「輩出」は逸材が次々と世に出ることを表した言葉ですが、誤用ではないかと思われる用法がよくみられます。この記事は、「輩出」の意味・使い方とともに類語や誤用の事例を紹介し、許容されるか否かについても解説したものです。語句を正しく理解するために役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてください。
「輩出」とは?
「輩出」の意味は”逸材が次々と世に出ること”
「輩出」の意味は、“ある場所から優れた人物が次々と世に出ること”です。
「輩」という文字には、”並び続く・同類”という意味があり、同じところから同類(この場合は優秀な人材)が次々と出て来るという意味になります。
「輩出」は”人材輩出”の略
優秀な人物が次々と出て来ることを表しているにもかかわらず、「輩出」という熟語そのものに、優秀な人物という明確な意味合いは見当たりません。
その理由は、「輩出」が四字熟語の「人材輩出」を短縮した言葉であるからです。「人材輩出」は中国・唐代の正史である『唐書(とうじょ)』に記載されており、文字通り人材が次々と世に出ることを表しています。
「排出」とは不要なものを外に押し出すこと
「輩出」と同じ読み方をする「排出」は、不要なものを外に押し出すという意味を持つ言葉です。「排」という文字は”おしのける・とりのぞく”ことを表しており、「排泄」や「排除」という熟語からもその意味合いがうかがえます。
「輩出」と「排出」は意味がまったく異なりますが、変換の誤りで気付かずに使ってしまうことがあり、この点には注意が必要です。
「輩出」の使い方と例文とは?
「輩出」は動詞としての用法が一般的
「輩出」という語句は、「輩出する」という形の動詞として用いられることが一般的です。加えて、目的語を取らない自動詞として「~が〇〇する」というように用います。つまり「輩出する」は、”逸材が輩出する”というように使うものです。
「輩出」を使った例文
「輩出」を使った例文をご紹介しましょう。
- ジャポニスムに触発された印象派の画家たちが輩出したのは、19世紀末だった。
- 幕末に志士たちが輩出した地域には、共通する特徴があったようだ。
注意したい「輩出」の誤用とは?
「輩出」の他動詞的用法は本来誤用
近年「逸材を輩出する」や「逸材が輩出される」という用法がよく見受けられるようになっています。
「逸材を輩出する」という言い回しは、「逸材」という目的語をとっているため「輩出する」は他動詞として用いられます。また、受動的用法の「逸材が輩出される」でも目的語をとっているため、「輩出される」は他動詞です。
これらの用法は本来であれば誤用となるものですが、誤用の方が一般的によく使われるようになったことから、他動詞としての用法も許容されつつあります。
複数人出なければ「輩出」ではない
「輩出」を使えるのは、何人もの人が次々と世に出るようなケースです。たとえば「一族から初の首相が輩出した」という場合は首相になった人は一人しかいないため、「輩出」の使用は誤用に該当します。
また、あるグループや場所から続けて世に出ることも「輩出」を使うための条件です。たとえば「松下村塾から維新を主導する人材が輩出した」というように使います。
「多数輩出」は重言
「輩出」には、数多くの人が次々と世に出たという意味があります。したがって「偉人が多数輩出した」という表現は、多人数という意味が重複した重言となるため、本来は誤用です。
しかし、「多数輩出した」や「数多くの〇〇が輩出した」という表現は、誤用とは言い切れないという意見が増えており、広く一般的に用いられるようになっています。
「輩出」の類語とは?
類語①「多士済々」とは優れた人材が数多くいること・様子
「多士済々(たしせいせい・たしさいさい)」とは、優れた人材が数多くいることや様子を表した言葉です、「士」は教養と徳のある優れたのことを、「済々」は数が多いことや立派な様子のことを指したものです。
「済々」の読み方は漢音の”せいせい”が伝統的な読み方ですが、本来は誤読だった呉音の「さいさい」も広く使わるようになりました。
「輩出」とは違い、「多士済々」はすでに優秀な人たちが特定の場所に集まっていることを表しています。
類語②「続出」とは同じようなものごとが連続して出現すること
「続出(ぞくしゅつ)」とは、同じような物事が次々と数多く出現することを指した言葉です。
「合格者が続出・批判が続出」など、「続出」は良いものにも悪いものにも使うことができます。したがって、「輩出」の言い換えに「続出」を使うことは可能です。
類語③「頻出」とは同じ種類のものが繰り返し出現こと
「頻出(ひんしゅつ)」の意味は、同じものが繰り返し出現することです。「頻」という文字には、”しばしば・しきりに”という意味があり、「頻出」が持つ”繰り返し何度も”という意味合いを表しています。
「頻出英文法」や「事件が頻出」というように、良いものにも悪いものにも使われますが、人物ではなくものごとに対して使うことが一般的です。
まとめ
「輩出」の意味・使い方と類語を、例文付きで紹介しました。「輩出」の誤用ではないかと思われる用法の多くは、許容されつつあります。
しかし、「次々と世に出る」という意味合いは外すことができません。したがって「輩出」は、優れた人が続けて出るときに使うと覚えておけば大丈夫です。