「ヤマアラシ」はどんな動物?ジレンマやハリネズミとの関係も

「ヤマアラシ」と聞くと、固いトゲを逆立てた怖い姿を思い起こされるかもしれません。実際に「ヤマアラシ」のトゲがとても鋭く、敵に致命傷を与えるほどの破壊力があるのです。この記事では「ヤマアラシ」について、分類や食性などのほか、「ハリネズミ」との違いや「ヤマアラシのジレンマ」との関係も紹介しています。

「ヤマアラシ」はどんな動物?

「ヤマアラシ」はげっ歯目の仲間

「ヤマアラシ」は、齧歯(げっし)目の哺乳動物で、ヤマアラシ科とアメリカヤマアラシ科の2系統があります。

アフリカ大陸やユーラシア大陸に分布するヤマアラシ科のものは地上生活を、南北アメリカ大陸に生息するアメリカヤマアラシ科のものは樹上生活を行っています。樹上生活をしているアメリカヤマアラシ科の尻尾は長く、物に巻き付けることができるという点が特徴です。

いずれも夜行性で、昼間のヤマアラシ科は岩陰や地中に掘った巣穴に潜んでおり、アメリカヤマアラシ科は岩陰や木の洞穴に隠れています。

「ヤマアラシ」は草食性

ヤマアラシ科・アメリカヤマアラシ科ともに、植物の根や木の皮のほか果実、穀物などを主に食べており、飼育下では野菜や果物が与えられています。

ヤマアラシの大きさは頭胴長が63-91cm、尾の長さが20-25cm、体重5は.4-16kg程度で、寿命は12~15年です。

「ヤマアラシ」のトゲは体毛が変化したもの

ヤマアラシ科・アメリカヤマアラシ科のいずれにも、体には針のように先がとがった固いトゲが生えています。このトゲは体毛が変化したもので、首から背中や脇腹だけでなく尻尾に普通の体毛に混ざって生えているものです。

「ヤマアラシ」は危険を察知するとトゲを逆立てて威嚇したり、尾を振って威嚇音を発しながら後ろ向きに体当たりしたりします。

敵に刺さったトゲは「ヤマアラシ」の体から抜けやすくなっていますが、抜け落ちたトゲは生え変わるようになっています。

なお、「ヤマアラシ」のトゲは飛ばすことができず、相手に向かってトゲを飛ばして攻撃するというのは、フィクションです。しかし、トゲの表面には突起があり、相手の身体に刺さるとなかなか抜けません。

「ヤマアラシ」のトゲは赤ちゃんにもある

ヤマアラシのお母さんは、一度に1~3匹程度の赤ちゃんを産みます。生まれたばかりの赤ちゃんヤマアラシのトゲがまだ柔らかく、とくに生まれたてのアメリカヤマアラシ科の赤ちゃんの体毛はふわふわしています。

しかし、ヤマアラシ科・アメリカヤマアラシ科ともに赤ちゃんの毛は数日で硬くなり、生後約2カ月で独り立ちします。

「ヤマアラシ」の英語名は「Porcupine」

「ヤマアラシ」の英語名は、「Porcupine」です。語源は古期フランス語で、「とげだらけの豚」という意味があります。また、「ヤマアラシ」の学名も「トゲブタ」という意味で、ずんぐりむっくりした身体に鋭いトゲが生えているという特徴をよく表したものといえるでしょう。

なお、「ヤマアラシ」を漢字で書く場合は「山荒」もしくは「豪猪」となり、「山嵐」とは書きません。「山嵐」は柔道の投げ技で、夏目漱石の『坊ちゃん』の登場人物の名前にもなっています。

「ヤマアラシ」と「ハリネズミ」の違いとは?

「ハリネズミ」はネズミの仲間ではない

「ハリネズミ」は名前にネズミとついていますが、ハリネズミ目ハリネズミ科に属する哺乳動物で、鼠の仲間ではありません。食虫目に分類されることもあり、分類学上「ハリネズミ」はモグラに近い生き物です。

ネズミではない「ハリネズミ」は、名前にネズミとついていないのにネズミの仲間である「ヤマアラシ」とは対照的な存在といえます。

「ハリネズミ」は肉食性

「ハリネズミ」は、昆虫やミミズのほかカエルやトカゲなどを食べる肉食性の動物ですが、「ヤマアラシ」は植物の根や木の皮のほか果実、穀物などを食べる草食性の動物です。「ハリネズミ」の大きさは「ヤマアラシ」に比べると小さく、体長15~20cm、体重250~600g程度です。

見た目のかわいらしさからペットとして人気が高まっていますが、夜行性であることや性格が神経質であることから、ハムスターやウサギなどに比べるとやや飼い方が難しいようです。

ヤマアラシのジレンマとは?

ヤマアラシのジレンマの生みの親はショーペンハウエル

ヤマアラシのジレンマの由来・語源は、ドイツの哲学者・ショーペンハウエル(ショーペンハウアー)の寓話にあります。

2匹のヤマアラシがお互いを温め合おうとして近づくのですが、近づきすぎるとトゲが刺さってしまいます。そこで試行錯誤を繰り返してちょうどよい距離を見つけるというものです。

「ヤマアラシのジレンマ」とはこの話からとられたもので、近づきたいのに近づけないという人間関係を表したものです。

ヤマアラシにヤマアラシのジレンマはない

ところでヤマアラシを実際に観察してみると、お互いにくっついている姿が良く見られます。ヤマアラシがトゲを逆立てるのは、外敵に遭遇するなど危険を察知したときで、仲間同士の場合はケンカのとき以外、トゲを寝かせているのです。

つまり、「ヤマアラシ」がお互いに寄り添いたいと思っているようなときにはトゲを立てていないので、「ヤマアラシの関係」においてヤマアラシのジレンマは通常起こらないのです。

まとめ

「ヤマアラシ」について生物学的特徴のほか、「ハリネズミ」との違いや「ヤマアラシのジレンマ」などについても紹介しました。

「ヤマアラシ」のトゲはとても危険で、猛獣を撃退するほどの威力があります。「ヤマアラシ」と同様に身体にトゲを持っている「ハリネズミ」は、ペットとして人気が高まっていますが、ネズミの仲間ではありません。また、ヤマアラシ同士の間には通常「ヤマアラシのジレンマ」は観察されないようです。