性」の対義語としては、打ち消しの接頭辞「非」をつけた「非可塑性」を用いることもできます。
「可塑性」の類語
「可鍛性」とは変形可能な固体の性質
「可鍛性(かたんせい)」とは、固体に衝撃や圧力を加えても壊れることなく変形させることができる性質です。主に金属の鍛造加工で用いられ、加工の難易度を表しています。
日本刀の鍛造でみられるように、火で焼いたりハンマーで叩いたりする工程を経ることで形だけでなく性質も変化し、鋭い切れ味の日本刀へと生まれ変わっていくのです。
まとめ
「可塑性」の意味のほか、「可逆性」との違いや対義語・類語も紹介しました。変化を受け入れることにも抗うことにも、多くのエネルギーを必要とします。
時流に乗っているのか、単に流されているのかの判断も難しいものですが、変化に対応できる「可塑性」は現代社会に適応するために必要なものといえるでしょう。