「いやしくも」の意味とは?「いみじくも」との違いや使い方も

「いやしくも」は、就任の挨拶などの際に使われている言葉です。しかし「いやしくも」には複数の意味があり、文脈に注意なければ意味を取り違えてしまうことがあるので、注意する必要があります。この記事では、「いやしくも」の複数の意味と使い方のほか、「いみじくも」との違いも紹介しています。

「いやしくも」の意味とは?

「いやしくも」の元々の意味は「畏れ多くも」

「いやしくも」は副詞として、後に続く文を強調する働きを持った言葉です。元々相手の水準にこちらが達していないということから、「畏れ多くも」という恐縮の意を表した言葉です。

「平家物語」や「太平記」などにも記載がみられるように古くから使われていますが、現在では後述するように複数の意味合いで用いられています。

「いやしくも」は「分不相応」という意味

「いやしくも」の意味は、「分不相応」です。「この度いやしくも重職に任ぜられました。〇〇でございます」、「いやしくも首長の任を預かる身となったからには、不惜身命で職務に励みます」などのように使います。この用法は、現在でも就任の挨拶などでよく見聞きされるものです。

「いやしくも」は「かりそめにも」という意味の言葉

「いやしくも」には、「かりそめにも」「曲がりなりにも」という意味もあります。本来はその条件を満たしていないけれどもという意味合いを表すものです。

「いやしくも人の上に立つ者は、言葉を慎むべきだ」、「いやしくも自ら手を挙げたのだから、真剣に取り組まなければならない」というように使います。

「いやしくも」は「もしも」という意味の言葉

「いやしくも」には、「もしも」「万一」という意味もあります。「いやしくも彼が嘘つきならば、これだけの信望者を獲得できないはずだ」、「いやしくもこの話が本当なら、一刻の猶予もならない」というように、仮定の用法で使われることが多くみられます。

「いやしくも」には「まことに」という意味もある

「いやしくも」には、「まことに」「ほんとうに」という意味もあります。これまで述べた意味合いとは毛色が異なったものですが、後述する「いやしくも」に宛てられた漢字「苟」に、「まこと・に」という読みがあることから、この意味でも使われるようになりました。

打消しを伴う使い方では「おろそかに」という意味に

「いやしくも」は、あとに打消しの語を伴うことで「いいかげんに」「おろそかに」といった意味合いになります。

「年少者だからと言って、彼をいやしくもしてはならない」、「まだ研究は半ばであるので、いやしくも筆を著けたくはない」というように使います。

「いやしくも」を漢字で書くと?

「いやしくも」の漢字表記は「苟も」が正解

「いやしくも」は通常ひらがなで表されていますが、漢字では「苟も」と書きます。「苟」という文字は、特別な髪形で身体を折り曲げ神に祈る人の姿を示すもので、「うやまう」、「畏れ多い」という意味合いはここから生じているものです。

「卑しくも」「賤しくも」は誤記

「いやしくも」が「畏れ多くも」や「分不相応」という意味を持つことからか、自分の地位や立場を下げる「卑しい」や「賤しい」という文字が充てられている事例が見受けられます。

しかし前述したように、「苟も」が正しい表記であり、「卑しくも」や「賤しくも」は本来誤記です。

「いやしくも」と「いみじくも」との違いとは?

「いみじくも」とは「適切に」という意味

「いやしくも」と似た言葉として、「いみじくも」があげられます。「いみじくも」は「いやしくも」と同様に、副詞として後に続く文を強調する働きを持った言葉です。

「適切に」「非常にたくみに」という意味を持つもので、相手の言動を肯定的にとらえるときに使います。

「いみじくも」は「忌む」が語源

「いみじくも」は、動詞である「忌む」を語源とする言葉です。動詞の「忌む」が形容詞化した「忌みじ」の連用形に、助詞の「も」がついて構成されています。

忌むべきほどにはなはだしいという意味合いですが、善悪問わずに使われていました。それが時代を経てポジティブな「非常にたくみに」という、現在使われている意味だけが残ったのです。

「いみじくも」を「偶然に」という意味で使うのは誤り

ときおり「いみじくも」を、「偶然に」という意味で使っている事例を見掛けますが、これは誤りです。「彼の発言は、いみじくも正論を言い当てている」は、彼の発言が正論を巧みに言い当てているという意味になります。

「偶然に」ということを言いたい場合には、「彼の発言は、奇しくも正論を言い当てている」というように「奇しくも(くしくも)」が適切です。

まとめ

「いやしくも」の意味のほか、「いみじくも」との違いや使い方も紹介しました。「いやしくも」には複数の意味があるため、文脈に注意しなければ意味を取り違えてしまうことがあります。また、文語的で硬い言い回しでもあるため、分かりやすい言葉で言い換えたほうが誤解や混乱を招かずにすむでしょう。