「冒涜」の意味と使い方とは?「侮辱」との違いや類義語と対義語も

「冒涜」とは、神聖なものをけがすことを指した言葉です。しかし、何を神聖なものとするかについては個人や国によって異なるため、「冒涜」の概念は固定的ではありません。

この記事は「冒涜」の意味と使い方のほか、「侮辱」との違いや類語・対義語についても紹介しています。

「冒涜」の意味とは?

「冒涜」とは神聖なものをけがすこと

「冒涜(ぼうとく)」とは、わかりやすくいうと「聖なるものや清らかなものをけがすこと」を表した言葉です。

「おかす」「強引に行う」という意味を持つ「冒」と、「けがす」「よごす」「軽んじる」という意味を持つ「涜」の二字で構成された言葉で、本来崇め尊び大切にすべき存在を軽んじたりけがしたりすることを示しています。

「涜」は「瀆」の異体字

「ぼうとく」の元々の漢字表記は「冒瀆」でしたが、現在は一般的に「冒涜」と記載されています。「瀆」と同じ旁(つくり)を持つ「續」や「讀」などは常用漢字でしたが、「賣」の略字体である「売」があてられ、異体字(字体の異なる文字)の「続」と「読」が通常用いられるようになりました。

それにしたがい、表外字である「瀆」の旁にも「売」があてられ、拡張新字体として「涜」と表記されるようになりました。

「冒涜」の使い方と例文

「冒涜」は人智を超越したもの対して使う

「冒涜」とは、人間や動物などのような世俗的な存在ではなく、神仏など人智を超越したものに対して使う言葉です。人間であっても死者や聖人など、世俗から離れているようなものに用いることもあります。どのような存在が神聖なものとされるかは、個人の価値観や宗教観に大きく左右されるものです。

「冒涜罪」とは神や信仰に対する罪

「冒涜罪」は、神や信仰などを罵倒・侮辱するなどの行為を罪とするものです。罰金や禁固刑だけでなく死刑に処せられることもあるものですが、言論や思想の自由を損なうものとして廃止されつつあります。

日本においては、皇族や神宮・皇陵などへの敬いを欠く行為に対する「不敬罪」が存在しましたが、日本国憲法の施行にともなって廃止されました。

「冒涜」を使った例文

  • 外国で信仰への冒涜とみなされるようなことをすると、国際問題にまで発展しかねない。
  • 言論の封殺や統制は民主主義を冒涜するものであり、見逃すことはできないものだ。

「冒涜」と「侮辱」との違い

「侮辱」とは相手を軽んじはずかしめること

「侮辱(ぶじょく)」とは、相手を見下して軽んじはずかしめることを指す言葉です。

「侮」と「辱」の訓読みはそれぞれ「あなどる」「はずかしめる」で、読みがそのまま熟語の意味となっています。具体的には他人の自尊心を傷つけ、羞恥心を抱かせるような言動をとることです。

「侮辱」は「人」に対する行為

「冒涜」と「侮辱」は、いずれも対象をおとしめることを表す点で共通しています。

しかし、世俗を超えた神仏などを対象としている「冒涜」とは異なり、「侮辱」は一般的に人間を対象として用いられているという違いがあるのです。なお、「神を侮辱する」という用法もあります。

「冒涜」の類語・類義語

「涜神」とは神をけがすこと

「涜神(とくしん)」の意味は、神をけがすことです。「涜神」という熟語の成り立ちは、動作を表す前の漢字に、目的語となる後の漢字が続くもので、「神を涜する」という読みがそのまま意味を説明しています。

神の神聖を傷つけたり、神を呪ったりした者に対しては天罰が下るとされ、刑罰や社会的制裁が加えられるケースもあります。

「背徳」とは社会秩序や道徳に背くこと

「背徳(はいとく)」とは、社会秩序や道徳などに背くことです。「背」は「そむく」「裏切る」、「徳」は優れた品性や人格のことを表しています。つまり「徳にそむく」、人間としてあるべきものとされる姿や言動から逸脱するという意味合いを形成しています。

具体的には道徳心に欠けたり、反社会的であったりする言動のことを指すものです。

「冒涜」の対義語

「尊崇」とは尊びあがめること

「尊崇(そんすう・そんそう)」の意味は、尊びあがめることです。「たっとぶ」「うやまう」ことを表す「尊」と、「あがめる」「重んじる」という意味の「崇」があわさって、熟語を形成しています。

「尊崇」の「崇」は漢音で「そう」と読み、「すう」は慣用読みです。しかし現在では、常用読みの「すう」を用いて「そんすう」と読むことが一般的です。

「崇拝」とはあこがれ敬うこと

「崇拝(すうはい)」とは、あこがれの気持ちを持って心から敬うことです。「拝」という文字には「おがむ」「敬意をもってお辞儀する」ことを指しており、目に見える対象物を信仰の対象としてあがめることを表した「偶像崇拝」という言葉からも語句の意味合いがうかがえます。

なお、人や思想など宗教以外のものに対して、信仰するようにあがめ敬うという意味でも使われています。

まとめ

「冒涜」の意味と使い方・例文のほか、「侮辱」との違いや類語・対義語も紹介しました。「冒涜」の対象は犯してはならない神聖なものであることに対し、「侮辱」の対象は一般的な人間であるという違いを押さえておけば、使い分けに悩むことはなくなります。

いずれにしても、他の存在を軽んじたり辱めたりするような行為は控えておいた方が無難でしょう。