「もりそば」と「ざるそば」の違いとは?せいろや海苔との関係も

蕎麦屋さんの定番メニューとしておなじみの「もりそば」と「ざるそば」ですが、見た目も味もほとんと同じです。同様に「せいろそば」にも大きな違いはなさそうですが、それぞれにれっきとした履歴があります。この記事では、「もりそば」「ざるそば」の違いのほか、せいろと海苔との関係についても紹介しています。

「もりそば」と「ざるそば」との違いとは?

「もりそば」と「ざるそば」の違いは海苔の有無

「もりそば」と「ざるそば」との違いは、海苔が乗っているかどうかにあります。海苔が乗っていないのが「もりそば」、乗っているのが「ざるそば」です。

実は「もりそば」と「ざるそば」では、蕎麦の種類や量、つけ汁などに違いはなく、「もりそば」に海苔を乗せると「ざるそば」に早変わりするということになります。ちなみに値段は、「ざるそば」の方が高くなっていますが、これは海苔の差額かもしれません。

「もりそば」は漢字で「盛りそば」

「もりそば」も「もり」は、漢字だと「盛り」です。容器に「盛って」蕎麦を提供したことから「盛りそば」と名付けられました。

しかし、そばを盛った容器の底に水が溜まってしまい、そばが水っぽくなるというクレームがあったようです。

「もりそば」はぶっかけと区別するための名称

「そば」は、猪口に入れたそばつゆにつけて食べる「つけそば」が一般的でしたが、気の短い江戸っ子はいちいちそばつゆに付けて食べるのではなく、そばにつゆを掛けて食べ始めました。

この「ぶっかけそば」が大流行したため、従来のつけそばと区別する必要が生じ、「もりそば」という名称がつけられたそうです

「もりそば」の容器をざるに変えたのが「ざるそば」の始まり

「もりそば」の溜り水問題に対応するために、水が切れるざるにそばを盛って供するスタイルができあがりました。これが「ざるそば」で、江戸時代の深川にあった名店の『伊勢屋』が最初とされています。

『伊勢屋』では一般の「もりそば」より上等なそばを、竹のざるに盛って差別化したということです。そばつゆにも高級な鰹節や味醂を使っていましたが、海苔をのせ始めたのは明治以降ということです。

「もりそば」と「せいろそば」との違いとは?

「せいろそば」は蒸した温かいそばだった

元々の「せいろそば」は、和菓子屋がまんじゅうを蒸すときにつかった蒸篭(せいろ)でそばを蒸し、湯気が立った温かい状態でお客に出していたものです。

小麦粉をつなぎとして加えた二八そばができるまで、つなぎを使わない十割そばが一般的でしたが、ゆでるとちぎれやすいため蒸していました。

しかし、蒸篭で蒸す方法では出来上がりに時間が掛るため、徐々に二八そばをゆでる方法に変わっていき、ゆであがったそばを水で締めて冷たい状態で出す「もりそば」や「ざるそば」が広まっていきました。

「せいろそば」は上げ底だった

「せいろそば」は、すのこで底上げした蒸篭に入れることで量を多く見せるために考案されたという説もあります。

江戸末期に原材料の価格高騰に頭を痛めた蕎麦屋が、値上げせずに量を減らして対応したのですが、蒸篭を使って上げ底して量が減ったように見せない工夫をしたのです。初めは「盛りせいろ」と呼んでいましたが、後に「せいろそば」と呼ぶようになりました。

「せいろそば」は出前に最適

現在では、「もりそば」や「ざるそば」も蒸篭に盛って供されることが増えており、「せいろそば」も通常は冷たい状態で出されています。

つまり、「もりそば」「ざるそば」「せいろそば」はおおむね同じものとなっており、蒸篭で出されるケースが一般的です。

このような変化は、蒸篭が重ねて運びやすいことに由来するようで、特に出前では蒸篭が重宝されてきました。

「もりそば」と「かけそば」の違いとは?

「かけそば」は熱いつゆをかけたもの

「もりそば」にそばつゆをかけた「ぶっかけそば」は、冷たいそばでした。その後、冬になると熱いつゆをかけて出すようになりましたが、冷たい「ぶっかけそば」と区別するために「かけそば」と呼ぶようになったのです。

「かけそば」は本来「熱い汁をかけたそば」ということで、現在でも天かす、わかめ、とろろ昆布など控えめな具がトッピングされているものがよくみられます。

「かけそば」は落語にも登場

蕎麦屋で勘定をごまかす江戸落語の「時そば」には「かけそば」が登場していますが、ここでの「かけそば」の具としては、ちくわが入っていたようです。

なお『時そば』には、ちぎった焼き海苔をたっぷりと乗せた花巻や、蒲鉾や湯葉、野菜などを乗せたしっぽくなど、現在はあまり見掛けなくなったそばメニューも登場してます。

まとめ

「もりそば」「ざるそば」「せいろそば」の発祥や名前の由来のほか、そばとせいろ、海苔などとの関係も紹介しました。落語や小噺に登場する「そば」は、古くから庶民に愛されてきた食べ物です。

現在は、「もりそば」「ざるそば」「せいろそば」はほぼ同じものとなっています。しかしその履歴からは、江戸っ子たちの暮らしぶりやそばの変遷がうかがえ、興味深いものと言えるのではないでしょうか。