経済状況の変化により、「生活保護」が注目されています。しかしその制度の内容についてはあまり知られておらず、間違った認識が通説となっている例もあります。この記事では、生活保護の受給条件や、申請方法、保護費の計算方法など、制度の概要全般についてくわしく解説します。
「生活保護」の受給条件とは?
受給の条件は「最低限度の生活を維持できない状態」
「生活保護」とは、日本国憲法第25条で保障された「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有する国民に、その「最低限度の生活を保障する」ことを目的とする国の社会保障制度です。
つまり、生活保護を受給することができる条件は、「最低限度の生活を維持できない状態」にあることとなります。
ただし、「最低限度の生活を維持できない状態」であることに加えて、いくつかの保護の受給の条件が生活保護法に定められており、受給にあたってはそれらの要件を満たす必要があります。その要件とは、「利用し得る資産の活用」「能力の活用」「扶養を優先」「他法による手当を優先」です。
具体的な内容は以下にまとめています。
「生活保護受給」の条件とは?申請時の条件や打ち切りについても
「収入」が「最低生活費」に満たないことが条件
先に説明した保護の要件と、もう一つの保護の判定基準として大切なものが、その人の収入が「最低生活費に満たないこと」です。逆にいえば、最低生活費以下の収入しかない場合には、生活保護を受けることができます。
「最低生活費」とは、最低限度の生活を維持するために必要な生活費のことで、年齢や家族構成、地域ごとに設定されている計算式に従って算出されます。計算方法については、のちほどくわしく説明します。
生活保護と収入の関係について、くわしくは以下の記事をご覧ください。
「生活保護」を受ける条件と「収入」との関係は?ポイントを解説
「生活保護」の申請手順とは?
福祉事務所に相談することがはじめの一歩
生活が困難で生活保護を受給したいと思った時は、最寄りの福祉事務所に相談することがはじめの一歩です。福祉事務所とは、生活保護法や児童福祉法に定める援護や事務をつかさどる社会福祉の行政機関です。
都道府県や市には必ず設置されていますが、町村は任意設置であるため、福祉事務所が設置されていない町村については、町村役場の中に福祉担当窓口が設置されています。
相談の上、保護を申請したいと考える場合は、手続きを行います。申請すると、保護の条件を満たすかどうかの調査が行われます。条件を満たし、保護が決定されると、保護費が毎月前払いで支給されます。
申請の手順や申請後の条件調査について、くわしくは以下の記事をご覧ください。
生活保護の申請手順とは?申請後の条件調査や必要書類・問題点も
ホームレスでも受給申請できる
日本に居住する誰もが生活保護を申請する権利を有することが法律で定められています。住まいが無い人、住民登録をしていない人、税金を払っていない人なども、保護の申請を行うことができます。
コロナ禍において、仕事と同時に住まいを失う人も増えたとの報道があります。住まいがないことを理由に保護の申請を断った福祉担当者がいたということがニュースにもなりました。しかしこの対応は違法です。
ホームレスと生活保護の関係については以下の記事にまとめています。
ホームレスは「生活保護」を申請できる?法律や支援施設も解説
「生活保護費」の金額や計算方法は?
「生活保護費」=「最低生活費」-「その世帯の収入」
「生活保護費」は、厚生労働大臣が定める「最低生活費」から「その世帯の収入」を引いた金額となります。「最低生活費」は居住地や世帯構成等の条件から計算されるため、それぞれのケースごとに異なります。
※計算式は、厚生労働省のホームページにPDF資料が掲載されています。
「生活保護費」の内訳は「生活扶助」+「各種扶助」+「各種加算」
「生活保護費」は、その世帯に応じた各種の扶助額と各種の加算額を組み合わせた金額となります。生活費である「生活扶助」を基本として、状況に応じて「教育扶助」や「住宅扶助」、さらに「母子加算」や「児童養育加算」などが加わります。
参考例として、3人家族における生活扶助と児童養育加算からなる生活保護費は、東京都で約15万円、地方部では13万円です。
生活保護費について、くわしくは以下の記事をご覧ください。
「生活保護費」の金額はいくら?計算方法や内訳・加算金も解説
「生活保護受給者」の医療費は現物給付
生活保護受給者は、国民健康保険への加入対象からは外されています。そのため、ほとんどの生活保護受給者の医療費は、公的医療保険制度からの給付ではなく、医療扶助として現物給付が行われます。
現物給付とは、現金給付ではなく、サービスなどが直接支給されるものです。生活保護の現物給付には他にも介護サービスがあります。
「医療費」についてくわしくは以下の記事をご覧ください。
「生活保護受給者」や生活保護申請中の「医療費」は扶助される?
「生活保護受給者」と「介護保険」「年金」の関係は?
生活保護受給者の「介護保険料」は生活扶助で支給される
生活保護受給者も要介護状態となったときは介護保険のサービスを受けることができます。介護保険料の支払いはどのようになるのでしょうか?
介護保険制度においては、65歳以上の人は「第1号被保険者(直接介護保険に加入)」となり、40歳~64歳の人は会社の被用者保険や国民健康保険を通じて「第2号被保険者」となります。
65歳以上の生活保護受給者も、一般と同じく「第1号被保険者」となり保険料を支払う必要があります。しかしその保険料は「生活扶助」に加算されて支給されるため、実質的には無料となります。
生活保護受給者と介護保険の関係は以下の記事にまとめています。
「生活保護受給者」と「介護保険」の関係!自己負担はどうなる?
年金受給者は「年金」と生活保護費を一緒に受給できる
65歳から受け取ることができる老齢年金を受給している人が、年金額が少ないために生活に困窮する場合、年金を受給しながら生活保護も受給できるのでしょうか?
年金受給額が、「最低生活費」に満たない場合は、その差額分の生活保護費を受給できます。逆に、年金受給資格がある場合には、生活保護に優先して活用することが求められます。
生活保護と年金の関係は以下の記事にまとめています。
生活保護受給者は年金を受け取れる?生活保護条件や保護費も解説
「生活保護」と世帯分離との関係やデメリットについて
「生活保護」世帯から大学に進学する人は「世帯分離」を行う
生活保護は世帯単位で行われるのが基本です。しかし生活保護世帯の人が大学に進学する場合には、生活保護費から大学進学費用をまなかうことは認められていないため、世帯分離を行って生活保護から外すという処置が行われます。
生活保護においては、「生計を一にしている者」が同じ「世帯」として認定されますが、生活保護における「世帯」は「住民票の世帯」とは異なる概念です。
生活保護における世帯分離については以下の記事にまとめています。
「生活保護」における「世帯分離」の意味と目的とは?事例も紹介
「生活保護」と「持ち家」「車」との関係とデメリット
持ち家や車を処分しなければ生活保護を受けられないのではないかと考える人が多いようです。実際には、一律に処分をしなければならないわけではありません。
また、保護を受ける期間は、福祉事務所に収入や生活状況の報告の義務が発生します。自立に向けてケースワーカーからの指導を受ける必要もあります。それらをデメリットと感じる人もいるようです。
生活保護を受ける際の持ち家や車の考え方や、デメリットと感じられる事柄については、下記の記事にまとめています。
「生活保護」のデメリットとは?生活保護受給者の義務も解説
まとめ
「生活保護」は、国民に保障された基本的人権のひとつである「生存権」を国が保障するための制度です。なんらかの事情によって困窮した場合には、無差別平等の原理から、医療保険に入っていなくとも医療を保障し、住まいがなければ住居を保障し、生活費やその他必要な手当てを給付します。困窮にいたった理由を問われることもありません。
しかし、保護の要件である「扶養を優先」がネックとなり、家族に連絡がいくことを嫌がって申請を躊躇するケースが多いことが問題となっていました。これについて、厚生労働省は令和3年2月に「扶養照会」を「保護の要件」ではないとの認識を示し、扶養義務履行が期待できない場合には照会を行わないことを通知しています。