「荀子」の思想とは?性悪説や勧学の名言も紹介!孟子との比較も

「性悪説」を唱えた「荀子」を知っていますか?「性善説」の孟子はよく知られていますが、荀子の影は薄いかもしれません。「性悪説」の本当の意味に興味がある人は、孟子について知ってみることをおすすめします。孟子の概要を解説しますので参考にしてください。

「荀子」とは?

荀子は異端の儒家

荀子とは、儒教の学者で、中国の戦国時代の末期に生きた人です。諸子百家(しょしひゃっか)と呼ばれる思想家たちが、さまざまに発展させた中国古代思想の集大成を行った人物とされています。

荀子は儒家(孔子を祖とする学派)でありながら、孔子やそのあとに次ぐ孟子を批判したため、孔孟を敬う人々には異端者とみなされました。荀子の著作は『荀子』にまとめられています。

「荀子」の思想とは?

荀子は孟子の「性善説」を否定し「性悪説」を唱えた

荀子は戦国末期の混乱の中、いかにして秩序だった社会を成り立たせるかを探求しました。そのような背景の中、荀子の学説の基調は「性悪説」でした。人間は生まれつき誤った道に進みかねない欲望を持っているが、それは教育によってコントロールできるという考えです。荀子の哲学には、人間の欲望に対する客観的な認識があります。

荀子は孟子の「人は本来、善である」とする性善説を批判します。『荀子』には次のような言葉があります。

孟子曰く、人の性は善なりと。曰く、これ然(しか)らず。  …人の性は悪なり。

荀子は、人間の本性が悪(弱いもの)であるから、善になるためには「人為」すなわち教育が必要だとしました。そして人間は生涯学び続けることによって善に至らなければならないとし、学問はやめてはいけないと説きます。その主張を端的に表す言葉を『荀子』から紹介します。

人の性は悪なり。その善なるは偽なり。
本来、人の性質は悪(弱いもの)であり、それが善になるのは人為の結果である。

学は以て已(や)むべからず。
学問はやむことなく継続して修めなければならないものである。

■参考記事
「性悪説」とは?唱えた人は誰?正しい意味と「性善説」との違い

荀子は「天命」を否定した

荀子の先人である孔子や孟子は「天」や「天命」を自然であると同時に神のような概念でも捉えていましたが、荀子はそれに異を唱えました。天はあくまで自然の法則であり、天から人間を独立させようとします。

そのため、人間の欲望や堕落を抑えるために「礼」が重要になります。「礼」とは具体的な行動の規範を説いたものです。

この思想はのちに「韓非子」に受け継がれ、「礼」による徳化を考えた荀子に対し、「法」によって矯正するという主張となって発展してゆきます。

荀子は「礼・義」を主張した

孔子は「仁」の徳を強調し、孟子は「仁・義」を強調しました。それらは天命に通じたものでした。それに対して荀子は「礼・義」を主張します。荀子の「礼・義」は天から独立した人間の規範であり、現代の法律に近いものとされます。

礼・義を大切なものとしてその実践を決意するのは人の心でありながら、その心のはたらきを正そうと教育しないから人は邪道に走り世の中が乱れる、と荀子は考えたのです。

孟子は「理想主義者」、荀子は「現実主義者」

荀子は孟子よりも七十年ほど遅れて生まれたと考えられるため、直接の接点はなかったとされます。人間の持って生まれた性を善と見るか、悪と見るかの出発点の違いは、両者の生き方の違いを表しているともいえます。

孟子は戦国の時勢を考えれば理想主義的な思想を貫きました。対して荀子は徹底した現実主義者で、現代でいうリアリストでした。孟子の感情的な言葉に対して、荀子の言葉は論理的であるともいわれます。

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「孟子」の思想とは?訳と書き下し文や名言も紹介!性善説も解説

『荀子』「勧学」篇の名言

『荀子』32篇のうち「勧学」篇を出典とする名言を紹介します。「勧学」篇では学びと努力の大切さを説いています。

名言①「青は藍より出て藍より青し」

青は藍より出て藍より青し(あおはあいよりいでてあいよりあおし)とは、藍という草からとった青色は、もとの藍より青いということから、門人が師よりも進んだ修養ができたことをたとえる言葉です。この語から派生した「出藍の誉れ」も同じたとえです。

その本来の意味は、人間は後天的な努力により、高いレベルに到達できることを示しています。

■参考記事
「青は藍より出でて藍より青し」の意味とは?類語や四字熟語も

名言②「麻の中の蓬」

麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ)とは、蓬は麻に交じって生えると、支えがなくてもまっすぐに成長することから、人は良い環境に感化されて善人になることのたとえです。

「蓬も麻中に生ずれば扶(たす)けずして直し」の一文から派生した言葉です。

名言③「積土成山」

積土成山(せきどせいざん)とは、少しの土でも積み上げればやがて大きな山となることから、努力を積み重ねれば大きな成果を得られることのたとえです。

「土を積んで山を成す」と訓読みし、「塵も積もれば山となる」のことわざと同じ意味です。

『荀子』のことば

「荀子」の書き下し文

『荀子』の中から、書き下し文(読み下し文)と解説を紹介します。

教え、之れをして然らしむるなり
人の現在の姿は、正しいことも間違いも教育の結果である。

人心はたとえば、はん水の如し
人の心は浅いたらいに入れた水のようなものだ。静かにしていると物をきれいに映すが、少し動かしただけで映らなくなる。

一なれば治まり、二なれば乱れる
国でも家庭でも意見が一致していればうまく治まるが、意見が一致せず方針が統一しなければ必ず乱れる

まとめ

「性悪説」を思想の根本として孔子や孟子の思想に異を唱えた荀子は、異端の儒家として退けられることもありました。しかしその目標とするところは、学問を修めることによって高い人格を獲得して聖人となり、政治のリーダーとなる人を生み出すことでした。

荀子の思想は、のちに人間は利己的な存在だとする「韓非子」に受け継がれ、中国統一に寄与することになります。

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