『淮南子』とは?淮南子の思想の特徴や書き下し文・現代語訳を紹介

「淮南子(えなんじ)」という中国の古典を知っていますか?「淮南子」は「人間万事塞翁が馬」の出典であることや、「日本書紀」の神話へ引用されていることで知られています。

「淮南子」はさまざまな中国思想が盛り込まれており、また古代中国人の宇宙観も示されている書物です。その概要をまとめて説明します。

『淮南子』とは?

はじめに『淮南子(えなんじ)』の概要を説明します。

『淮南子』は淮南王劉安の書をまとめた書物

「淮南子」とは、漢の時代の淮南(わいなん)の国王であった劉安(りゅうあん)が学者に編集させた書物です。

文学者でもあり思想家でもあった淮南王劉安は学者たちを呼び寄せ、盛んに文化活動を行います。淮南王は紀元前122年に謀反の罪で倒れますが、残された多くの著述をまとめたものが『淮南子』二十一篇となります。

『淮南子』は総合思想の「雑家の書」

『淮南子』のうち、二十篇はさまざまな学者や思想家が書いた書を集めたもので、最後の一篇は「要略」篇として『淮南子』の思想のまとめになっています。『淮南子』は複数の学説を総合した書であるため、「雑家(ざっか)の書」と分類されています。

「雑家の書」の「雑家」とは、古代中国の思想集団をさす「諸子百家(しょしひゃっか)」のうちのひとつで、儒家・道家・墨家・名家・法家などの諸家の説を総合した学派のことをいいます。

淮南子の思想とは?

次に『淮南子』の思想について説明します。

淮南子の思想の特徴は「老荘思想」と「現実の道の統一」

『淮南子』は雑貨の書とされていますが、なかでも『老子』と『荘子』をあわせた「老荘思想」が色濃く反映されています。その根本原理は『老子』によって「道の道とすべきは常の道にあらず」と表される「道」の概念です。道とは無形・無作為のことであるため、道にのっとる人間の行いも無作為・無欲であることが『淮南子』でも説かれます。

しかし『淮南子』の思想の特徴として、「道」という精神的な概念を尊重しながら、現実的な処世の述や政治についても強調していることが挙げられます。

淮南子の思想は広く波及

『淮南子』の天文訓が『日本書紀』引用される

『淮南子』は人間の問題を天地の創造からはじめようとしました。「天文訓」には開闢(かいびゃく)説話が書かれており、「天地の未だ形せざるとき」から始まります。ここから始まる多くの文句が『日本書紀』の天地開闢の神話に多く引用されていることがわかっています。日本書紀の天地開闢の神話は「古に天地未だ剖れず」から始まります。

『淮南子』は紀元前2世紀の書であり、『日本書紀』は8世紀に成立したことから、古代中国の雑家の宇宙哲学がその100年後に日本の神話を形作る源となったことになります。

『淮南子』の人間訓から「人間万事塞翁が馬」が生まれた

『淮南子』の「人間(じんかん)訓」に書かれた逸話が「人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)」の基となっています。

このことわざは、「世の中に起きることの禍福は予期できず、それに振り回されてはならない」という意味を持ち、あるがままで生きよとする「無為自然」の老荘思想が根底にあるといえます。

■参考記事
「人間万事塞翁が馬」の意味と使い方!原文や類語も紹介

『淮南子』の原文とは?

書き下し文と口語訳(現代語訳)で紹介

最後に『淮南子』を出典とする故事成語を、原文の書き下し文(読み下し文)と現代語訳とともに紹介します。

【陰徳あれば陽報あり】
「陰徳(いんとく)あれば陽報(ようほう)あり」は「人に知られずに善行を積んだ者には、必ずよい報いが授けられる」という意味です。

読み下し文と現代語訳
陰徳(いんとく)ある者は必ず陽報(ようほう)あり。隠行(いんこう)ある者は必ず昭名(しょうめい)あり。
人に知られずに善行を積んだ者には、必ずよい報いが授けられる。隠れて善い行いをした者には、必ず名誉があらわれる。

【獣を逐う者は目に太山を見ず】
「獣を逐(お)う者は目に太山(たいざん)を見ず」とは、「目先の利益に心を奪われると大局が見えない」という意味です。

読み下し文と現代語訳
獣を逐う者は、目に太山を見ず。嗜欲(しよく)外に在るは、則ち明(めい)の蔽(おお)わるる所なり。
獣に心を奪われていると、その山は見えない。欲があると、良心が隠されて真実を見る力を失う。

【一葉落ちて天下の秋を知る】
「一葉(いちよう)落ちて天下の秋を知る」とは、「わずかな前触れから未来に起こることを推測する」という意味です。

読み下し文と現代語訳
一葉の落おつるを見て、歳の将(まさ)に暮れなんとするを知り、瓶中(へいちゅう)の氷を睹みて、天下の寒きを知しる。近きを以って遠きを論ずるなり。
落葉の早い葉が一枚落ちるのを見て秋が来たことを知る。かめの中に氷が張るのを見て冬が来たことを知る。わずかな前触れから未来に起こることを推測できる。

まとめ

『淮南子』は老荘思想に基づきながら処世の術も説いた、いわば中国思想の総まとめともいえる思想書です。その時代に生きた博学の王が、一つの信念のもとに集めた書物がまとめられているため、中国思想を俯瞰するのに最適な書物であるといえます。また『日本書紀』にその宇宙観が引用されており、日本人の原風景に大きな影響を与えているともいえるでしょう。

■参考記事

「諸子百家」の意味とは?流派の一覧とそれぞれの思想も紹介