「だまし絵」とは?有名な画像や「トロンプ・ルイユ」の絵画も紹介

「だまし絵」と呼ばれる図像や絵画がありますが、それらは複数の意味に分類されます。この記事では「だまし絵」の意味や種類を解説し、よく知られた図像を紹介します。あわせて「トロンプ・ルイユ」と呼ばれる「だまし絵」の絵画についても紹介します。

「だまし絵」とは?

「ルビンの壺」

「だまし絵」には複数の種類がある

「だまし絵」と呼ばれる図像や絵画には、複数の種類や様式があります。研究者によって分類方法が分かれますが、ここでは主に採用されている4つを紹介します。

  1. 多義図形
    一般的には、一つの図像が見る人によって違うものに見える図像のことです。錯視を利用して実際にはありえない立体物を平面に描いた、エッシャーの絵画などを指します。
  2. 現実にはあり得ない物体
    二次元の平面に三次元の立体物や建築物があたかも存在するかのように精密に描いた絵画も、だまし絵と呼ばれることがあります。
  3. トロンプ・ルイユ
    あたかも存在するように存在しない窓や風景、人物などを描く「だまし絵」の技法。
  4. その他の絵画様式
    サルバドール・ダリやルネ・マグリットなどの、現実にはありえない世界を描いたシュルレアリスム絵画を「だまし絵」と呼ぶこともあります。

一般的な「だまし絵」としてよく知られる様式のうち、主な3つを紹介します。

だまし絵の種類①:多義図形(老婆と若い婦人など)

「妻と義母」
(出典:Wikimedia Commons)

見る人によって解釈が異なる図形を「多義図形」と呼びます。「隠し絵」「ダブルイメージ」とも言われます。老婆に見えたり、若い婦人に見えたりする「妻と義母(My Wife and My Mother-In-Law)」の図形がよく知られています。

「妻と義母」は一枚の絵が二通りの図像に見える絵ですが、「図と地」が反転する構造によって二通りの図像に見える「ルビンの壺」もよく知られています。黒地の背景を見ると向き合った人の顔に見え、白地の図を見ると壺に見える図です。

だまし絵の種類②:三次元ではありえない物体(無限階段など)

「無限階段」

三次元ではありえない物体や建築物を二次元の平面に描いた図像も「だまし絵」と呼ばれます。数学者のペンローズが発表した「ペンローズの階段(無限階段)」や「ペンローズの三角形」がよく知られています。

「無限階段」は箱状につながった階段を登っていくともとの場所に戻ってしまう無限に続く階段です。平面に描かれた「ペンローズの三角形」は、三本の四角柱が繋がって三角形を作る立体に見えますが、実際に三次元上に作ることは不可能な物体です。

オランダの画家エッシャーは、「無限階段」を作品『上昇と下降』に取り入れました。エッシャーの絵画も「だまし絵」と呼ばれることがあります。エッシャーは、三次元ではありえない物体や建築物、図と地が反転してゆくパターンなど錯視を利用した独創的な絵画を多数描きました。

■参考記事
「錯覚」の意味と原因とは?類語・幻覚との違いや錯覚アートも紹介

だまし絵の種類③:「目を騙す」意味の”トロンプ・ルイユ”

フランス語で「目をだます」を意味する「トロンプ・ルイユ」という絵画様式があります。

これは建物の壁面や絵画に、あたかも存在するように存在しない窓や風景、人物などを描く「だまし絵」の技法です(※実際の絵画は後述にて紹介します)。

中世のルネサンス期に入ると、遠近法が確立され、より精密な「だまし絵」が壁面や板絵として描かれるようになりました。

■参考記事
「遠近法」の意味と種類とは?遠近法によるルネサンス絵画も紹介

「トロンプ・ルイユ」と「だまし絵」の絵画を紹介

日本語では「だまし絵」とも訳される「トロンプ・ルイユ」の技法で描かれた絵画を紹介します。

ヘイスブレヒツ『食器棚のトロンプ・ルイユ』 1666年

『食器棚のトロンプ・ルイユ』
(出典:Wikimedia Commons User:Mattes)

フランドルの画家ヘイスブレヒツ(1630年頃 ~1675年頃) は、トロンプ・ルイユの絵画を専門に描きました。この絵では、本物そっくりな食器棚を描いています。17世紀の北方ヨーロッパでは、精密に描かれた静物画が人気の高いジャンルでした。

アルチンボルド『夏』1573年

『夏』ルーヴル美術館(パリ)
(出典:Wikimedia Commons User:Mattes)

イタリア出身の画家アルチンボルド(1526年~1593年)の独特な絵画も「だまし絵」と呼ばれることがあります。アルチンボルドは、果物や動植物を配することで人の顔に見える肖像画を多く描きました。

ハンス・ホルバイン『大使たち』1532年

『大使たち』ナショナル・ギャラリー(ロンドン)
(出典:Wikimedia Commons User:Dcoetzee)

だまし絵的に精密に描かれた室内絵の中に、だまし絵のひとつとも分類される「アナモルフォーシス」の画法を取り入れたハンス・ホルバイン(1497年~1543年)の『大使たち』。アナモルフォーシスとは、「歪み絵」とも訳され、特定の角度から見ることで何が描かれているのかがわかる図像です。

この絵では、手前に描かれた細長い物がアナモルフォーシスによるもので、左斜め下から見ると髑髏(どくろ)が浮かび上がります。ホルバインはルネサンス期のドイツの画家で、アナモルフォーシスを用いた絵画を多く描きました。

だまし絵「トロンプ・ルイユ」は建物にも

建物内部の壁面いっぱいに柱や天井などの建築空間が描かれ、別の空間が広がっているように描かれるものもあります。

古くはポンペイなどイタリアの古代都市の遺跡から、トロンプ・ルイユのフレスコ画が確認されています。

まとめ

「だまし絵」は、目の錯覚を利用して一つの図像が多義に見える「多義図像」や、三次元ではありえない物体を平面に描くエッシャーの絵画などを指すことが一般的です。

伝統的な絵画の技法としてのだまし絵は「トロンプ・ルイユ」と呼ばれます。古代の壁画に多く描かれ、遠近法が絵画に取り入れられたヨーロッパ中世のルネサンス期からゴシック期にも盛んに描かれました。

「トロンプ・ルイユ」の枠組みに入らないアルチンボルドの絵画や、アナモルフォーシスを用いた絵画もまた、だまし絵と呼ばれることがあります。