つるべそのものを見かけることはめっきり少なくなりましたが、「つるべ落とし」という言葉は今も使われています。
秋の季語である「つるべ落とし」は、妖怪を示す言葉でもあり、他にも複数の意味を持っている言葉です。ここからは、「つるべ落とし」の意味や使い方について解説します。
「つるべ落とし(釣瓶落とし)」とは?
「つるべ落とし」意味は秋の季語
「つるべ落とし」の意味は、「秋の日暮れどき」です。秋の季語です。秋の日が急速に暮れていくさまが、急速に井戸の底へと落ちていくつるべのようであることから、「秋の日は釣瓶落とし」と言われるようになりました。
実際の気象において6月の日没時刻は19時頃で、その後ゆっくりと暗くなっていきます。しかし、11月になると日没時刻は16時30分頃となるうえ、日没後は急速に暗くなっていくのです。
そのため夕刻から短時間で夜を迎える秋の日暮れ時は、つるべが落ちていくように短い時間に感じられます。ここから「つるべ落とし」が秋の日暮れを表す言葉として定着し、季語となりました。
「つるべ落とし」は6文字のため字余り・字足らずになったものも見受けられますが、秋の情景をよく表した秀作が多く見受けられます。
「つるべ(釣瓶)」は井戸から水を汲み上げるための道具
「つるべ落とし」の「つるべ」とは、井戸から水を汲み上げるための道具で、桶を縄の先にとりつけたものを滑車に掛けて使用します。井戸の中につるべを落とし、手元の縄を引くことで井戸の水を汲み上げられる仕掛けになったものです。
なお、井戸のつるべは漢字で「釣瓶」と書きます。落語家の笑福亭鶴瓶氏の名前と書き間違えないようにご注意ください。
「つるべ落とし」の使い方とは?
複数の意味を持っている「つるべ落とし」ですが、ここでは一般的な用法である秋の落日を表す意味での使い方を紹介します。
「つるべ落とし」を使った例文
- 秋の日はつるべ落としだから、早めに下山しなければ危険だ。
- 秋の日はつるべ落としで、夜が早く訪れる季節になった。
- 秋の日はつるべ落としというから、懐中電灯を持って出掛けよう。
秋の行楽に適したシーズンで、山でのハイキングや紅葉狩り、山菜採りなどレジャーは楽しいものです。しかし日没後は急速に暗くなるため、早めに下山することが大切です。
「つるべ落とし」の使い方で注意すべきポイント
秋の日で使われている「日」は日にちのことではありません。「秋の日はつるべ落としで、もう12月になってしまった」というような使い方は誤りですので、注意しましょう。
「つるべ落とし」のその他の意味とは?
「つるべ落とし」は経済用語で使われることも
「つるべ落とし」は経済用語としても使われており、相場が急落していく様子を指すものです。井戸を落ちていくつるべがとどまることを知らないように、相場がひたすら下落していく状態を表現しています。
長い目で見れば相場は上昇と下落を繰り返すもので、どこまでも落ち続けたことは未だかつてありません。ちなみに急速に上昇している相場は「うなぎのぼり」と呼ばれています。
「つるべ落とし」という滝の名前もある
「つるべ落とし」は静岡県駿東郡長泉町にある滝の名前でもあります。この滝は落差20mですが、別名「幻の滝」とも呼ばれているとおり、水量が多い梅雨の時期以外には見られないことがよくあります。
また、滝まで徒歩で1時間近く掛かることもあり、実際に見るのはかなり大変です。しかしまとまった雨が降ればいくつもの渓流が一つにまとまって、つるべ落としの名にふさわしい瀑布となります。
(付録)「つるべ落とし」とアニメの関係とは?
「つるべ落とし」は妖怪の意味もある
「つるべ落とし」は気象現象を表すことわざですが京都・滋賀・和歌山のほか、岐阜・愛知などに伝承されている妖怪を示すものです。つるべ下ろしとも呼ばれ、木の上から落ちて来て人間を襲って食べるといわれています。
「つるべ落とし」は妖怪として様々なメディアに出演!?
「つるべ落とし」は、アニメ映画や、子どもたちに人気のあるコミックでも取り上げられています。
つるべなど生まれてから一度も見たことがないという子どもたちが、妖怪のつるべ落としを知っているという不思議なことがあり得るのです。
まとめ
「つるべ落とし」の意味や使い方について紹介しました。言葉は生き物で世に連れて変化したり消えてしまったりするものです。しかし、つるべを見掛けることはほとんどなくなったにもかかわらず、「つるべ落とし」という言葉はまだまだ現役で活躍しています。
季語として俳句に詠まれるだけでなく、子供向けのメディアに取り上げられるなど、「つるべ落とし」は由来となった実物がなくなっても残ることができる、ことわざの持つ力を示す言葉です。