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「儒教」の教えや儒教思想とは?意味や特徴をわかりやすく紹介

「儒教」は日本人の思想や生活習慣に大きな影響を与えていますが、その全体像はあまり知られていない学問であるといえます。その反面、儒教の教えをビジネスで活用しようという動きも近年さかんになっています。

儒教の教えや思想をビジネスに役立てるための基本的な知識として、儒教の全体像を解説しますので、参考にしてください。

「儒教」とは?

「儒教」は「孔子」の思想をもとにした学問

儒教とは、「孔子」の打ち立てた思想がもととなって、その後弟子たちによって深められていった学問です。孔子は、今からおよそ二千五百年前の中国の思想家であり、哲学者です。「儒」とはもともと「巫祝(ふしゅく)」(原始宗教で、神事をつかさどる人)の意味があり、祖霊の祭祀などを行う人々のことを指していました。孔子の母が「儒」だったとされています。孔子はその原儒であった「儒」の思想を体系化し、現実の社会に適応する道徳理論として「儒教」の成立を推進しました。

孔子の死後三百年ののち、孔子の言葉をまとめた『論語』が弟子たちによって編さんされました。『論語』は百済を経て3世紀に日本に伝わった、日本人が手にした最古の書物とされており、その後、現在に至るまで読み続けられています。

「儒教の教え」とは?

孔子の基本理念は「仁」

孔子の基本理念は「仁(じん)」という道徳概念です。仁とは、概括すると「人を愛すること、他者への思いやり」という意味です。それぞれの個人が仁を体現することにより、社会に秩序が保たれるとされています。

「仁」を実践する手段は「礼」

孔子は人間は社会的生物であることを前提とし、感情を形として表すための規則や慣行である「礼」を構築しました。「礼」を実践することにより、家族が秩序立てられ、さらに家族を超えて社会が安定することとなるため、「礼」は社会規範となり、のちに政治理論としても発展してゆきます。

儒教の最高の人格は「聖人」

儒教の目指す最高の人格は「聖人」です。「聖人」とは、この世に生きている生身の人間の完璧な存在のことを指します。

その聖人を体現したのが孔子です。孔子が自分の内的成長を表した言葉が有名な次の言葉です。孔子は七十四歳まで生きましたが、その晩年に自らの軌跡を語ったものです。

<書き下し文>
十有五にして学を志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳したがう。七十にして、心の欲するところに従えども、のりをこえず。

<現代語訳>
わたしは十五歳のとき聖人を習得する学を志した。三十歳になったとき、精神的にも経済的にも独立することができた。四十歳で自分の人生に惑いがなくなった。五十歳で天命を与えられたことを自覚した。六十歳となり何を聞いても抵抗感も驚きもなくなった。七十歳となってからは、心のままに言動しても、決して道徳的規範を外れることはなくなった。

孔子の七十歳のときの境地が聖人の状態であり、その心は迷いなく自由であり、道徳的な極地であるとされています。

儒教の最高の価値は「天」

儒教の最高の価値として「天」があります。「天」とは人間の価値の源泉とされているもので、物理的な天空や神格ではありません。天が命(めい)として人間に付与したものが「性」とされます。「性」とは、持って生まれた人間の本性のことです。性を与えた天は価値の源泉であるため、性は善なるものとされます。

「儒教思想」とは?

孔子以後は「孟子」や「荀子」が学説を深めた

孔子の死後は、その弟子たち、そしてまたその弟子の弟子たちによって、儒教の思想や学説が深められてゆきました。とくに「孟子」は哲学としての儒教(儒学)を深め、「荀子」は文献学として儒教(儒学)を深めました。

このような流れは原儒の「宗教性」に対して、儒教の「礼教性」として区別されます。

孟子の「性善説」は「孔子の教え」が論拠

先に説明した、「天」は善であることが、孟子の唱えた「性善説」の論拠とされています。性善説とは、性は善であることから、道徳の修養によって善は感化され、徳によって統治することが可能となる論のことです。

それに反して荀子は、生まれながらに弱い人間は、後天的努力によって聖人を目標に自己を成長させることを説く「性悪説」を唱えました。どちらも儒経の学習によって自己を成長させることで誰もが聖人になれるとする点で共通しています。

次に説明する朱子学や、その後登場した陽明学は性善説を採用し、儒教の主流は性善説となりました。

「朱子」は新儒教である「朱子学」を整備

12世紀には「朱子」が儒教の一派である「朱子学」を成立させます。数ある学派の中で朱子学は、明の時代に国経と定められ、現代につながる中国思想の根幹となります。

朱子は儒教の規範として「四書五経」を定め、教育課程と教科書を示しました。四書は『論語』『大学』『中庸』『孟子』で構成され、現代の日本でも、数多くの翻訳本や解説本がそれぞれに出版されています。

日本においては、鎌倉時代に日本に伝わったとされ、知識階級に影響を与えました。江戸時代には徳川幕府が朱子学を正学として採用し、明治維新につながる思想の土台を築きます。その後、近代日本においては政財界人や研究者など、幅広く日本人の思想に大きな影響を与えました。

朱子学の理念は「修己治人(己を修め人を治む)」

儒教の理念は「修己治人(己を修め人を治む)」にあり、その意味は「自己の修養と同時に他者へ貢献する」ということです。この言葉は『大学』に書かれており、『大学』は個人の修養を社会の貢献や政治へと発展させてゆくための、儒者にとっての基本的な教科書とされています。

三教(儒教・仏教・道教)の違いとは?

中国における三つの宗教として、儒教・仏教・道教があり、「三教」と呼ばれます。長い歴史の中で、それぞれの宗教は対立と融合を繰り返してきました。習俗、思想、学問の立場からみた違いを説明します。

習俗では混交している

儒教の宗教性は各家庭における祖先祭祀の慣習となって個別化したため、教団が成立しない原因ともなり、庶民の宗教性への希求の受け皿として仏教や道教がありました。民衆宗教としての儒教・仏教・道教は、習俗としてそれぞれの要素が混交されている側面があります。

例えば、日本で葬式仏教ともいわれる仏教式の葬儀方法や仏壇などには、本来の仏教にはない儒教の影響が多くみられます。

思想としては対立している

民衆宗教とは異なる立場として、思想としての儒教と仏教・道教は対立の歴史があります。道教の始祖である「老子」は儒教の形式主義を批判し、「無為自然」の自然世界を重視しました。また、儒教は道教の「不老長生」を否定する立場です。

さらに、仏教においては、輪廻転生という生まれかわりの長い時間をかけ、懸命に努力して解脱にいたるという教義に対して、儒教は否定する立場です。

学問としては融合している

朱子学を体系化した朱子の立場では、仏教的な因果論と道教の宇宙概念を儒教に融合させています。さらに、森羅万象を説明する「陰陽五行説」などは、道教、儒教ともに宇宙論の基盤となっています。

ビジネスと儒教の関係

経営倫理や企業精神に相関性がある

近年、儒教において培われてきた倫理観が、経済活動における経営倫理や企業精神に相関性があるということで、注目を集めています。アメリカの経済学者などがはじめに注目し、現在の中国や韓国でも経済倫理のむしろバックボーンとなるものとして期待がもたれています。

その背景には、中国・韓国・日本などの儒教文化圏と経済発展との相関関係が注目されたことや、金融危機以後に混乱した経営倫理を立て直すため、儒教や『論語』の示す倫理観や道徳を、経営の基盤としようとする動きができたことといわれています。

また、多数の著書がある経営学者のドラッカーも儒教に関心を寄せ、企業倫理に関する論文の中で儒教について論じています。

儒教の英語表現

儒教は英語で「Confucianism」

儒教の英語表現を紹介します。
・儒教は「Confucianism」
孔子のことを英語で「Confucius」ということから、「孔子の教え」という意味もある儒教を「Confucianism」といいます。

・朱子学は「Neo-Confucianism」
新儒教である朱子学を特に区別していう場合は「Neo-Confucianism」といいます。

また、仏教は「Buddhism」、道教は「Taoism」とよばれ、欧米では東洋の思想に関心が持たれています。

まとめ

二千五百年の歴史のある「儒教」が、混迷する世界経済を立て直すための経済倫理のバックボーンとなるのではと、中国、韓国、日本、およびアメリカなどでも注目を集めています。また、これからの時代を生き抜くための個人を支える人間論としても、『論語』や『孟子』に立ち返り学ぼうという動きが、アジアや日本に出ています。

孔子が生きた春秋の時代も混迷の時代だったといいます。「いかに生きるべきか」を学問として体系化した孔子は、自らが「礼」によって「仁」を実践し、「聖人」を目指した生身の人間でした。

道徳倫理学としての儒教は、世界でも類をみない、人間のこころの動きを世の中に役立つ実践的な教えに落とし込んだ学問といわれています。いかに生きるかは、いかに仕事をするかにもつながる三千年を超える命題であるといえるのでしょう。

■参考記事
「孔子」の思想と論語の名言を解説!孔子の生涯や日本との関係も

「孟子」の思想とは?訳と書き下し文や名言も紹介!性善説も解説

「荀子」の思想とは?性悪説や勧学の名言も紹介!孟子との比較も

■今回は儒教の概要をお伝えしましたが、より詳しく知りたい方は次の書籍もおすすめです。